063:魔王城の朝は早い②
「いただきます……うまっ!」
エノンの作る朝食は相変わらず美味い。
野菜や果実のサラダなど、人間界では高級品とされる品々もふんだんに使われていて、栄養価も高そうだしバランスが取られている。
質も量も申し分なく、ヴィータは朝からの贅沢な食事に体が喜んでいるのを感じた。
(もう体は限界まで鍛え抜いたと思っていたが、ここに住んでいたらまだまだ強くなれそうだな……)
体を作るための基本は食にある。
だが、食の質を上げるには金がかかるのだ。
ヴィータは勇者などと呼ばれてはいたが、そこまでの大金持ちではなかった。
勇者パーティの仲間たちにくらべても、落選者であるヴィータへの配分だけが少ない事は良くあった。
理由は「貢献度」だ。
魔法剣を使えないヴィータが他の勇者たちほど活躍できるワケがないと、ヴィータの戦いを見たこともないギルドの上層部はそう判断するのである。
(よくよく思い出すと、我ながら酷い扱いを受けて来たものだな。討伐数だけを見れば、確かに俺の貢献度は低いと言えたのかも知れないが……)
ランクの低いモンスターほど良く群れるもので、クリムはそんな低ランクモンスターを魔法剣の炎で一網打尽にしていた。
その姿は見栄えもするし、モンスターを倒したという実績の数は稼げるだろう。
だがそれが通用するのはせいぜい相手がBランク程度までの話だ。
Bランクでも個体によってはそんな大雑把な戦いは通用しなくなる。
実際、Bランク以上のモンスターはほとんどヴィータが倒してきた。
ヴィータが弱らせた高モンスターに止めを差すパターンは何度かあったが、クリムたちが単独でそれらを倒す様子は見た事がなかった。
(そういえば、クリムが倒したモンスターのランクって最高でいくつだっけ……?)
一気に危険度が増すSランクどころか、それ以下のAランクすら倒していない気がした。
いや、そもそもBランクすら「ほとんど」ではなく「全て」ヴィータが……
(いやいや、そんなワケないか。良い性格とは言えなかったが、腐ってもクリムは人類最高の魔法剣の勇者なんだから)
さすがにそれは気のせいだろうとヴィータは考えるのを止めた。
捨てられたとは言え、元は仲間だ。
そんな人たちの事を悪く考えるのは、決して良い事ではないと思った。
ともかく、そんな勇者たちですら一般的な冒険者よりは稼いではいても、王家や貴族に比べれば資金力では劣るのだ。
本当に良い食材はそんな貴族たちに持っていかれてしまい、ヴィータが理想とする食事は出来ていないのが現実だった。
だが、今ヴィータの目の前にあるのはそんな理想にかなり近い豪華な食事である。
(贅沢な食材に、しかも一流のシェフ付き。魔界、最高か……)
最後に出てきた焼き飯を食べ終わると、ちょうどヴィータのお腹はいっぱいになる所だった。
昨日のヴィータの食事から最適な分量を調整してくれていたようだ。
エノン、できるメイドである。
さすが元魔王なだけはある。
なんて良く分からない事を考えながらヴィータは朝の食事を終えた。
「ごちそうさま」
今日こそは……と、食べ終わった皿を運ぶのを手伝おうとしたヴィータだったが「いいから早くオトワに会い行ってあげなさい」とエノンにやさしく断られた。
面と向かってそんな事を言われると、なんだか「ラブラブな2人」みたいに聞こえて気恥ずかしさを感じるのだが、実際にヴィータはオトワに「ゾッコン」なのだから返す言葉もない。
「わかった。ありがとう」
ヴィータはそれだけ伝え、食器はエノンに任せる事にした。
オトワの所へ早く行こうと食堂を出る。
薄暗い地下室への階段には青白い明かりが灯っている。
一見すると不気味な光景だが、その先にオトワがいると思うとむしろ幻想的で綺麗にも思えてくるから不思議だった。
ヴィータは自然と小走りになり、地下室への階段を駆け下りた。
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