062:魔王城の朝は早い①
「ほら、起きなさい人間! 朝食の用意ができてるわよ!」
ヴィータはカンカンと甲高い音とエノンの声で目を覚ました。
カーテンが開かれ、暗い部屋に朝日が差し込む。
「ん~、おはようエノン。ありがと……」
寝ぼけ瞼をこすりながら起き上がると、なぜか手にフライパンとオタマを持ったエノンと目が合う。
するとナニかを思い出したかのようにエノンがピタリと動きをとめた。
そして徐々に顔が赤らんでいき……
「べ、別にアンタのために作ったワケじゃないんだからねっ! マインお姉さまたちのついでなんだからっ! カンチガイしないでよねーっ!?」
と、逃げるように去って行った。
「元気だなぁー」
城のメイドであるエノンの朝は早い。
スケルトンだが俺やオトワより早く起きて起こしてくれるのだ。
骨なのに顔が赤くなるのはどういう仕組みなのか……エノンの揺れるツインテ―ルを見ながらヴィータはそんなことを考えたが、謎である。
結局、いくら気にしても仕方がないので気にしない事にした。
ヴィータがフカフカのベッドから起き上がると、隣にオトワの姿はなかった。
部屋にもいない。
ここはオトワの部屋であり、オトワのベッドだ。
城には部屋なんていくらでもあるらしいのだが、オトワの「一緒の方が絶対に楽しい!」という理由によりヴィータはオトワと同じ部屋で過ごす事になったのだ。
部屋には、あまり物は多くない。
ヴィータの脳内でイメージされる「女の子の部屋」はギルドの受付嬢たちの話を元に構成されているが、そんな「ピンクだらけ」だったり「ヌイグルミだらけ」だったりしたカワイイが詰め込まれた部屋ではなかった。
品のある落ち着いた家具と装飾。
決して派手すぎず、可愛らしすぎもしない、飾りすぎない程度にシンプルにまとまった部屋。
ベースが城だからだろうか、どちらかと言えば貴族のお嬢様の話に近いイメージだ。
しっとりと落ち着いていて、快活なオトワのイメージとは少し違う。
主張が激しいのはなぜか天井の近くで浮いている巨大なサメのオブジェくらいだろう。
最初は魔界特有のライトか何かと思ったが、本当にただのオブジェのようだ。
サメが好きなのだろうか。
(そんな意外性も、良い……)
ヴィータはギャップ萌えを感じつつ、大きく伸びをする。
静かで平和な朝だった。
人間の世界で持っていた魔界のイメージとはかけ離れている。
だが、心地よい。
「どこ行ったんだろ、オトワ」
昨晩はオトワと一緒に寝たハズなのだが、オトワはすでに起きてどこかへ行っているようだ。
すでに朝食が用意されている時間らしいので、先に食堂にいるのだろうか。
と、裸のままで城をうろつくわけにもいかないのでヴィータは一先ず服を着た。
ゾンビやスケルトンといったアンデッドには夜行性のイメージがあったヴィータだが、この城ではそんなことはなく、むしろスライムのオトワが一番遅く起きるくらいだ。
ゾンビになったマインに関してはそもそも寝る必要がないらしい。
その代わりにたまにフリーズするらしいのだが、それは寝るのとは違うのだろうか……と、ヴィータは気にしない事にしている。
意味不明だがそれが普通らしい。
これが魔界か……。
と、ヴィータは謎に納得しながら顔を洗い、食卓へ向かった。
「あれ?」
ヴィータの予想に反して、食堂には誰もいなかった。
ただでさえ広い食堂が寂しく映る。
厨房からエノンがひょいと顔をのぞかせた。
というか頭蓋骨だけ浮いていて、厨房では鍋をガシャガシャと降る音やら香ばしい匂いやらが漂ってくる。
それくらいではもう驚かないヴィータだった。
エノンはヴィータがちゃんと服を着ているのをチラリと確認し、ホッとしながらいつもの様子に戻る。
「もうみんなは食べちゃったから、残りはアンタの分よ。ササッと食べちゃいなさい。下でオトワが待ってると思うから」
下、とは恐らくマインの地下室の事だろう。
ヴィータは良く分からないままだったが、とりあえず言われたとおりにする事にした。
食堂の大きなテーブルには(恐らくは)一人分の色鮮やかな食事が用意されていた。
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