ヴィータのパンチ気持ちよすぎだろ!~S級勇者パーティから追放されたハズレスキルの拳聖が実は最強だった件。SSS級魔王パーティに誘われたので楽しく暮らします。人類は滅亡するけど今更謝ってももう遅いです~
059:勇者はダンジョンへと挑む① ~追放サイド~
059:勇者はダンジョンへと挑む① ~追放サイド~
暗殺者ギルドでの出来事から、翌日。
早朝、勇者クリムは冒険者ギルドに出向いていた。
「よし、みんな準備は良いか?」
そこにはクリムをリーダーとするSランク勇者パーティ
「はい! クリム様、いつでもいけます!」
「同じく、いつでもいける」
「…………」
彼らは出発の準備を終え、これから仕事に向かうところである。
その仕事とは冒険者ギルドからの依頼、ダンジョン攻略だ。
「クリム様、久々のお仕事ですね! 腕が鳴ります!」
「確かに久しぶりね」
「…………」
超大国ズァナルから北へ進むと、そこには巨大な防壁が連なっている。
それは人間界と魔界を隔てる境界線だ。
魔界とはモンスターの領域であり、人が住めるような場所ではない。
防壁を超えた先にまず広がるのは、広い灼熱の荒野。
その先には植物すらも人類に牙を向く魔の森。
そして氷山と火山を超えて古の都へとたどり着くと、そこに魔王城がある。
勇者パーティの活躍により城の主である魔王はすでに討伐されており、魔王を失った魔王城などただの廃墟でしかない。
だが魔王が消えても全てのモンスターが消えるわけではなかった。
魔界にはまだモンスターたちが残っており、その巣穴とも言われているダンジョンも未だに残っている。
そんなダンジョンの1つを踏破するのが今回の仕事だ。
つまりは残党狩りである。
「あぁ、久しぶりの仕事だ。残党狩りだからって気を抜くなよ?」
「はい! 気を引き締めます!」
「わかってるわ」
「…………」
ターゲットとなっているダンジョンは荒野のダンジョン。
荒野は人間界にもっとも近く、魔界の中では危険度も低い。
モンスターも魔界の奥に比べればザコだと言える。
だが魔界である事には変わりはない。
灼熱の荒野に何の対策もなしで放り出されれば、その熱と乾きによって普通の人間は1日ももたずに死ぬだろう。
(…………チィ、しばらく荒野には近づきたくなかったんだがな)
クリムたちの元へと緊急依頼としてこの残党狩りが入ってきた時には正直、クリムはかなり焦った。
ヴィータ追放のタイミングと近かったからだ。
できればヴィータが確実に死ぬまで時期をずらしたかったが……依頼主が王家と強いつながりを持つとある貴族らしく、今後の計画を考えると簡単には断れなかった。
(いや、大丈夫だ。俺様は選ばれてる……こんな所で
ヴィータを追放してからもう2日経っているのだ。
追放地点はダンジョンから離れた場所に指定したし、そもそもすでに死んでいるのが普通だ。
何の問題もない。
自分にそう言い聞かせ、クリムは仲間と共にギルドを出発する。
「クリム、ちょっと良いか? 話がある」
朝から多くの人で賑わう街の大通りに差しかかった所で、キキーがクリムを呼び止めた。
ピキ…………、とクリムは頬を引きつらせた。
(おいおいおいおい、落選者のヴィータには「さん」をつけておいて、この勇者であるクリム様には呼び捨てかよ!? このペッタンコのメスガキがぁ!!)
「どうした? 木の勇者キキー、君から声をかけてくるなんて珍しいじゃないか。明日は雷の槍でも降るんじゃないか?」
「…………」
クリムは大勢の人前であるためギリギリで笑顔を保ったが、内心ではブチ切れながら立ち止まって振り返る。
そしてせめてもの皮肉を添えてみたのだが、キキーはまるで無関心のようで表情一つ動かさなかった。
「ねぇオリバ、そういえばストマック通りに新しいカフェができたらしいわよ」
「えっ? そうなの! 行ってみたーい!」
「ふふ、そう言うと思って予約しといたわ。この仕事が終わったら行きましょ?」
「さすがアイリー!! 大好き!」
「オ、オリバ……! ふひ、ふひひひひ……!」
わずかな沈黙の間に、人ごみに流されてオリバとアイリが離れていった。
(気を抜くなと言っただろうが……!! あのアホども……!!)
遠のいていくその気の抜けた会話にクリムの苛立ちは加速するが、今はそれを誰にぶつけるわけにもいかない。
笑顔を保ったまま、まずは目の前のキキーに集中する。
クリムもキキーの様子は気になっていたのだ。
もともと無口なキキーだったが、ヴィータを追放してからは以前にも増して口数がなくなった気がしていた。
今日もさっきまでは一言も発してなかったくらいだ。
また、ヴィータに関する問題なのか……?
そう考えるとなんだか嫌な予感がしてくる。
「キキー、どうした?」
できるだけ勇者らしく、紳士的に言葉を待つ。
キキーは少し悩む様子を見せたが、意を決したようにハッキリと言った。
「この仕事が終わったら、私はパーティを抜ける」
「は!?」
予想していたなかった言葉に、今度こそクリムの笑顔が崩壊した。
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