058:魔王パーティへようこそ!③


「我は、誰も傷つかないような平和な時代を作りたいんだ!」


 オトワはヴィータに自分の夢を語った。


「もちろん、そんなモノは夢物語だって笑うヤツらもいるのは分かってる。それでも、それが見られる夢なら、この目で見ていたいんだ」


 オトワの瞳には宿る強い意志の根源を、ヴィータはその言葉の中に見た気がした。


 ヴィータは自分が少し恥ずかしくなる。

 オトワのような芯が自分にはない事に気づかされるからだ。


「それに、前にも少し話したが……多分、我には王の血が流れている。だから我はただのスライムとは違う姿に進化できた」


 オトワの生まれの話は確かに以前、聞いていた。

 オトワも幼い頃にはヴィータと同じ、戦いばかりの日々を送っていたのだ。


「でも同時に、進化した我には王家の血を引く者としての責任があるハズだ」


 それはオトワの中でも明確に言語化できているものではい。

 だが確かに自分の中に感じる感情。


 民を、街を守りたい。

 いつからか聞こえるようになった自分の中のそんな声に、オトワは向き合っている。


 先ほどまでの甘ったるい表情とは違う、強い意志を感じさせるオトワの姿。

 ヴィータはオトワの民を思う王の風格を、その姿から感じ取っていた。


 ヴィータは人間界を統括する超大国ズァナルの王ヒュドロゲヌスの、私欲に濁った眼を思い出して恥ずかしい気持ちになるくらいだった。


「俺にその手助けができるなら、いくらでも手を貸すさ」


 ヴィータはほとんど無意識のうちに、そんな言葉を恥ずかしげもなく伝えていた。

 伝えてから、それに気づいて頬を染める。


「うん♡  ありがとう……ダーリン、やっぱり大好きだ♡」


「うおぉぉ!?!?」


 オトワはそんな様子を見逃さず、ただただ感じた愛しさを全身で伝える。


「ちょっとオトワー? アンタ着替えくらい持っていきなさいって言ってるでしょー? ここに置いておくわよー?」


 ヴィータとオトワの着替えを持ってきたエノンが大浴場に姿を現したのは、ヴィータがそんなオトワの熱烈なアプローチから反射的に緊急退避しようと湯船から上がったタイミングだった。


「ちょ、ちょちょ、アンタたちなんで一緒に入ってんのよ!?!? それってハレンチ………」


 一糸纏わぬ姿の、生まれたままのヴィータに、エノンの視線が釘付けになった。

 ヴィータも混乱して思考を停止、石像のようにその場に固まった。


 そしてもちろん、鍛え抜かれたヴィータのヴィータも丸見えになるわけで……


「きゃ、きゃあ~~~ッ!?!?」


 エノンは人間のスケルトンである。

 だから人体の仕組みや作りを熟知している。


 だがそれは知識として、である。

 なぜならエノンは人間のスケルトンであり、骨しか知らない。

 は、その実際の形を見たことがないのである。


「に、人間、お、おち、男の、ちん………………おチンッ!!!!」


 謎の断末魔を上げて倒れるエノン。


「大賢者は何でも知っている。なんだかみんながここで楽しそうな事をしている事も。混ぜろ」


 そしてそんなタイミングで計ったかのように何故か乱入してくるマイン。


「なんだ、みんなもお風呂か? よーし背中流しっこしよう!!」


 と謎の天然を発動するオトワ。


 シリアスになりかけた空気は霧散し、こうして魔王城の夜は騒がしく過ぎていくのだった……。

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