057:魔王パーティへようこそ!②
「ふぉ~~~~~~、気持ちぃ~~~~~~」
大きな浴槽に肩までつかると、ついついそんな気の抜けた声がでてしまう。
少し暑いくらいのお湯の温度がちょうどよく体の疲れに染みてくるようだった。
いろいろあった結果、ヴィータはオトワと並んで湯船につかっている。
お互いすっかり体の汚れも落ちて、すっきりした気持ちだった。
ヴィータの隣で無防備に体を伸ばすオトワの体はもう人間の女の子そのものであり、スライムであることを忘れそうになる。
熱でほんのりと上気した頬、水を弾く透き通るようにきめ細やかな白い肌、2つの大きな膨らみの間にたまった湯水、湿って体に張り付く長い髪の毛……。
そしてそんな美しいオトワの姿が恥ずかしすぎて直視できないヴィータの目は常に泳いでいるのだった。
そもそもスライムがお湯に入って大丈夫なのか、溶けたりしないだろうか……なんて最初は心配していたヴィータだったが、それは余計な心配だったようだ。
「改めて、我らが魔王パーティへようこそ、ダーリン♡」
オトワがからかうようにワザと体を密着させ、ヴィータにしなだれかかる。
「お、おう!」
と、良く分からない返事をするのがヴィータの精いっぱいだった。
「我はダーリンが仲間になってくれて、本当に嬉しいんだ♡」
仲間、という言葉に、ヴィータは不意にチュチュの姿を思い出していた。
なかなかに激しい性格のようだったが、それでもオトワにだけ忠誠を誓うかのような態度だった。
きっと2人は過去に何かあったのだろうが、それをヴィータが知る由もなく、また知る必要もないと思っていた。
必要な時が来れば、きっとオトワから話してくれるだろうと、ヴィータはそう信頼しているのだ。
だが、チュチュに対しては少しだけ申し訳ない事をしているような気もしていた。
オトワと出会ったばかりの自分が彼女からパーティの座を奪ってしまったかのような……そんな小さな罪悪感を感じてしまったのだ。
そんなヴィータの様子を表情から敏感に感じ取ったのか、オトワもチュチュの名を口にする。
「ダーリンはチュチュを仲間にした方が良かったと思うか?」
「え? それは……」
急に図星を突かれたようで、ヴィータは少しだけ口ごもった。
「正直に言えば、実力は問題ないかと思ったけど……」
チュチュは充分に強かった。
SSランクだと言っていたが、SSSランクでもおかしくないくらいに。
ヴィータは自分の勝利は戦略、経験、あるいは相性の差だろうと分析しているくらいに、チュチュの実力を買っていた。
「うん! 同じだな! 我もそう思うぞ! チュチュは本当に強い!」
ヴィータの予想に反して、オトワも思いっきり賛同してくる。
たしかに決闘の後もそう言っていたが、そうは言ってもパーティ加入には実力が足りない……そんなニュアンスかと思っていたのだが、そうでもないようだ。
オトワもチュチュの実力をしっかり認めている。
「え? じゃあ、ランクが問題なだけなのか?」
「いや、ランクなんてただの言い訳だな。問題はチュチュの性格と、戦い方なんだ。あの子は、きっといつか大きなケガをすると思わないか?」
「それは……」
言われて、共にダンジョンを攻略する姿を想像してみる。
最前線に突っ込んで行く姿が容易に想像できた。
あるいは、大好きなオトワやその仲間を守るために無茶をする姿だ。
「……危なそうでは、あるな」
「だろ?」
とオトワにしては珍しく苦い笑みを浮かべる。
「それにチュチュは我の事が大好きだろ? きっと我を守ったりしていつか大怪我をすると思うんだ!」
そしてヴィータが考えたことを同じ事をオトワも口にした。
「やっぱり、そう思うよな……」
「うん。我やマイン、エノンは高い再生能力があるから多少の大ケガも全然平気だ。だけど、我らと違ってサンダーバードという種族はあまり高い再生能力を持たないんだ。もし大怪我をすれば、それがずっと残る事にもなりかねない」
ヴィータはそんな人間の冒険者をたくさん見て来た。
腕や足、目や耳や鼻……人間の回復魔術や魔法剣の回復スキルでは欠損した部位までは再生できない。
そのレベルのケガを負えばずっとそのケガと付き合って生きていくことになる。
仲間や友人のそんな姿に悲しむ人たちも大勢いたのだ。
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