053:魔界的、登録テスト延長戦②


「おい、人間!! 完膚なきまでに叩き潰したるさかいな、覚悟しときぃや?」


「おう」


 そろそろ始めるで、とチュチュが表情を切り替えてわずかに腰を落とした。


 と、そのタイミングでオトワが口をはさむ。


「ちなみに、ダーリンならそれを破壊できるか?」


「ん? まぁ、できるかな……」


 ヴィータの手にはチュチュが作った雷の槍がある。


 オトワに誘導されて引き抜いたのは良いが、これから戦う相手に武器を返すのも変な感じがして「どうしたものか……」と考えていた。

 そして決闘が終わったら返そうかな? くらいの軽い考えでとりあえず持ったままにしていたのだが……


 バチバチバチイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!


 試しに握りつぶしてみると、握った部分から潰れ、そして連鎖するように雷が弾けて爆発するように槍は消えていった。

 ヴィータは当然のように立っているが、普通の人間なら死んでいるレベルの電撃が流れていた。


 破壊はできたが、中々の硬度である。


 さすがはSSランクだな、とヴィータは目の前の少女に敬意を表し……


「さすがダーリン♡ ちなみに、決闘で相手の突き出した武器を破壊するのは『いつでもどこからでもかかって来いよ! お前なんて素手で返り討ちにできるわ!』という意思表示だぞ!」


「えぇっ!?!?」


「~~~ッッッ!! やってくれるやないかいッ!! SSランクのウチなんて素手で充分ってか!? 人間~~ッッ!! 由緒正しきサンダーバード、ナメんなやッ!!」


「だから俺は何も知らないってば!?」


 当然ながらチュチュを怒らせてしまっていた。

 その髪の毛の逆立ち具合が凄まじい事になってしまっている。


 まさに怒髪天を突くといった感じだが、髪の毛の周囲にはなにやら電気まで走り出している。


 そしてそれが決闘の始まりの合図になった。


 チュチュが地面を蹴っていた。

 巻きあがる砂埃と共に、空気が震える。


 チュチュの性格を表したかのように、真っすぐで迷いのない突進。

 そしてその手には雷。


 普通の人間なら認識すらできない領域の音を超えた超速度スピードだ。


 パシン、と突き出されたチュチュの拳をヴィータは片手で受け止めた。


「へっ?」


 遅れて、バチン! と電気が弾けるような破裂音がヴィータに届く。

 それはチュチュが地面を蹴って踏み出した時の音だ。


「……っ!! や、やるやないか! 目ぇだけは良いみたいやな! ほんなら、これはどうや!?」


 いとも簡単に拳を受け止めらた事に、チュチュはほんの一瞬だけ唖然とした。

 本来ならばもっと凄まじい威力を誇る自慢の拳が、まるで手品のように無力化されたのだ。


 だが、チュチュはすぐさま行動パターンを切り替え、その拳にまとっていた雷を炸裂させた。


 それは落雷そのものである。


 放たれた雷が周囲の空気の温度を一瞬にして超高温にまで加熱し、一気に膨張させる。

 その衝撃が大音量で鳴り響いた。


 バァーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!


 ヴィータの全身を強烈な電流が流れる。


 今度こそやったで!

 これは完全に直撃や!

 ドラゴンすら殺す雷や!

 人間に耐えられるはずない!


 チュチュはその手応えにニヤリと笑う。


 魔王様がSSSランクと認めた相手を倒せば、それは実質的にウチもSSSランクってことやろ!?

 パーティ加入はもろたで!!


 と、念願の魔王パーティに加入する自分の姿を思い浮かべる。


 そんなチュチュの夢を打ち砕くように……バリバリと空気が破裂する音の余韻が残る中、ヴィータは平然と言い放った。


「うん、痺れるな。肩が少し軽くなった気がするぞ」


「んなぁ!? ドラゴンすら一瞬で感電死するウチの雷撃が!?」


「え? ドラゴンってFランクなんだろ? 手加減のつもりか?」


 目の前でSSSランクを叩きだしたと言うのに、Fランクに通用する程度の攻撃とは……随分と見くびられたものだ。


 と、ヴィータは強がった。

 なぜならオトワが見ているからである!!


 気になる女の子の前では普段以上に自分を強く見せたがる……それが男子の思考回路なのだ。


 そしてオトワも「さすがダーリン♡」と大喜びである。

 そんな可愛い姿にヴィータは余計に「かっこ悪い所は見せられない!!」と強がりを加速させるのだ。


 実際の所、チュチュの雷はそうとう凶悪だった。

 普通なら鼓膜は破れ、全身が重度の火傷で爛れ、そして細胞すら焼け死ぬだろう。

 そもそもそれ以前に消し炭になって終わりかも知れない。


 しかも電流はわずかでも触れればそこから一気に流れ込んでくるのだ。


 まさに一撃必殺。

 そんな攻撃をもろに直撃しておいて、無事なワケがない。


 ヴィータは尋常ではない鍛え方のおかげで致命傷には至らなかったが、それでも痛いものは痛い。

 めちゃくちゃ痛いのである。


 そもそも最初のパンチも実はかなり痛かった。

 音速を超えた速度のパンチなのだから当然である。

 受け止める瞬間に手首をわずかに動かし、そして完璧なタイミングで脱力するというヴィータの超人的な技術によってその衝撃を軽減したが、それでもヴィータに痛みを与えるほどの威力なのである。

 普通の人間ならかすっただけで跡形もなく粉々になる威力だろう。


(Fランクを相手にするレベルの攻撃でこの威力……なのにこの子がSSランクかよ。さすが魔界だな……!)


(ドラゴンがFランクになったのは魔王さまがおかしいからやろがッ! 普通に強いわドラゴンッッ!! こっちはガチでやってんねん!! ほんま何者やねん、この人間!?!?)


 痛みで余計な事をしゃべる余裕がないヴィータと、自信満々だった攻撃をいとも容易くあしらわれて混乱するチュチュ。


 お互いに内心で相手を強敵だと認め合いながらも、だがそれを口にする余裕がないがために互いに「まだ余裕があるのかよこの化け物!」とちょっと引き気味になりながら……決闘は続く。

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