052:魔界的、登録テスト延長戦①
「さぁ、始めるで!」
ヴィータとチュチュは中庭の中央へと移動した。
チュチュが軽く屈伸などの準備のを尻目に、ヴィータはいつも通りそこに立っていた。
大きなダンジョンの攻略などでは数日かけてダンジョンの奥まで進行する事もある。
そんな時は比較的安全そうな場所で眠り、仲間が交代で見張りをしたりするのだが、ヴィータのいた勇者パーティではヴィータが見張りを一任されていた。
理由は簡単で、寝ていても敵の気配を逃さないからである。
元々そんな芸当が出来たわけではないが、落選者として勇者クリムから嫌がらせを受け、ずっと見張番をやらされていた。
そのためダンジョン攻略の時には徹夜で戦うなんてことも良くあったが、それを克服するために鍛錬を続けた結果、そんな芸当ができるようになった。
そして同時に、ヴィータは寝起きからでも瞬時に戦闘モードに移行できるようになっていた。
つまりは準備運動が必要ないのだ。
ヴィータにとって戦いは格闘や運動ではなく、ただの日常なのである。
「あんなテスト、何かの間違いや!! 魔王さまはその人間に騙されてるんや!! ウチが目を覚まさせたる!!」
チュチュはヴィータに決闘を挑みながらも、その関心は常にオトワにあった。
「我はバッチリ目覚めてるぞ? あとチュチュ、何度も言うが……我はまだ魔王ではないぞ! これから魔王になるスライムだ!」
「ウチにとってはいつだってアンタが魔王さまや! ウチも魔王様のパーティに入って魔王様のために戦いたいんや!!」
ヴィータへの辛辣な言動とはうってかわって、チュチュはオトワへは忠誠心にあふれているらしい。
「入れてあげたら?」
ヴィータは素直にそう思った。
チュチュはその言葉に反応してピカーンと瞳を輝かせながらオトワをチラ見する。
だが、それに対するオトワの表情は予想外に真剣だった。
「悪いが我のパーティは最強SSSランクパーティだからな。SSランクのチュチュでは実力不足だ」
出会ったばかりのヴィータをパーティに誘くくらいだから、あまりよく考えていないのかと思っていたが、それはヴィータが特別なだけである。
オトワは魔王パーティとして、ある種の責任を持っていて、そのために「仲間にするべき相手」をしっかりと選別していた。
「我がリーダーを務めるのは魔界最強の魔王パーティだ。みんな我と同じくらい強い。まぁ最強は我だけどな!」
「ウチもSSランクやで!! すぐにSSSランクになる!! ええやんかー!!!!」
「ダメだ! SSSランクになってからだ!!」
「魔王様のドケチ!! ドケチンボ!!」
「何とでも言っていいぞ! わっはっは!!」
まるで母と子か、仲の良い姉妹のようである。
「……SSSランクってオトワ以外もこの街にいるのか?」
SSSランクは最強ランクだ。
そう多くはいないハズのランクである。
「この街というか、我の城にいるな。というかマインとエノンの事だが」
「えっ!? 大賢者マインもパーティの仲間なのか!?」
一緒に城に住んでいるからただの友達かと思っていたが、そうではなかった。
そういえばオトワはマインを「参謀」だと紹介していた事をヴィータは思い出す。
そして城の参謀という言い方だったが、それはパーティの参謀も含んでいたらしい事に思い至った。
「魔王と元魔王……マジで『SSSランク魔王パーティ』なんだな……」
「マインが元魔王なら、エノンもそうだな。マインが人類の英雄として戦っていた相手がエノンだからな!」
「えっ!? えぇ~っ!?!?」
大賢者マインと相打ちになったという魔王は、実はその正体がわかっていなかった。
なぜならその魔王と戦ったのはマインだけだったため、その魔王に関してはマインが残した情報しかない。
そしてマインは魔術以外の情報をほとんど残っていないのだ。
結果として、ただ当時の英雄であり大賢者であったマインを苦しめるほどの凄まじい強さの魔王がいた、という事実だけが語り継がれていったのである。
それがまさか、あのメイドのエノンだったとは驚きである。
「我にも2人の関係は良く分からんが、そうらしいぞ! 面白いよな!」
とオトワはケラケラと笑って話すが、人類にとってはかなり恐ろしい話である。
人類最大の敵である魔王がリーダーを務めるどころか、さらに仲間たちもそれに近しい実力者であり元魔王だった者たち……正真正銘の魔王パーティだ。
Sランク勇者パーティとは文字通りレベルが違うSSSランク魔王パーティ。
そんなパーティがこの世に存在しているなんて、人類は露ほども知らなかったワケなのだから。
「あともう1人仲間がいるが、そいつも元魔王だぞ。我の前に人間界で魔王と呼ばれていたらしいからな。今は世界中を旅しているが、いずれ戻ってきたらダーリンにも紹介するぞ♡」
「お、おう……」
そしてそんな魔王パーティに、今まさに人類最強のヴィータが加入しようとしているのだから……人類がそれを知ったら恐怖で大パニックになるだろう。
「あ、もちろんダーリンが加入してくれれば最強の座はダーリンのものだぞ♡ ダーリンは我より強いからな♡」
とオトワがヴィータに抱き着いてくるが、チュチュがそれにブチ切れる。
「ってコラぁ!? 決闘の前になにイチャイチャしてんねん!?!?」
そこには、これから決闘が始まるという緊張感はまるで存在しなかった。
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