051:魔界的、登録テスト④


「決闘や!! ウチがその人間の化けの皮を引っぺがしたる!!」


 チュチュは威勢よく啖呵たんかを切り、ズバンと目の前に何かを突き立てた。


「なんだこれ?」


「それはチュチュの能力で作られた雷の槍だぞ。サンダーバードは雷の槍の雨を降らせるという神話のモンスターなんだ。触ってみるとそのパワーがわかるぞ!」


 それは雷が結晶化されたと言う異質な槍だった。


 人間界にはそんなものは存在しなかったが、近いのは風の魔法剣だ。

 風の魔法剣は嵐や暴風の力を持つが、その中に極めて稀にだが雷の力を宿す魔法剣があるとも言われていた。


 だがそれは都市伝説のような噂話でしかなく、実際にヴィータがそれを見たことはなかった。

 そしてそんな噂で聞いた幻の魔法剣ですら、チュチュが作り出した目の前の槍が蓄える雷には到底及ばないのだ。


 超高密度に圧縮された雷の力の具現化。

 その危険度はかなりのものだ。


 攻撃特化の長い鍛錬と、そして実践の中で研ぎ澄まされたヴィータの直感は対象の「攻撃力」を正確に見抜く力を持つ。


 槍に実際に触れて見ても、ヴィータの直感に狂いはなかったとわかる。

 雷のパワーが槍からひしひしと伝わってくるのだ。


 引き抜いてみると、想像よりもかなり深くまで突き刺さっていた。

 円形に焼き切られたような美しい跡が地面に残る。


 そこまで長い形状ではないが、それにしても軽い。

 持ち上げてもほとんど重さを感じないのだ。


(まるで羽のようだな。魔法剣も使い手は重さを感じないと聞いたが……こんな感じだったのか?)


 魔法剣と違い、使い手以外の手に渡っても消える事はないらしい。

 ヴィータはその重さに、自分がどれだけ望んでも得られなかった「資格」を思い出して少しだけ切なさを感じた。


「チュチュって実はめっちゃすごいやつ……?」


「SSSランクに近いSSランクって所だな。人間界に現れてたらチュチュも魔王と呼ばれてたと思うぞ!」


「へ、へぇー……?」


 ……あれ?

 もしかして俺、ヤバい相手にケンカを売られてる感じか?


 ヴィータは今更ながらにその事実に気づいた。


 チュチュは見た目こそ幼い少女だが、その身に秘めたパワーは人間界なら勇者クリムたちの勇者パーティがそろって壊滅するほどである。


 ヴィータの直感は敵からの「攻撃」には反射的に働くが、モンスター自体の危険度を図る事は得意としていない。

 そもそも図る気がないのだ。

 敵がモンスターなら「どんな相手だろうと何とかして必ず倒す」とうのがヴィータの戦闘スタイルのベースとなる思考であり、危険な攻撃を判断して対処すればその他なんてどうでも良かったからだ。

 そんな半ば狂った思考が歪な「直感」と「観察眼」を生み出したのである。


(こわっ。決闘、相手するのやめとこ……)


「ちなみに、自分の武器を相手の目の前に突き出すのがこの街の決闘の合図だぞ。それを手に取ることは決闘を受けると言う意思表示だ」


「えっ!?」


「そやで! ウチのその槍を手にした時点で逃げられへん! 覚悟しぃや、人間!! 知らんかったでは済まされへんで!!」


「いや知らんかったんだが!?」


 ヴィータはいつの間にか決闘を受けてしまっていたらしい。

 なんだか誘導された気がしたが気のせいだろうか、とオトワを見ると、オトワはニコニコと良い笑顔だった。


 これ、完全に分かっててワザとやっているな……!?


 と気づいたヴィータだが、オトワが無駄な戦いを好むようなクレイジーな性格ではないのはすでに理解してるつもりである。

 ※ヴィータのパンチを受けたがることは除く。


 何か、オトワなりの目的があるのだろう。


 ヴィータはそう信じて決闘を受け入れる事にした。

 オトワがそう望むなら、それを拒むつもりなどなかった。


「まぁ、俺は構わないけどな!」


「はっ! ウチかて人間の相手なんてしたくないんやけどな? お前が受けてしもたんなら仕方ないな!!」


「いや、やりたくないなら別にやらなくても良いけど。決闘の作法なんてしらなかっただけだし」


「やるわーーー!!!!!!」


 元気いっぱいなのは見ていて楽しいが、ずいぶんと騒がしい少女である。

 チュチュはからかいがいがある少女だった。

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