050:魔界的、登録テスト③


「おー、チュチュじゃないか! なんだ、いたのか」


 オトワは少女を知っている様子で、いつものように気安くチュチュと呼んだ。


「『なんだ、いたのか』じゃあれへんわ! ウチの名前はチュピカチュや! 由緒正しきサンダーバードやで!! 勝手に可愛く省略すんなや!!」


 チュチュは鼻息も荒くまくしたて、流れるように自己紹介をしながら自身を指さして平坦な胸を張った。


「えー、でもチュチュの方が可愛くて似合ってるぞ? なぁダーリン?」


「え? いや、まぁ、そうだな?」


 急に話を振られても困る。


 ヴィータはチュチュと呼ばれた少女とは初対面である。

 由緒正しきサンダーバードというのが何なのかも良く分かっていない。

 多分、種族の事を言ってるんだろうな、程度の認識である。


 確かにチュチュの見た目は幼く愛らしい少女の姿ではあるのだが、女の子に面と向かて「かわいい」なんて言えるほどヴィータは女の子の扱いにも慣れていなかった。


「ってウチの名前はどうでも良いねん!! 今はソイツや、ソイツ!! さっきから黙って見ていればなんやねんその人間は!?!?」


 チュチュはビシィ! と、勢いよくヴィータを指さした。

 眼光鋭くヴィータを睨みつけている。


 なんだか良く分からないが「怒っているらしい」という事だけは分かる表情だ。


「え? 俺? なんかしたか?」


「『なんかしたか?』じゃあれへんわ!! なんやねんさっきのテストは!? 全部を物理でクリアっておかしいやろ!? というか身体能力以外の項目が全く測定できとらんやろがいいいいいい!?!?!?!?」


 チュチュは猛烈な勢いでツッコミを入れてきた。

 ツンツンと指先がヴィータの胸板をつつき、鼻息が届くほどにチュチュの顔と距離が近い。


「というか最後のはなんやねん!? 他は100歩譲って良いにしても最後の解答用紙破壊だけはもう完全に意味わからんすぎるやろがいいいいいい!?!?」


「た、確かにそうだな……!」


 知力試験までの課題の流れで「爆発四散させる事」に意識が偏ってしまっていた。

 ヴィータの頭の中はつい「いかに素早く破壊するか」という思考回路になってしまっていたのだ。


 確かにこれでは知力の測定とは言い難い。


「と言うか思いっきり手で解答用紙を破り捨ててたやろがい!? なんでそれが爆発四散すんねん!?!?」


「なんか爆発四散したみたいに細切れに破ってみようと思ったら途中で勝手に爆発しだしたぞ?」


「測定器がダーリンのパワーに底知れぬ知力を感じて爆発四散を選んだんだろ♡ やっぱりSSSランクだな♡」


「どこに知力要素があんねん!?!?!?!?!?」


 それを言えば魔力や技術力もそうなのだが、話が余計にややこしくなりそうだったのでヴィータは言葉には出さなかった。


「ん~、だがルールには違反していないぞ?」


「んなワケあるかい!!!!」


「いや、ほら。これ登録テストの手順書だ。ちゃんと測定方法が書いてあるだろ」


「ん~? なになに……あっ、えっ? うそ、ホンマやん……」


 オトワが手にしていた書類を見せると、チュチュの勢いがシュン……と衰える。

 逆立っていた白い髪の毛も落ち着いてしまった。


 テストを受けているヴィータですら「適当なんだなぁ」と思っていたが、オトワはちゃんとギルドの用意した手順書に沿ってルール通りに測定を行っていたのである。

 適当なのはギルドのルールの方だったのだ。


「だろ? じゃあ結果を登録してくる。行くぞ、ダーリン♡」


「って、いやいやいや!! やっぱりおかしいやろ!? そんならパワー系の冒険者はみんなSSSランクになるやん!?」


「ダーリンほどのパワーはいないという事だ。さすがダーリンだな♡ さぁ、行くぞ♡」


「って待て待てぇ!! 何かってに話を終わらせようとしとんねん!? 話はまだ終わってへん!!」


「いや、話は終わってるぞ? チュチュ、ヴィータは正式な手順でSSSランクの実力を示した。それだけだ」


 オトワは「何言ってるの?」と言った表情でキョトンとするが、チュチュは譲らない。

 一度は落ち着いた髪の毛がザワリと逆立つ。


「いーや、終わってへん! ウチが納得いかんもん! そんな人間がウチより高いSSSランクなんて!! そんな人間がウチははいれへん魔王様のパーティに加入するなんて納得してへんで!!」


 ヴィータの結果がよほど納得がいかないらしい。


 が、それよりも……


「えっ? なんでそんな事まで知ってんだ?」


「ん? 多分、受付のイネスから聞いたんだろう。チュチュはイネスと仲が良いんだ! 親友ってやつだ!」


 一瞬、ストーカーか?

 とか思って怖くなったヴィータだったが、それよりも情報の流出の速さという別の意味で魔界の恐ろしさを知ったヴィータだった。

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