046:魔界の冒険者ギルド①
「どうだ、ダーリン! 魔界は良い所だろう!?」
「いや、良くまだわかんないけど……」
小人や巨人がいるモンスターの特徴からか、所々めちゃくちゃデカい店や極端に小さな店もあったが、それ以外はあまり人間の街と変わらないように見えた。
ただ、人間界に多かった武器屋や薬屋などは見当たらない。
モンスターが武器や回復薬を使っている所など見た事がないのでヴィータは「それもそうか」と一人で納得していたが、他にも何の店なの良く分からない店が色々とあった。
まずは透明なガラス張りの壁になぜか椅子だけが並べられただけの謎の店。
「あれは美容室だ。ヘアスタイルを整える店だぞ」
「へぇ、魔界ではわざわざお店で切るのか」
(というか、なんで壁を透明にしてるんだろう……?)
人間界でそんな事をするのは王族や貴族だけだったため、髪を切る専門家は城などに住み込んでいた。
そんな風に話しながら歩くヴィータ達の目の前で、ちょうどゴーレムがその店に入って行った。
土で作られた真四角の頭部に、髪の毛など一本も生えていない。
カランと小気味のいいベルの音がして「らっしゃっせっ」と良く分からない挨拶をしながら店主らしき魔族が現れる。
ヤギの頭蓋骨みたいな顔をした店主にも、やはり髪の毛など一本も生えていなかった。
(ヘアスタイルとは……?)
その隣には、ただの民家のように見えるが何故か「OPEN」の札がぶら下がっている謎の店。
人間の店ならわかりやすく大きな文字で店の名前を書いた看板がどこかにあるのが一般的だったが、その店にはそれらしきものはない。
「あれは隠れ家カフェだ。雰囲気と茶を楽しむ店だぞ」
その隣にも、ただの民家のように見えるが何故か「営業中」の札がぶら下がっている謎の店。
「これも隠れ家系のカフェか」
「いや、あれは隠れ家系の雑貨屋だぞ」
「……!?」
見分け方がわからない。
これが魔界か。
「難しいな、魔界……!」
「えっ!? そ、そうか!?」
ヴィータは単純に「難しい」と思った事を口にしてしまっただけだったが、それを「気に入らなかった」と受け取ったのか、オトワが焦りの表情を浮かべてワタワタとし始める。
「ま、まぁ……こうして歩くだけでは良さなど簡単には伝わらないか! 今回は仕方がない! 魔界観光はまた今度ゆっくりな!! 良い所いっぱいあるから!!」
「いや、別に嫌とかじゃないよ。むしろ、この街の空気は好きかもしれない」
焦っているオトワも可愛かったが、やはり可哀そうの気持ちが勝るようでヴィータはとっさにフォローの言葉を続けた。
だがその気持ちは嘘ではなかった。
静かで心地よい空気感だ。
「でも、思ったよりモンスター……いや、魔族の数って少ないのか?」
人間界でモンスターが出現するのは主にダンジョンと言われる場所だ。
ダンジョンはモンスターの巣であり、大量のモンスターが生息している。
完全に制圧しない限り、倒しても倒してもすぐに増える。
魔界も同じようなものだと思っていたのだが、どうも違うようだ。
すれ違う魔族が物珍しそうに人間であるヴィータを見る事があったが、そもそもあまりすれ違う事がない。
城から見下ろした時にも感じた事だが、広い街の割りに人の数が少ないのだ。
「まぁ魔獣に比べると魔族の数は少ないな。だが我の街の場合、まだ日が昇っている時間だからだ。この街の住人たちは夜行性なんだ。夜になればもっと活気がでるぞ!」
「言われてみれば、確かにモンスターって夜行性が多いイメージだな……」
納得するヴィータだったが、このオトワが言っている「夜行性」はヴィータの想像とはまるで別の物である。
だがヴィータがそれを知るのはもう少し先の話だ。
そうして歩いて行った先に、目的地である冒険者ギルドはあった。
「ここが冒険者ギルドだ!」
見た目は人間界と変わらない、大きさを比べるとかなり小さい。
「それにしても、本当に魔界に冒険者ギルドがあったなんてな……」
「ん? あるもなにも、そもそも冒険者システムは魔界発祥のモノだぞ? 話を聞いている限りだと、人間たちが勝手にマネしてるだけなんだが?」
「へぇ……え? えっ!?」
さりげなく衝撃の事実を知らされるヴィータだった。
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