044:魔王たちの朝食②
「ふぅ~……今日も美味しかった!」
「うまかった」
「ご、ご馳走様でした……」
「はいはい、お粗末様でした……って人間、大丈夫なの?」
「こ、これくらい平気だ。これでも人間世界では大食いチャンピオンだったからな……!」
「さすがダーリンだぞ♡ 人間とは思えない良い食べっぷりだった!」
「う゛っ……!!」
オトワが無弱に抱き着いてきて、その柔らかさが嬉しいのだが爆発寸前のお腹は苦しい。
ヴィータは複雑な気持ちになりながらその口を固く閉じた。
「……なら良いんだけど。吐いたりして余計な仕事ふやさないでよね?」
「お、おう……!!」
エノンは言いながら、テーブルに並んだカラの食器を手際よく片付けていく。
さりげなくコップ一杯の水をヴィータの前に置いて行ってくれた。
朝食を終えて現在、オトワの「あーん♡」が可愛すぎてつい食べ過ぎてしまったヴィータは椅子の上から一歩も動けない状態である。
ヴィータは寝起きでもかなりの量を食べれると自負していたが、さすがに今回は限度越えである。
なのでエノンを手伝う事もできずに眺めるしかないのだが、片づけを進めるエノンの手際は恐ろしいほどで、あっという間にテーブルは綺麗になってしまった。
というか、今、一瞬だけ腕の骨が分離して宙を飛んでなかったか?
しかも、浮いてる腕の数が6本分くらいなかったか?
……魔界のスケルトンってすごい。
「そういえば、エノンは食べなくて良いのか?」
エノンは大食い魔王2人の「おかわり」対応に追われていて、本人は食べる暇もなかったように見えた。
「ん? あぁ、アタシはスケルトンだから食事はいらないのよ。後でお姉さまから魔力を分けてもらうから」
「へぇ、そうなのか」
スケルトンってそういう生態だったのか……。
と、一つヴィータは賢くなった。
よく考えれば、確かに食べ物を処理する臓器が存在しないから人間のような食事はできないだろう。
何気なくオトワとマインを見てみるが、あれだけ食べたのが嘘のように体型には変わりがない。
そして「やはり2人の胃袋はアイテムボックスに近い何かなのだろう」と判断し、ヴィータはそっと目を背けた。
「それにしても、本当に美味しかったな……」
モンスターの食事が人間である自分の舌に合うとは驚きだった。
正直に言えば、ヴィータは魔界の食卓には「血の滴る生肉」や「人間の生首」が並んでいるんじゃないかとヒヤヒヤしていたのである。
そんな思い込みが間違ったものであってくれて、心底ほっとしていた。
とは言え、大賢者マインはもともと人間だ。
その影響で食事が人間の物に寄っているのかも知れない。
モンスターを共食いするなんて事もないのだろう。
味も見た目も、人間世界の鶏肉や豚肉と同じような物だった。
これなら魔界でもやっていけるかも知れない。
そう思っていると……
「おぉ、ダーリンの舌にあって良かった! 人間世界ではモンスターは食べないんだろ? こんなに美味しいのにな!!」
今食べたのがしっかりモンスターだったのだと、オトワが親切に教えてくれた。
「えー、モンスターってモンスターを食べるのか……?」
「ん~? まぁ、人間の感覚でモンスターを一括りに考えるとそうなってしまうな! だが、人間だって家畜を食べるだろ? それと同じだぞ。人間のように知性を持ったモンスターが我ら、魔族だ。そして知性を持たぬモンスターは魔獣と呼んだりする。魔獣が家畜みたいなものだな。動物との違いは魔力の有無か」
「魔族、か……初めて聞いたよ」
「だろうな! 魔族がわざわざ人間界に行くなんてほとんどない」
「そうなのか」
もしかして、これまで人間が魔王と呼んでいたのはそんなたまに人間界にやって来た魔族の事だったのだろうか……?
と、ヴィータはなんとなく思った。
「あ、ちなみにさっき食べた大きな鶏肉はドストカトリスの胸肉だぞ! 我はコカトリスが大好きなんだ! ダーリンも気に入ったか!? 豚肉の方はダークボアだな! ボア肉も歯ごたえがあって良いな!!」
「お、おう」
オトワは味を思い出しているのか、キラキラと目を輝かせ、ジュルリと垂れそうになった涎を慌てて拭った。
ヴィータは腹が爆発しそうなほどパンパンだが、このスライムの魔王様はまだまだ余力を残しているようである。
ちなみに、元気満タンなオトワと違い、マインは絶賛フリーズ中だ。
恐らくは食後の消化モードなのだろう。
まるで目を開けたまま眠っているみたいで、椅子に座ったまま妙に背筋を伸ばした姿勢で微動だにしていない。
エノンも気を使ってかマインを揺らしたりしないように片づけを行っていた。
そんなマインは「いつもの事だ!」と気にしない様子で、オトワが元気よく立ち上がった。
「さ、では行くか! 魔界での冒険者登録に!!」
ヴィータがオトワと共に向かう先……それは魔界の冒険者ギルドである。
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