ヴィータのパンチ気持ちよすぎだろ!~S級勇者パーティから追放されたハズレスキルの拳聖が実は最強だった件。SSS級魔王パーティに誘われたので楽しく暮らします。人類は滅亡するけど今更謝ってももう遅いです~
041:勇者は邪魔者を始末したい③ ~追放サイド~
041:勇者は邪魔者を始末したい③ ~追放サイド~
「良いか、ウチはこの道のプロだ。お前らのようなバカでマヌケなサル共が一生かけても集められない見つけられない極秘情報でも1日で手に入れて見せる」
少女はついに依頼主への暴言まで口にしだした。
それが依頼主に対する態度かよ!?
と、クリムが突っ込みたくなるのも仕方がないレベルの態度である。
同じ暗殺者ギルドのメンバーであるハズのバーのマスターは相変わらず無関心の様子でグラスを磨いていた。
「その私たちが言ってるんだ。この件からは手を引くべきだとな。これはアンタへの優しさだぞ? アンタがギルドにとって良い取引相手だからわざわざ忠告してやっているんだ」
口は悪いが、少女の言葉に嘘はなかった。
暗殺者ギルドは闇のギルドであり、汚れ仕事も多い。
だがそんな闇ギルドにも仕事へ対する誇りと流儀があった。
一度仕事を引き受けたなら、生半可な理由ではそれを撤回したりはしない。
暗殺者が個人の判断で仕事を拒否する事もない。
今回のトンテオの件はこの少女だけでなく、暗殺者ギルドが本当に危険だと判断したからこそ手を引くことになったのである。
「アンタがどんな理由でこのターゲットを消したいのかは知らないし、興味もない。だが、踏み入りすぎると消えるのはアンタの方になるよ」
そこまで言って、ようやく少女はナイフをクリムの首筋から離した。
「お、俺はこの国で一番の勇者だぞ……! 俺のバックには王族もついてるんだ! 俺が消されるなんて事が……」
「王族程度でイキってる小物が。世界の形すら知らないで良くもそんな自信を持てたものだな」
クリムの苦し紛れの言い分を、少女は鼻で笑った。
「は、はぁ? なんだよ、世界の形って……?」
意味が分らない。
人間世界の中心はこの超大国ズァナルだ。
そしてズァナルの頂点は王である。
その上の世界など……
「リックさん、少し喋りすぎですよ」
と、クリムの思考に割り込むように口をはさんだのは今まで無言だったバーのマスターだった。
その瞬間、ゾクリ……と、たった一言でクリムの背筋が震えた。
バーの気温が何度か下がったかのような強烈な寒気を感じる。
それはいつも通りの温和な口調のハズなのに、言葉が向けられたのはクリムではなく目の前の少女に対してのハズなのに、その言葉に込められた冷たさがクリムにまで伝わってきたのだ。
「あっ……ご、ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!」
先ほどまでの威勢が嘘のようにリックと呼ばれた少女が血の気が引いた顔色でガタガタと震え出した。
一流の暗殺者であるハズのリックは、明らかにマスターに対して怯えている。
(な、何者だ!? こいつ、ただの連絡係かと思ってたが……絶対に只者じゃねぇぞ!?)
急に訪れた異常な状況にクリムも混乱するが、今この場でマスターには逆らってはいけない事だけは理解できた。
「クリム様、申し訳ありませんが今の話についてはこれ以上、追及しないでいただけますでしょうか? でないと、私が貴方を消さなければならなくなってしましますので」
ゾゾゾゾゾッ……!!
マスターの言葉が自分に向けられたその瞬間、腰が抜けそうになるほどの強烈な殺気にクリムの足が震えた。
同時に無数の虫が肌を這いまわるような強烈な嫌悪感を錯覚する。
マスターは威圧するように声を張り上げているわけでもなんでもない。
その手には磨きかけのグラスを握ったまま、いつも通りの口調である。
なのに、どうすれば温和な口調にこれほどまでの殺意が込められるのかが理解不能なほどに、その声は冷たい。
「は、はひっ……!!」
「良かった。では……ほら、リックさん。話をまとめてください」
「は、はひっ……!!」
勇者と暗殺者、奇しくも2人の返事は情けなく似通ったものになった。
マスターの指示に従い、リックが震えながら再び言葉を紡ぎ始める。
クリムはそれを大人しく聞くしかない。
「と、とにかく、トンテオという人間の素性が掴めない。分からないという事だけは伝えておく。ここまで足を運ばせた手間賃だ。良いか? この国にトンテオなんて名前の人間は存在しない」
「は、はぁ??」
いない?
意味が分らない。
「……だったら、あの応募書類は?」
審査に現れた人間は誰だったと言うんだ?
「恐らくは応募のために偽造されたものだろう。冒険者ギルドのデータを盗み見たが、トンテオなんて冒険者はいなかった。それが真実。これで話は終わりだ」
最後まで聞いても意味が分らない。
だがトンテオは実在した。
それだけは間違いない。
クリムは無意識に自らの頬に触れていた。
あの時に感じた圧倒的な熱量が、刻み込まれた恐怖と一緒にそこにまだ残っている気がした。
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