038:したい事、やれる事
「したい事、か……。でも、俺には戦う事くらいしかできないしなぁ……」
場所が変わっても、ヴィータと言う人間の本質は変わらない。
ヴィータが持っている価値を示せるモノは、いつだって敵を倒すための最強の拳だけである。
問題はそれを、どう活かすか。
戦いとは別の形で、活かす事ができるのか。
「それは違うぞ、ダーリン」
ヴィータが思わず握りしめたその拳を、オトワはやさしく包み込んだ。
「え……?」
「ダーリンは
「だったら私の魔術の実験台になるか? ちょうど実験体を探していた所だ。きっと楽しいよ?」
「じゃあアタシのて、手伝いをさせてやっても良いけど? これから人手が必要になるし? 別にアンタのやりたい事さがし? に協力するワケじゃないんだからね!?」
マインとエノンもその話に乗って来た。
クセは強いが、その根っこにある優しさはヴィータにも感じ取れた。
さすがはオトワの友達だと納得する。
「ほらな? 戦う以外にもここには選択肢が無限にあるんだ。もちろんダーリンが嫌な事はしなくて良い。好きな事すれば良いんだ。たまには我にパンチして欲しいけどな♡」
それを聞いたエノンが「うわぁ……」と引き気味の声をあげたが、オトワは全く気にしていないようだ。
マインは「それも愛のカタチ」と分かった風な事を言っていた。
「好きな事、か……」
ヴィータには自信がなかった。
戦い以外の事で役に立っている自分の姿が想像できないのだ。
エノンの手伝いをする自分の姿。
手伝うハズがなんか色々ぶっ壊している姿ばかりが思い浮かんでしまう。
あと普通に闇落ち大賢者の実験体にだけはなりたくない。
魔界ジョーク?
それとも大賢者ジョークか?
ジョーク……だよな?
「だがそれも焦る必要はない。ゆっくり探せば良いんだ」
魔界の荒野で再開してからずっと、オトワは深い海のようにヴィータを愛で包み込んでくれた。
それはまるで、あの灼熱の荒野のように乾いたヴィータの心に雨を降らし、豊かな自然を芽吹かせるように……ヴィータに生きる希望を与えるのだ。
人類すべてに裏切られて捨てられたと絶望していたヴィータに、再び共に生きたいという気持ちを芽生えさせてくれるのである。
「そうだな。ありがとう、もう少し考えてみるよ」
すぐに後ろ向きになりそうになる自分の気持ちを前に向かせてくれるオトワの存在にヴィータは救われる。
その慈愛に満ちた笑顔は、ヴィータには魔王と言うよりはまるで聖母のように見えた。
今となってはオトワを魔王だなんて呼んだ人類がバカみたいに思える。
そして自分もその一員だった事が恥ずかしくすら思えてくるのだ。
「うん! それが良い……あ、そうだ! だったらダーリンのやりたい事が見つかるまでは、今度は我のために戦ってくれないか?」
オトワは「良いアイデアを思い付いた!」とキラキラと眼を輝かせた。
聖母の笑み、子供のような無邪気な笑顔、小悪魔スマイル……表情が豊かなオトワは見ていて本当い飽きない。
「オトワのため?」
「そうだ! 我らにも敵がいる。人間ではない、もっと別の生き物だ。もっと狡猾で、狂暴で、危険な生き物……今度は侵略でなく、魔界を守るために! 我と一緒に戦おう!」
同じ戦いでも、目的が違う。
目的が違えば意味が違ってくる。
戦う意味が変われば、その中で感じる事も変わってくるだろう。
オトワはそう思ったのだ。
それは何か根拠や理論があるわけではないただの直感だったが、きっと楽しい事に思えた。
それになにより、ヴィータと並んで戦う自分の姿を想像すると、それが楽しみで仕方がなくなったのだ。
「ダーリン、我のパーティに入ってくれ! 魔界で最強の魔王パーティだ!!」
そう言って再び、オトワはヴィータに手を差し伸べた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます