◇2.破滅

034:魔王城へようこそ!①


 一夜明けて、ヴィータは強烈な朝の陽ざしで目を覚ました。


「おはよう、ダーリン♡」

 

 目の前には、ヴィータの体にのしかかって愛おしそうに寝顔を眺めていたオトワの顔があった。

 その間でムニュンと豊満な胸部が主張してきており……


「うおぁ!?」


 オトワと共に一晩過ごしても、ヴィータは未だに女の子への免疫はついていなかった。

 初心うぶなヴィータのリアクションに「そんなところも可愛いな!」と満足気に笑う。


 ここはオトワが作成した簡易テントの中だ。

 簡易テントと言っても、しばらく普通に生活できそうなレベルの家具や日用品がそろっている。

 なんなら食べ物や水までしっかり備蓄されている状態だ。


「ほら、水だぞ♡」


「ありがとう……それ、どうなってるんだ?」


 そしてそれらは全て、どこからともなくオトワが取り出したものである。


 大量の道具をコンパクトに収納できるアイテムボックス。

 伝説の勇者が持っていたとも言われるが、現在は超大国ズァナルの宝物庫に1つだけしかないと言われている超貴重な魔道具である。


 そんな伝説級の魔道具として知られる魔道具と同じような能力をオトワは生まれつき持っていた。

 体内に質量を無視したような不可思議な空間を作り出せるのだ。


「我にも良く分からない!」


 オトワ自身もその原理やなぜそんな能力があるのかはわかっていない。

 ただ便利なものなので有効活用している。


 オトワが体内から取り出したボトルを受け取ると、ヒンヤリと冷たかった。

 冷えた水が体を潤し、目が覚める。


「さて、では今度こそ行こう! 我らが魔界へ!!」


「もう準備できたのか?」


「うん! バッチリみたいだ!」


 こうしてテントを建ててまでここで過ごしたのは「魔界への移動手段」に準備が必要だったからである。

 ヴィータには良く分からなかったが、なんでもエネルギーの充填が必要だったらしい。


 ちなみに……近くの森まで移動しなかったのは、このテントがあるからだ。

 灼熱の荒野ですら快適に過ごせるこのテントがあればどこ寝泊まりしても同じである。


「でも、本当に良いのか? 俺に出来るのは戦いだけだ。そしてこの手でモンスターを……お前の同胞をずっと殺し続けてきたんだぞ?」


 一晩経って、ヴィータの中でまた不安が首をもたげていた。

 我ながら情けないと思いつつも、気になるものは気になるのだ。


 モンスターを殺すしか能がない人間が、魔界で暮らせるのだろうか……と。


 そんな悩みはオトワに一蹴される事になる。


「なんだ、まだそんな事を気にしているのか? モンスターの世界は人間の世界とは違う。殺し合いなんて日常の1コマに過ぎないぞ。まぁ、来れば分かる! モンスターの世界にはモンスターの常識があるんだ!」


 キョトンとした表情から、それがヴィータに気を使っているというワケではなく、オトワにとって本当に些細な事だと伝わった。


(そうだな。もう、覚悟は決めたんだ。俺はこいつと……)


 オトワとならきっと大丈夫だと今は思える。


「それに、多分だが……ダーリンが今まで殺してきたのは、モンスターではないと思う」


「えっ?」


「それも後で話す! まずはその眼で見てみると良い! 我らの世界を!」


 そう言うとオトワはテントをしまい、かわりに小さな丸い物体を取り出した。


【開門】ベオペンス!」


 オトワが唱えると、それは不思議な光を放って宙に浮き、そしてギュルギュルと回転し始めた。

 光が円を描き、拡大していく。


 そして空間に裂け目のような大穴が現れた。

 その先には荒野とは全く違う、薄暗い部屋のような景色が見える。


「さぁ、ダーリン♡ 行こう!」


 当たり前のようにヴィータの手を取り、オトワが穴へと向かう。


「これって、ワープポータルか!?」


 別の場所へ一瞬にして移動できる魔道具の存在は知られている。

 だがそれは伝説の中での話であり、架空の物だと思われていた。

 

 アイテムボックスと違い、ポータルには実物が残っていないからだ。

 空間転移は魔術としても未完成で、人間にはそれを再現する技術もない。


 そんな伝説どころか神話の領域のようなモノがいきなり目の前に現れたのである。


「ダーリンと出会った偵察拠点ではない……本当の我が城にご招待だ!」

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