030:不幸な騎士たち、その末路 ~追放サイド~


「人間の世界はもうすぐだぞ。運が良ければ生きて戻れるだろう」


 目的である「挨拶」を果たし、オトワは満足気にそれだけ言って騎士たちの元から立ち去って行く。


 ズズ……ン


「ん? あぁ……」


 地面の底から伝わってくる振動を感じ取り、オトワは小さくため息をつく。


「まったく、どうやら運が悪かったのはお前たちだったみたいだな」


 最初から騎士たちを殺すつもりはなかったが、オトワは自身が「ダーリン♡」と慕うヴィータを苦しめた相手を助けてやる気にもなれなかった。


 これも日頃の行いというヤツだろう、とオトワは一人で納得する。


(我とダーリンが許しても、運命がお前らを許さなかったらしいな!)


 哀れな騎士たちの結末を見届ける事もなく、オトワは分身体の姿を圧縮してヴィータのそばにいるマザーコアの元へと戻っていった。



 そして荒野にゴミのように取り残された騎士たちはと言うと……



「お、おい……生きてるか……?」


「う、うぅ……なんとか、な……」


 オトワが去って一安心、とはいかず、騎士たちは未だに激痛で体が動かない。


 だが荒野の日差しに人間様への容赦などなく、時間が経つほどに鎧に伝わる熱は強くなっていく。

 すでに焼けた皮膚が高温の鎧に焦げて張り付いていた。


 少しでも動けば意識を失いそうになるほどの激痛が走る。

 だが這ってでも馬車に戻らないと焼け死ぬ。


 こんなところで蒸し焼きの人肉ステーキになるのなんて嫌すぎる。

 金色騎士としてのプライドが、そんな無様な死に際を許さなかった。


 騎士たちはなんとか起き上がろうともがきながら、その一方で騎士として成すべき使命も生まれていた。


「バ、バケモノめ……! もしかしたら新しい魔王なのか……!?」


「ア、アレはただのスライムなんかじゃねぇ……もっとヤバイ何かだ!!」


 騎士団としての使命は、この事実を国王に、そして勇者パーティに伝える事だ。

 そのために何としても、生きて戻らなければいけない。


 騎士たちにとって幸いな事に、オトワは馬車を破壊したりはしなかった。

 馬車まで戻れば、あとは馬が走ってくれる。


 王国にさえ辿り着けば、あとは医療ギルドが回復してくれるのだ。

 金色騎士である彼らは最優先で対応されるだろう。


 生きてさえいれば、生きて帰りさえすればなんとかなる。


 そんな希望を打ち砕こうとするモノが、地の底から迫っていた。


 ズズ……ン


「あっ……!?」


「なんだ……!?」


 最初に感じたのは小さな揺れ。

 地面の砂がタカタカと震えていた。


 やがてそれはズン! と大きな地響きに変わる。


 状況がわからないながらも騎士たちの直感が「ヤバイよヤバイよ」と脳内で警笛が鳴り響かせるが、すぐには体は動かない。


 ドパァ……!!


 そして地鳴りと共に砂の中から現れたのは超巨大なミミズのような生物だった。


 ワームと呼ばれるタイプのモンスターだと騎士たちは理解した。

 だが、それにしては巨大すぎる。


 ミミズというよりは、まるでドラゴンのような大きさだ。


「う、嘘だろ……!?」


「まさか……サ、サンドワーム……!?」


 砂嵐と共に現れる荒野の主、サンドワーム。


 棘のような鱗に覆われた長い体、4つのクチバシが交差するような鋭い口。

 その巨体が巻き上げる砂埃は、確かに砂嵐のようにも見えた。


 伝説の中にだけ語られてきたそのモンスターと特徴が一致する。


 熱砂の中、騎士たちは自分たちの体温が恐怖で急激に低下するのを感じた。


「あ、あ……」


 サンドワームは鋭い牙を無数に並べたクチバシを四方に開き、狙いを定めるように首をもたげた。

 その姿はまるで、砂上に咲く巨大でグロテスクな死の花だ。

 

 まるでデザートでも食べるように、ゆっくりと頭が落ちてくる。

 無数に生えるその牙の1本1本が人間よりも巨大なノコギリだ。


「動け、動け、動けぇ!! 動けっ、動いてくれぇえええええええ!」


「今動かなきゃ、ここで死んじまう!! そんなの嫌だああああ!!」


 騎士たちの祈るような叫びも虚しく、体は一歩も動けない。

 金色騎士の誇りや使命などとうに忘れ、ただ泣き叫ぶ。


「俺は騎士だぞ!! 選ばれた金色騎士なんだぞ!? 魔界で死ぬのは勇者の仕事だろうがよおおおおおおおおおおおおおフザケンナあああああああああああああ!?!?」


「落選者なんかに関わるんじゃなかった!! アイツのせいだ!! アイツのせいでこんな目に!! アイツのせいでこの俺があああああああああああああ!?!?」


 オトワは殺してしまわないようにとして攻撃したつもりだったのだが、そのダメージは騎士たちにとっては致命的ともいえるほどに甚大じんだいなものだった。


「あっ、いやっ……ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!」


「や、やめっ……誰かたすけええあああああああああああああああああああああああああ!!」


 相手は人間の指定する危険度で言えばSランクは軽く超えるドラゴン級のモンスターに相当するだろう生命体だ。

 たとえ騎士たちが万全の状態であったとしても結果は同じだっただろう。


 自分たちを襲ったバケモノの、騎士たちはその腹の中へと消えていった。

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