029:不幸な騎士たち③ ~追放サイド~


「はぁ~? なんだ、お前? 自分の状況がわかってるのか?」


「ちょっとは知性があるかと思えば、しょせんは最低級のモンスターだな。Fランクごときが、態度がでけぇんだよ!!」


「つーかさっき、こいつ俺たちの事をアホとか言ってなかったか?」


「たしかに。言ってたわ。間違いねぇわ」


 今更ながら悪口を言われた事に気づいた騎士たちの怒りのボルテージは更に上昇する。

 

「ん? アホをアホと呼んで何が悪いんだ?」


「おいおいおい」


「死んだわコイツ」


 いよいよブチギレ始めた騎士たちに、オトワは純粋な善意で告げた。


「いやいや、余計なケガしたくないなら止めといた方が良いと思うぞ? 我も戦いに来たわけじゃないし手を出すつもりはない」


「ギャハハハハ!! スライム如きが笑わせるぜ!! もう謝っても遅いからな!!」


「運が悪かったな! 人間を襲うのはモンスターだから仕方ないだろうが、よりにもよって俺たちに出会うとは!!」


「いや、運も何もそもそもお前たちを探して来たんだが……」


「何を意味の分からない事を言っている!!」


「しょせんはスライムだな!! バカめ!!」


 まるで会話が成立しない。

 やはり人間とは愚かな生き物だとオトワは落胆した。


(やはりまともな人間はダーリンだけのようだな。こいつらとは会話するだけ無駄だ)


「最後に覚えておくが良い!! 俺たち王国騎士団キングスブレイドの恐ろしさを!!」


「俺たち金色騎士の冒険者ランクはAランク!! スライム如き相手にもならんという事を思い知れぇ!!」


 それが戦いの合図のようなものだった。

 2人の騎士が威勢の良い口上と共に魔法剣を出現させる。


「あぁ、そうだな」


 ……が、現れたその剣の柄を握る事もなく、騎士たちは地面にひれ伏していた。


「お前ら程度では全く持って、我の相手になどならん。ゴミが」


 ドンッッッッ!!!!!!


「がっはぁッ!?!?」


「ぐぼぁはっ!?!?」


 体を部分的に変形させたオトワにより、騎士たちは地面から突き上げるように腹を殴って吹き飛ばされ、さらに追撃を受けて地面に叩きつけられていた。

 それは1秒にも満たない一瞬の事で、あまりの速さに騎士たちは自分が何をされたのかも理解できていない。


「!?!?!?!?!?!?!?!?!?」


 気が付けば体に激痛を感じていたが、2度も殴られた事すら理解できていなかった。

 戦いにもならない程の実力差を前に、騎士たちが理解できたのは「自分たちの敗北」と言う結果だけである。


 ジュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!


「あ、あっづうううううううううううううう!?!?」


「ぎゃあああああ!! 体がやげるうううう!?!?」


 そうして気が付けば地面にひれ伏しており、強烈な攻撃によるショックからか体は麻痺して言う事を聞いてくれない。

 強烈な日差しによって熱された砂が騎士の鎧を加熱し、全身を蒸し焼きのように熱してくるのを防ぐ手立てもなく、ただ激痛に歯を食いしばって耐えるしかなかった。


 そんな2人の騎士の姿をオトワはまるでゴミを見るような冷酷な眼で見下ろしていた。


「お前らが勇者なんぞに良いように使われてダーリンを苦しめた罪、万死に値する……が、そのおかげでこうしてダーリンと再会できたのも事実。それだけは感謝している。だから今回は『挨拶』だけで、命までは奪わないでおいてやる」


「「あ゛、あ゛りがとう゛ございま゛す゛っっっ……!!」」


 どう見てもこんな奴らよりダーリンの方が100倍はカッコいいし、強いし、会話も弾むし、やっぱりダーリンは最高だ♡ ダーリンしか勝たん♡


 ……なのに何でダーリンが落ちこぼれ扱いになるんだ? 評価おかしいだろ?


 やはり人間の社会は愚か過ぎる。

 うむ、滅ぼすか?

 いや、でも一応はダーリンの故郷だし。


 なんかムカつくからこいつらの全身の穴と言う穴からスライム体を流し込んで死ぬまで蹂躙してやっても良いが、やっぱりダーリン以外の人間の男は触れるのすらなんだかイヤだな。

 まぁ、今回はダーリンの顔に免じてこれくらいで許してやるとしよう。


 ダーリンは復讐なんて考えてなさそうだったしな!

 優しすぎる♡ 器ひろすぎ♡ しゅき♡


 なんて恐ろしい事やらお花畑な事やらをオトワが考えていた事など知るよしもなく、騎士2人は「ダーリンって誰だよ!?」なんて考える余裕もなく情けない感謝の言葉を唱えるしかないのだった。

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