027:不幸な騎士たち① ~追放サイド~
超大国ズァナルにおいて勇者と並ぶエリートとして知られる組織。
それが王国騎士団キングスブレイドである。
勇者パーティがモンスターとの戦いに特化した対国外用の兵士なら、騎士団は王の側近であり国内の治安を守るための対国内用に運用される特殊部隊と言える。
その役目は騎士団内の階級によって分けられ、国内での見回りや防犯、そして出現したモンスターへの対処など多岐に渡る。
そんな騎士団の中から実力と信用を兼ね備えた最上位クラスの
彼らが受けた役目は「反逆者の追放」だ。
対象人物を人間が魔界と呼ぶ危険地帯へと連れ出す事である。
すなわちヴィータの国外追放である。
「この辺りは本当にモンスターの1匹もいないな。勇者パーティが魔王を討伐してくれたおかげらしいぞ」
「クリム様には頭が上がらないな。こうして楽な仕事ができるのも勇者クリムさまのおかげだ。さすがだぜ」
追放対象であるヴィータを荒野に捨て去り、何事もなく任務を終えた2人の騎士たちは国内へ戻るため馬車を走らせていた。
「反逆者は捨てたし、あとは帰るだけだからな」
「これで1ヵ月分の稼ぎだ。ラッキーだったぜ」
2人は「反逆者が反抗してくる可能性があるため」に危険度Sランクの任務としてこの仕事を受けている。
実際、人類最強のヴィータが本気で反抗して来ればとても2人の騎士程度では相手にならなかったのだが……そんな事すらも騎士たちは知らない。
勇者パーティのリーダーは勇者クリムであり、最強もまたクリムであると信じ切っているのだ。
クリムの流したデマに騙され、落選者のヴィータなんてただの足手まといの役立たずだと思っていたのである。
結局ヴィータが抵抗する事もなかったので、騎士たちは騙されているというその事実にすら気づかないまま「簡単な任務」を終えようとしていた。
後は来た道を引き返すだけの簡単な作業だ。
問題は荒野の暑さくらいのものである。
モンスターすらも暑さで枯れると言われる魔界の入り口、熱砂の荒野。
日差し対策のためにサンドフィッシュの素材で屋根を作った特別仕様の馬車ではあるが、それでも防ぎきれない暑さから騎士たちの体に汗が噴き出す。
馬車を引く馬たちも疲労困憊の様子で「行き」に比べると進行ペースが落ちてきているが、そんな鎧の中が汗で蒸れる不快感ともあと少しでお別れだ。
「それにしても暑いな。どうだ、一杯やるか?」
「おいおい、まだ任務中だぞ?」
「こんな任務、もう終わったようなもんだろ(笑)」
「それもそうか(笑)」
荷台に積まれた「暑さ対策」の樽からジョッキで中身を救い上げ、2人は向き合った。
「俺たちの勇者、クリム様の栄光と!」
「くそったれな反逆者の哀れな末路に!」
「「カンパーイ!!」」
水も食料もない荒野で苦しんでいるであろう落選者の末路を想像し、騎士たちはご機嫌な様子でグビグビと酒の入ったジョッキをあおった。
国民の模範となるべき王国騎士団の、それも名誉ある金色を授かった騎士としてはあるまじき言動だが、それを咎める者などここにはいない。
「くぅ~~~~~!」
「しみるぜ~~~!」
熱く乾いた体に冷えたアルコールが染み渡る。
超大国ズァナルへの入り口はもうすぐだ。
「ん~?」
やっと人間界と魔界の間に張り巡らされた防壁が見えてきたところで、騎士の1人が何かに気づいた。
「なんだ?」
それは小さな水色のスライムだった。
スライムには様々な亜種が存在するが、水色のスライムはもっとも基本的な種であり危険度もFランクに認定された最弱のモンスターだ。
そんなザコモンスターが進路を妨害するようにプルプルと震えながら現れたのだ。
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