025:バカなの人類?②
「ん~、悪いがあまり覚えていなくてな。どんな顔だったか……あっ、ダーリン好みの胸が良く育った娘たちなら覚えているぞ♡ そうかそうか、あれが勇者だったのか♡」
オトワはニンマリと笑い、再び腕を組んで「ほれほれ♡」と今度は意図的に胸を強調して見せる。
「今の我はダーリン以外に興味などないからな。我に1ミリの傷も与えられないザコなどは特に印象が薄くて……すまないな、ゴミのような相手とは言えダーリンの仲間だったならもっと手厚くもてなすべきだったか?」
謝ってはいるが内容としてはゴミ扱いのままなので失礼には変わりがなかった。
対して、追放されて裏切者あつかいまでされたヴィータも勇者たちへの仲間意識は薄れてきており、別にもう気にもならないのが本音だった。
今のヴィータは人間の世界から追い出されて魔王と楽しくお喋りをしている。
人間界でも魔界でもない場所で。
そう考えると、今の自分がなんとも中途半端な存在に思える。
人間として魔王を倒すべきなどと、今は少しも思えないのだ。
「いや、でもダーリンを裏切るようなヤツらだから結果的に無視していて良かったのか? いやいや、そうと分かっていればあの場で始末しておくべきだったか……?」
ヴィータがそんな事を考えている内に、オトワはなんだかぶっそうな事を言い始めていた。
これがモンスターの思考回路なのか……?
と、少し不安になるが、ヴィータはそれよりも気になる事を思い出していた。
「クリム……火の魔法剣を使っていたリーダーの男も覚えていないのか?」
「んん~、魔法剣か……だが我に斬撃など効くわけないしな! 覚えてない!」
そう言ってオトワは体をプルンと変形させた。
鎖骨のあたりから斜めに切られたみたいに空間をつくってみせ、それを瞬時に修復する。
まさに変幻自在だ。
そしてその変形速度はクリムの繰り出す斬撃の速度を遥かに上回っていた。
「……マジかよ。全部を避けていたのか!?」
少なくともクリムの攻撃はクイーンスライムにダメージを与えているような気がしていたのだが、それは全くの気のせいだったらしい。
斬撃を受けてスライムの形状が変化しているように見えたのは、オトワ自身が意図的に体を変形させて回避していただけだった。
クリムはダメージを与えられないどころか、そもそも攻撃を命中させる事すらできていなかったのである。
ヴィータにも魔王との戦いで「パーティの主力として活躍できた」という自覚はあった。
分身体とは言え、そのコアを破壊したのもヴィータの拳である。
だが、まさか仲間たちの攻撃が全く意味のない物だったとは思ってもいなかった。
そう考えると、勇者パーティってなんだったんだ? と思えてくる。
パーティでのヴィータの役目は先陣を切る事であり、そして遊撃である。
とにかく危険度が高いモンスターを倒すのがヴィータの役割だ。
ヴィータの戦闘スタイルは単体で完結するため、パーティ内での連携などなかった。
強すぎる衝撃の余波で仲間を巻き込まないように気を使ってはいたが、助けられたことはない。
「まぁ、本当はあの程度の攻撃など避けるまでもなかったのだがな? でも我はダーリンのパンチだけをもっと味わいたかったのだ♡ そのためにはあんなヘナチョコで不純物だらけの攻撃など邪魔でしかない。もうダーリン以外には触れられたくもなかったのだ♡」
そう言ってオトワはぎゅ~っと抱き着いてくる。
その手の行為に免疫のないヴィータはどうして良いかわからず、赤面しつつされるがままだ。
(というか、その「パンチを味わいたい」ってなんだ!?)
オトワの積極的なアプローチに圧倒されていて今まで聞き流してしまっていたが、良く聞いて見ると意味不明だった。
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