023:勇者は興味をもたれない② ~追放サイド~


「~~~~~っ!!??」


 クリムたちはターゲットの姿にゾッとした。


 そこにあったのは人型の中心部に剣でも突き刺されたかのような穴を残したターゲットの姿だ。

 穴は高熱によって赤く発光し、ドロリと溶けていた。


 圧倒的な熱量で溶かされたのだと理解できるが、ターゲットのそんな状態はその場の誰も見たことがなかった。


 クリムはその光景から、自分の頬にわずかに残る熱の跡を震える手でなぞった。


 勇者パーティの中でも最も優れた眼を持つ風の勇者アイリの目にすらも止まらない神速の攻撃……それがほんの少しでもズレていたら、自分の頭は今、ここになかったと強制的に理解させられてしまう。

 実力差を解らせられてしまうは十分すぎる、あまりにも静かな一撃。


「ひぃっ……!!」


 クリムはイケメンを欠片も感じさせない情けない尻もちをついてしまった。


 そしてトンタオは「本物だ」とその場にた勇者パーティのメンバーたちは確信せざるを得なかった。

 状況が分からないままだったキキーも、トンタオが異常なほどの力の魔法剣に選ばれていることが一瞬で理解できた。


 先に人払いをしておいて正解だった、とクリムは震えながらに思う。

 クリムが持つこの「自分の地位や名誉を傷つける可能性がある人間を見分ける」感覚はある種の才能である。

 この才能でクリムは現在の自分の地位を築き上げたと言っても良い。


 コイツ、明らかに勇者レベルだ……!!

 それも俺様以上の、伝説レベル……!!


 ターゲットを一撃で粉々に粉砕して見せたヴィータにはまだ遠く及ばないが、それでもターゲットを破壊したのはクリムが知る限り歴史上でヴィータに次ぐ2人目である。


 最強の勇者を自称するクリムの全力の必殺技ですらターゲットには深めの傷をつけるのがやっと……。


 どうする!?

 どうしようもない!!


 体だけでなく脳の奥まで怯えて震えるような圧倒的な力の差によって、恐怖と不安と混乱がクリムの思考をかき乱した。

 最後の最後に予想外過ぎる応募者が紛れ込んでいた。


 ダメだコイツ……早くなんとかしないと……!!


 クリムは、今回の審査を盛り上げようと見学可能にしたのは失敗だったと今更ながらに後悔し始めていた。

 トンタオの知名度は間違いなく急上昇してしまったハズだ。


 すぐにその実力は明らかになる。

 今はまだ新人で最低ランクのFランク冒険者でしかないが、すぐにAランク……下手すればSランクに到達して新しい火の勇者と認定される事だろう。


 そうなれば王のお気に入りであるクリム自身の地位が危うくなる。


 王が求めているのは「強い力を持った火の魔法剣の使い手」だ。

 今はクリムがそこで最強の座についているだけであり、条件に当てはまるより優れた使い手が現れてしまえばクリムは用済みになってしまう。


 それだけは何が何でも許されない。


 ヴィータは幸運にも落選者だったし、火の魔法剣の使い手で有望そうな者たちはで始末してきた。


 これまでのその地道な努力を無駄にするわけにはいかないのだ。


 トンタオを野放しにはできない。

 可能な限り迅速に始末しなければ。


 だが、そう思っても今はどうしようもなかった。


 パーティ全員で襲い掛かっても軽く返り討ちにされるに決まっている。

 それどころかオリバとアイリは戦意を喪失しているくらいだ。

 キキーに至ってはそもそも言動が読めない。


 くそったれ!!

 これもきっとヴィータのせいだ!!

 アイツがいたからあんなヤバい変人がどっかで育っちまったんだ!!

 人間の世界から追放してもアイツの存在自体が俺様の邪魔をしやがる!!


 ヴィータめ! ヴィータめ!! ヴィータめ!!!!


 逆恨みが極まったような恐ろしく狂った思考回路だが、それが今のクリムの見せかけのプライドを守るためにできる唯一の思考だった。


 クリムは理不尽な怒りに任せて訓練場の地面を殴りつけた。

 が、それだけだ。


 結局、クリムは腰を抜かしてへたりこんだまま、何事もなかったかのようにトコトコと立ち去っていくトンタオの後姿を黙って見送るしかできないのだった。

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