021:勇者は戦力を増やしたい④ ~追放サイド~


「おい、見ろよ! あの地面なんかヘンだぞ!」


「あ、あいつの周りだけ無傷!?」


「もしかし勇者様の攻撃を打ち消したのか!?」


「嘘だろ!? あの攻撃を!? どうやってだよ!?」


 落ち着きを取り戻したのか、ギャラリー達もトンテオの周りの違和感に気づき始めた。


(くそったれ。マヌケ共でもさすがに気づくか……)


 この流れはマズイな。

 トンテオという新人の評価が一気に上がっていくのが誰の眼にも明らかだ。

 このままではコイツは計画の邪魔になる。

 というか俺様より目立つのは許さない……!


 様々な思惑がクリムの中で入り混じっていた。


「トンテオ、やるじゃないか。、良く打ち破ったね。素晴らしいよ!」


 そして苦し紛れに放たれたのは言い訳じみた賞賛の言葉だった。


(さすがに苦しいか……!?)


 一瞬その場が静まり返り、さすがのクリムも焦ったが……


「な、なるほど~!」


「そ、そうか! そうだよな!」


「一瞬、勇者を超える逸材が現れたのかと思ったぜ~!」


「いやでもスゲーよ! あの嬢ちゃん、何者だ?」


 どうやら上手く誤魔化せた。

 なんとか勇者の面目は保てたようだ。


(この場に残っているのがバカばかりで助かったぜ!)


 優秀な応募者はサブパーティとしての登録のために受付で手続きをしているためこの場には残っていない。


 訓練場には事前に用意していた魔力増幅の魔道具もあったため、実際にはこれまでの審査の疲労などない。

 むしろ戦場で使用するよりも増幅された完璧以上の威力の一撃だったのだが、そんなことに気づけるヤツはいないだろう。


「もう十分だ。トンテオ、君の実力は分かったから審査はここまでにしよう。実力は申し分ない、Aグループだよ。おめでとう」


「はぁ」


 クリムからAグループと告げられてもトンテオは興味すらなさそうにテキトーに頷くだけだった。

 むしろギャラリーの方が「だよな!」「やっぱりな!」「凄い新人が来たな!」と盛り上がってるくらいだ。


(なんなんだコイツ……?)


 自ら応募してきたクセに、最初からずっとやけにテンションが低い。

 たまにキョロキョロと何かを探すような素振りを見せるが、それ以外には何にも興味がなさそうだ。

 最強の勇者で最高のイケメンである俺様に出会っただけでこの世の女どもはみんなテンションがマックスになるのが普通なのに……。


 と、相変わらず謎の尺度でトンテオを不思議がりながらクリムはこの先の計画に思考を移す。


「みんなー! 今日は来てくれて感謝する! 見ての通り、訓練場の整備が必要になった。今日はここまでで解散だ。さぁ、訓練場から出た出たー!」


 上手い具合にギャラリーを追い出す理由を見つけ、審査は解散とする事にした。


「いや~すごかったな。勇者パーティに立候補するだけあるぜ」


「確かに実力者だらけだったな。これなら人類の平和も安泰だ」


 満足気なギャラリーたちと一緒にスタスタと帰ろうとしていたトンテオをクリムが呼び止めた。


「トンテオ、ちょっと良いかな? 君は少し残ってくれ」


「はい?」


「訓練場を片付ける前に、もう少しだけ君の力を見せて欲しいんだ」


「なぜでしょう? もう審査は終わりましたよね?」


(ぐっ……俺様に向かってなんて態度だ、コイツ!?)


 クリムはトンテオの態度にイラッとしながらも、冷静に言葉を選ぶ。


「た、確かに審査の基準はクリアしていたよ。でも、君ほどの実力者の力だ。やはり最後までしっかりとその力を確認し、把握しておくべきだと思ってね。共に戦うために、ね?」


「はぁ」


 改めて間近で見てみると、トンテオは絶世の美貌を持つ少女だった。


 真っすぐに伸びた美しい金髪、深い碧眼、汚れとは無縁の白い肌。

 プロポーションも女らしく出るところはしっかり出て、へこむところはへこんでいる。

 表情や佇まいは無気力に見えるが、その身体がしっかりと鍛え抜かれているのは服を着た上からでも見て取れた。


(チッ、もったいねぇな)


 これで「火の魔法剣の使い手」でなければ、サブパーティではなく勇者パーティに入れてやっても良いと思えるくらいの逸材である。


 先ほどまでの審査でクリムはトンテオに自身を超える才能を見ていた。

 予想外の邪魔者だ。


 、な。

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