020:勇者は戦力を増やしたい③ ~追放サイド~


「行くわよ!! 私たちの水と風の合体技……最大出力ぅ!!」


「吹き飛びなさい!! 【水風圧縮砲】ッッハイドロキャノン!!」


 ドパアアアアアアアアアアアアアアン!!!!


 オリバの水の魔法剣とアイリの風の魔法剣の相性は抜群だ。

 互いが互いの魔力を増幅しあう効果があるのだ。


 相乗効果によって増幅された圧倒的な水量のオリバの水球をアイリの暴風が囲んで圧縮し、2人で弾いて打ち出す。


 まるで超密度の水の隕石だ。

 完璧な状態で放たれた【水風圧縮砲】はAランクに相当する巨大なモンスターも一撃で倒せるだろう。


「さぁ、トンテオ! 次の審査だ! この攻撃に耐えて見せてくれ! 勇者パーティは常に人類を背負って戦うんだ! たとえどんな強大な敵が現れても逃げると言う選択肢などない!!」


 あまりに強大な必殺技の迫力を前に「やべぇ!」「ぎゃあああ!!」「死ぬぅぅぅ!!!!」と大騒ぎで訓練場から逃げ出すギャラリー達の中で、クリムはあえてトンテオを煽り、彼女だけは逃げられないような空気を演出した。


 サイン通りの勇者2人の全力の合体必殺技だ。

 まともに受ければ大怪我は免れないだろうが、これも勇者パーティの面目を守るためだ。

 必要な犠牲と言うヤツである。


 もちろん俺は逃げるけどな!!

 と、すでにクリムは訓練場の端まで移動済みである。


(さぁ、受けれるモンなら受けて見やがれ!!)


 審査の第二段階では回避不能の大技で純粋な防御力を審査する。


 さきほどのオリバの攻撃は、あえて回避や受け流してのダメージ軽減が可能な小技を選択していた。

 だがこの技は違う。


 応募者には最初に審査のためのルールを説明してある。

 この訓練場の地面には枠が設けられており、審査中はそこから外に出てはいけないルールだ。


 この技はその枠を飲み込む大きさでであり、故に回避は不可能である。

 そして巨大すぎる質量は受け流しも簡単ではない。


 これほどの攻撃を受け流す類まれなテクニックか、あるいは耐えきる強靭なタフネスか。

 

 本来はそれを審査するために用意したが……今回だけは違う。


 ぽっと出の新人が勇者の面子を潰すような活躍をするなんてクリム的には許されないのだ。


 むしろケガして泣きやがれ!

 慌てふためいて情けなく枠から逃げ出しても良いくらいだぜ!


 という小物っぷりのお気持ちである。


 のだが、クリムの期待とは裏腹に、トンテオは勇者2人の合体技を前にしてもその無表情を崩してはいなかった。


【火燕】スワロフレイム


 強大な水球が直撃し、訓練場が強烈な水蒸気の爆風に覆われるその刹那、クリムはトンテオの魔法剣が静かに揺れるのを見た。


 ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!


「ぎゃあああああああああああ!?」


「ひええええええええええええ!?」


「ママあああああああああああ!?」


 大技が炸裂するその衝撃にギャラリーたちが阿鼻叫喚の大騒ぎになる。

 そんな騒ぎが収まるのと同じくして水蒸気の霧が晴れていく。


 そこには爆風で消し飛んだ枠から飛び出すどころか、その場から一歩も動くことなく無傷で立つトンテオの姿があった。


「よ、避けたのか……?」


「おい、枠がなくなっちまってるぞ……」


 状況が理解できないギャラリーがそんなマヌケな事を言い出すが、そんなハズがなかった。


 トンテオの周囲だけ地面がキレイなままなのだ。

 水滴で濡れてすらいない。


 トンテオは最小限の力、最小限の動作で自分の周りだけ攻撃を相殺したのだ。

 遠くにいてもじっとりと湿度が増したのを感じるほどの水量だったのに対し、水一滴も残さない程に蒸発させてしまうほど完璧に相殺して見せたのである。


(あの攻撃を相殺しておいて、コイツは汗一つかいてねぇのか……!?)


 ヤバイ。

 コイツ、やっぱりヤバイやつだ。


 クリムの嫌な予感は完全に確信に変わっていた。


 そんなクリムに少し遅れてギャラリーたちもその違和感に気づき始める……

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