ヴィータのパンチ気持ちよすぎだろ!~S級勇者パーティから追放されたハズレスキルの拳聖が実は最強だった件。SSS級魔王パーティに誘われたので楽しく暮らします。人類は滅亡するけど今更謝ってももう遅いです~
019:勇者は戦力を増やしたい② ~追放サイド~
019:勇者は戦力を増やしたい② ~追放サイド~
「では……トンテオ。君の力を見せてくれ」
「はい」
最後の審査に現れたのは金色の髪と紺碧の瞳を持つ少女だった。
「おん? 誰だ、あれ?」
「確かに見ない顔だな……」
「でも、すげー美人」
見覚えのない人物の登場と、その少女の美しさに訓練場がザワつく。
クリムも同じで、応募書類を見た時から馴染みのない名前だと思っていた。
なんだかヘンテコな名前だし一度見たら印象に残りそうなものだが、ギルドの常連であるクリムにも聞き覚えがない。
書類をよく見てみると、どうやら冒険者登録されたのが一週間ほど前のようだ。
完全な新人である。
(コイツ……いや、まさかな)
その髪と目の色の特徴は、この国ではあまりにも目を引くものだ。
なぜならそれはクリムと同じ伝説の勇者と同じ特徴だからである。
「準備は良いか?」
嫌な予感を振り払いながらクリムは冷静に審査を進めた。
「いつでもどうぞ」
そう言ってトンテオは静かに魔法剣を出現させる。
ボッ。
現れたのは紅玉が散りばめられた美しい柄と、そこから真っすぐに伸びる真っ赤に燃えた刀身。
「おぉ、火の魔法剣だ!」
当然、訓練場のザワめきはさらに大きくなる。
刀身から発せられている熱量は弱いが、紛れもない魔力の炎をまとっている。
伝説の勇者と同じ外見的特徴を持ち、さらには火の魔法剣に選ばれた存在。
「なるほど……? これは期待できそうだな」
クリムは湧き上がる不安をごまかすように冗談っぽく言った。
対するトンテオは対して興味がなさそうに、小さく頷いただけでただ目の前を見つめていた。
その視線の先にいるのは水の勇者オリバと風の勇者アイリ。
「ではまずは防御力の審査からだ」
クリムがアイコンタクトを送ると、まずはオリバが魔法剣を振るう。
「行くわよ!
ザッパァアアアア!!
オリバの魔法剣から生み出された2本の水流は鞭のようにしなり、生きた蛇のようにグネグネと変則的な軌道でトンテオに襲いかかる。
審査の第一段階では攻撃への対応能力を審査する。
オリバの攻撃への対処方法はいくつか考えられる。
避けても良いし、ガードしても良い。
そして可能ならば、勇者の力を超える攻撃力で打ち破っても良い。
だが、これまでの応募者の中に最後の選択肢を選び、達成できた者はいなかった。
「珍しい火の魔法剣だが、なんだか火力が低そうだな」
「確かに。クリム様に比べるとなんだか種火って感じがする」
「それに火の魔力は水の魔力に弱いとされている。魔法剣の相性も悪いぞ?」
完全にギャラリーと化した審査済みの冒険者たちも、勇者の素質がありそうなトンテオの登場にテンションが上がっている。
ギャラリーたちの言う通り、オリバの攻撃をトンテオが打ち破れるとは思えない。
伝説の勇者はこの世に1人で良い……。
そしてそれはこの俺様なんだ!!
クリムは冷静にトンテオの実力を見極めようとした。
今の所、トンテオは無気力にただ立っているだけだ。
魔法剣を出現させはしたが、ただ持っているだけの様子である。
戦うための構えもなく、友達との待ち合わせ時間を待つ子供のようにただ脱力されたような自然体な姿だ。
そこからトンテオという少女の戦闘スタイルが見えてこない。
(やる気ないのか、コイツ!?)
クリムが困惑する中、それでもオリバの水流は容赦も躊躇もなくトンテオに襲いかかる。
「
オリバの水流がトンテオに触れる瞬間、円を描くように振り抜かれたトンテオの剣が、静かに燃えた。
ジュッ!!
「……うそ!?」
水流が一瞬にして蒸発し、オリバが驚愕に目を見開く。
ギャラリー達も騒然となった。
「なんだ今の!?」
「速すぎて剣先が見えなかったぞ!?」
「なんか一瞬だけ熱量が上がらなかったか!?」
相性が悪いはずの火の魔法剣に、水の勇者の技が完璧に打ち破られたのだ。
あまりの速さに見逃した者もいるくらい、一瞬の出来事だった。
「……次だ!」
なんだかマズイ雰囲気を感じ取り、クリムは急いで次の段階に審査を進めた。
「え、遠慮はなしで行くわよ!? アイリ!」
「わかってる!! 行くよ、オリバ!」
クリムからのサインを受け、今度はオリバとアイリが呼吸を合わせて大技を放つ。
2人に向けられたクリムからのサインは「全力で叩き潰せ!」である。
サブパーティ向けの優秀な冒険者は大歓迎だったが、この女は明らかにその範疇を超えようとしている。
コイツはダメだ!!
俺様となんか色々とかぶってやがる!!
真の勇者は俺様だけで良いってのに!!
四天王の座はとっくに埋まってるんだよ!!
クリムが求めているのは使いやすい駒に過ぎない。
クリムを超える勇者の誕生など望んでいないのである。
勇者クリムの心は狭いのだ。
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