018:勇者は戦力を増やしたい① ~追放サイド~


「ハァァー……【風爪乱舞】ウインドクロウ!!」


 ズバアアアン!!


 1人の少女の魔法剣から放たれた強烈な暴風が冒険者ギルドの訓練場に吹き荒れ、設置されたターゲットに爪痕を残した。


「くっ、なんて威力だ!」


「さすがAランクだぜ!」


 その技の威力に周囲の冒険者からは感嘆の声があがる。


「風の魔法剣でターゲットに傷をつけるとは、良い威力だ。おめでとう、エイサ。君はAグループだ」


 クリムにそう告げられた女冒険者は頬を赤く染めて感謝の言葉を述べる。


「あ、ありがとうございます!!」


 憧れの勇者から実力を認められ、その目尻にはうっすらと涙さえ浮かべていた。


 防御力に優れた複数のモンスターの素材を合わせて作られた冒険者ギルドの人型ターゲットは魔法剣の攻撃を受けても絶対に壊れないほどに頑丈だと言われている。

 それに傷をつけただけでも十分に評価されるレベルだ。


 そして過去にそれを破壊したのは、よりにもよって落選者であるヴィータだけだった。


「よし、次で最後だな」


 少女がご機嫌なステップで訓練所から出て受付に向かうのを見送って、クリムは人知れず溜め息をついた。


 二日酔いの頭を抱えながら、今日はぶっ通しで実力審査を行っている。

 さすがに疲労感を感じるが、それも次で終わりだ。


(まぁ、ここまで予想通り……ってところか)


 山のような応募者がいても、やはりヴィータが持っていたパワー、タフネス、スピード、テクニック……どれか一つでも上回っていると思える冒険者は現れなかった。


 ま、当然か。

 この俺様ですら単純な身体能力ではヤツには劣る……。


 全く、バケモノめ。


(でも俺には最強の火の魔法剣があるんだがな!!!!)


 魔法剣至上主義の子の背愛では、最強の魔法剣に選ばれたという事実だけでその他のあらゆる評価をねじ伏せる事ができる。

 それが選ばれし者である自分なのだと信じるクリムの辞書に「劣等感」などと言う言葉は存在しないかった。


 そんな最強の勇者クリムの独断と偏見と性癖により、審査は順調に進んでいた。


 中でも先ほどの風の魔法剣の少女エイサのように、明日の仕事から使えそうな即戦力をAグループ。

 即戦力とは言えなくとも、利用価値のある冒険者として優秀な者たちをBグループ。

 それ以外の囮程度にしか使えないザコはCグループに振り分けた。


 これだけの数がいれば当然、それなりに優秀な人材はいる。

 その中にはクリムと同じ希少な火の魔法剣の使い手もいたが、勇者クリムと比べれば子供レベルの能力だった。

 他にも木の魔法剣の使い手もいたが、キキーのように回復スキルが使えるレベルではなかった。


 やはり勇者レベルの逸材はそう簡単には現れない。

 とはいえ、それすらもクリムの予想の範疇ではあり、そして計画通りだ。


 即戦力のAグループと言っても、しょせんは勇者パーティを補助するサブパーティとしての実力に過ぎないのだ。

 勇者パーティとの実力は歴然としていて、その最強の座は揺るがない。


 クリムにとっては実に都合の良い環境である。


(あの女、体の育ち具合はキキーよりも立派だったんだがなぁ)


 木の魔法剣の使い手は、しっかり育てれば回復スキルが使えるようになるかもしれない。

 そうなれば今よりもクリム好みのパーティが組める。


 キキーはクリム好みではないツルペタ体型で、そして未だにクリムに媚びないため、クリムにとっては扱いにくい厄介なメンバーでもあった。

 魔王を討伐し、ヴィータを追放できた今となってはクリムに恐れるものなどない。

 じっくりと自分好みのパーティを作れるというわけだ。


 だがキキーの幼女体型には王と言う特別な需要がある。

 今後の計画を円滑に進めるためにもキキーを手放すわけにはいかない。


 残党狩りやサブパーティの管理など、これから勇者としての仕事も忙しくなる時期だ。

 その前にキキーを落としておく必要があるだろう、とクリムは考えていた。


(ま、俺様にかかれば楽勝だがな。一晩あれば余裕だろ)


 女遊びは勇者の嗜み。

 そう思い込んで数々の女を泣かせてきたクリムである。


 すでにキキーを落とすためのプランも立てていた。


(ツルペタボディには興味ないが、仕方がないからたまには相手をしてやるとするか。キキーも素材自体は悪くないからな。一晩遊んでやるくらいなら良いだろう)


 ゲスな笑みを心の内に隠し、クリムは最後の応募書類に視線を落とした。

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