014:勇者は計画を進める③ ~追放サイド~


「これが応募者の書類よ」


 アイリが荷物から大量の応募書を取り出してテーブルいっぱいに広げる。


「おぉ……!」


 その予想以上の量にさすがにクリムも驚いた。

 だが、それは良い意味での予想外だ。


(さすが俺様の人気……とはいえ、ヤツの戦闘力はガチでヤバいレベルに達していたからな)


 単体で圧倒的な破壊力を持ったヴィータの代わりなどいるハズもないと、クリムは最初から理解していた。

 これだけの数の中にもそんな人材はいないだろう。


 むしろ居てもらっては困るのだ。

 最強は勇者クリムでなくてはヴィータを追放した意味がなくなってしまうのだから。


 だからクリムは個の力ではなく、それを人数でカバーする事にした。


 優秀な魔法剣の使い手を厳選し、サブパーティを結成させる。

 そして仕事に使えそうなサブパーティを配下に加えて共闘するのだ。


 そもそもクリムは「四天王なのに5人もいらないだろ、バカかコイツら!?」とずっと思っていたのである。


 四天王はギルドが定期的に行っている「冒険者四天王総選挙」を通して選ばれる。

 王家や貴族ではなく民衆の投票なのだ。


 総選挙で一定以上の人気を集めた冒険者が四天王になるのだが、クリムたち票を集める為にアピール演説や握手会などをやっているのに対し、ヴィータは何もせずにその強さだけで票を集めているという事実もクリムには許せなかった。


 とにかく最初からずっと、ヴィータを5人目の四天王から追放したくて仕方がなかったのだ。

 選ばれし存在である自分が落選者と同格などと、考えただけでも虫唾が走るのである。


 だがヴィータは国外追放になり、無事に四天王からも除外された。


 今後は自分たち勇者パーティを真の四天王とし、サブパーティを足りない戦力の強化として上手く利用する。

 これなら勇者パーティである自分たちの価値がより高くなる。


 それをクリムの計画の一つだ。


 優秀な冒険者の数には限りがあるだろうが、Sランクに達していないザコ冒険者でも居れば囮くらいにはなる。

 使い捨てる冒険者の頭数は必要になっても、王が認めた勇者クリムと魔王討伐の功績、そして国を代表する美少女勇者たちを餌にすれば、冒険者などいくらでも集められる。


 現に目の前の応募書類の山がそれを証明してくれていた。


(計画通り、いやそれ以上……!!)


 そもそも複数のパーティによる同時攻略はユニオンという形式で以前から認められているため、報酬の分配で揉める事にもならない。


 ユニオンの報酬の振り分けはメインパーティに一任されるようにルールを捻じ曲げてある。

 すでに国王経由でギルドには根回し済みなのだ。


(ククク……計画も大事だが、これで今までよりも更に楽に安全に稼げるぞ……!!)


 ルールを捻じ曲げるのには王の権力を借りたため、その分け前をギルド経由で王へと支払う事にはなったが、それを考慮しても十分に稼げる計算である。


 世界を変えるには力だけではなく、金も必要だ。


 金と力と、そして輝かしい実績による盤石の地位。


 それら全てを手に入れるため、クリムは舌なめずりしてテーブルを立つ。


 さて、どんな優秀な駒が集まってくれたのか……クリムはワクワクしながら訓練場へと向かうのだった。

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