013:勇者は計画を進める② ~追放サイド~


 ヴィータの国外追放により、まずは計画の第一段階である「邪魔者の追放」が完了した。

 

 パーティからヴィータを追放するためにいろいろと理由をつけたが、クリムにとってはそんな理由なんてどうでも良かった。

 そんなものはパーティメンバーを納得させるためにでっち上げただけのものだ。


 とはいえ、女どもはすでに俺様の魅力にメロメロだ。

 俺様が何を言っても納得しただろうがな。


 などと考えているのがクリムという男である。


 だが、実際にクリムはモテモテであった。

 とてもイケメンなのである。


 伝説の勇者と同じ金色の髪と青い瞳に白い肌。

 そして攻撃特化の火の魔法剣に選ばれ、それを使いこなす剣の腕も持ち合わせている。


 勇者クリムは超大国ズァナルでは最も男らしいと言われる要素を全て兼ね備えているのだ。


 そして上昇志向で勇気があり困難に立ち向かう漢気すらもあるように、そう思われるような行動をクリムは常に意識している。

 魔王討伐と言う最も危険な冒険にも臆することなく挑み、打ち勝ってきた。


 それは実際にはヴィータが破壊した魔王のコアなのだが……事実は関係ない。

 クリムにとって大切なのは「どう見えるか」なのである。


 結果として女どもには無条件でチヤホヤされ、男たちからねたそねうらやみの視線を浴びる人生を勝ち取った。

 それらを見下して涼しげな顔をしてやるのがクリムの生きがいである。


 オリバはともかく百合の気があるアイリまでも完全に自分に惚れていると本気で思っているクリムだが、例外と思えるのは木の勇者であるロリっ娘、キキーくらいだ。

 今も酒場のテーブルで無言のまま、ちまちまとジュースを飲んでいるこのキキーだけは、クリムにも何を考えているのか良く分からない女だった。

 極めて口数が少なく、ヴィータに対してはなぜか「死ね!!」しか言わない。


 俺様の好みではないが、魔法剣の力は優秀だ。

 特に回復スキルの使い手であるキキーは貴重だ。


 そして王の好みのツルペタ系の美少女でもある。


 絶対に手放すワケにはいかない。

 これからも俺様の野望のために働いてもらう必要がある。


 そう考えているのだが、なぜかキキーはオリバやアイリと比べてもクリムへの反応が薄かった。


 俺様のイケメン勇者オーラに惑わされないとはな。

 ふっ、おもしれー女。


 今後の計画のためにも早めに落としておかないとな……。


 などと考えながら、クリムは次の計画を進める。


「それで、新メンバーはどうなってる?」


 パーティから追放したヴィータの代わりを務める仲間の募集は水面下で進めていた。

 実際にヴィータを追放する前から、こうなることは決まっていたからだ。


 勇者パーティの次の仕事はすでに決まっている。

 その前に新入りと酒場で顔合わせを行う予定になっていた。


 そのためにクリムは二日酔いの頭を押さえながら、わざわざ酒場までやってきたのだ。


「来てますよ~! 大人気すぎて私たちで使えそうな人たちを選んでおきました! さすがクリムさまです!!」


「それでも多すぎたからギルドの訓練場に待機させてるわよ。オリバが最終選別はクリム様に任せるって言うから」


「…………」


 相変わらずキキーは無言だ。

 むしろヴィータがいた時よりパーティへの興味のなさが悪化している気がする。


(いや、気のせいか。キキーはヴィータを死ぬほど嫌ってたからな。死ね、しか言わないなんてよっぽどだろう)


「オリバ、良い判断だ。よし、さっさと最終選別をしてしまおう! 俺たちには次の仕事が控えてるからな!!」


 次の仕事はAランクダンジョンでの残党狩りだ。

 魔王を倒しても世界中に点在するモンスターの巣穴、ダンジョンが消える事はなかった。


 クリムたちの次の計画は「魔法剣への信仰心を高める」ことだ。


 そのためにはダンジョンを攻略しまくるしかない。

 そして落選者であるヴィータなんぞ、ただの足手まといの役立たずだったとバカな民衆に思い知らせる必要があるのだ。

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