012:勇者は計画を進める① ~追放サイド~


「くそったれ、まだ吐き気がするぜ……」


 王との密会を終えた翌日、勇者クリムはまだ完全にアルコールの抜けきっていないクラクラした頭を抱えながらギルドに現れた。


 王への暴言はそれだけ死罪に値する大罪である。

 勇者とだろうとそれは同じであり、クリムの悪口も周囲に聞こえない程度の小声だ。


 クリムは密会の後、気を良くした王が気まぐれに開いた宴に付き合うハメになった。

 夜通しでご機嫌取りなど反吐がでるが、今はまだ王のご機嫌を損ねるわけにはいかない。


 しかし勇者と言えども人間である。

 酒を飲みすぎれば二日酔いになるし、徹夜をすれば脳の疲労も蓄積する。


 加えて、王と勇者は女の趣味が合わなかった。


 ツルペタ大好きな王が宴に呼び集めた女たちはみなスレンダー体型の少女ばかりであり、巨乳派のクリムにとっては楽しくない。

 それでもさすがは王の目に留まった美少女達で、その将来を想像すれば楽しみではあるのだが……クリムにしてみれば「今ではない」という気分で、むしろ生殺しの気分を味わったのである。

 ツマラナイ宴のストレスとアルコールで吐き気をもよおすほどだ。


 あのロリコン豚野郎め。


 と、クリムは再び、今度は内心で毒づいた。


「クリムさま! どうでしたか?」


 そんなクリムを予約していた酒場のテーブルで出迎えたのは水の勇者、オリバ。


 昨夜の鬱憤うっぷんを晴らすように、オリバのそのダイナマイトな谷間に顔面を埋もれさせたい気持ちになるが、今は場所が良くない。

 クリムは欲望をギリギリの所で押さえ込み、クールに席に着いた。


 勇者として弱い姿など見せられない。


 オリバの隣には相変わらずアイリがくっついていた。

 キキーもいつものように席に静かに座っている。


 仲間たちを見まわし、いつものように勇者の中の勇者として爽やかに告げる。


「フッ……計画通りだ。王の俺への信用は揺るぎないものだ」


 魔法剣絶対至上主義。

 それが王と勇者が目指す世界である。


 現在も超大国ズァナルには魔法剣信仰が根付いているが、それをより強固なものにする。

 それにより勇者は絶対的な存在となり、勇者を従える王は神の如く全ての権力を掌握する事ができるのだ。


 王は本気でそう考えている。

 そのために邪魔者を排除しているのだ。


 だがクリムは違った。


 クリムが目指す世界はだ。

 王の操り人形になど、最初からなってやるつもりはないのである。


「さすがです! クリムさま!!」


「これで私たちの理想の世界に近づいたのね!」


「…………」


 クリムの発言に何の疑問も抱かずにすり寄ってくるオリバとアイリの姿に、クリムは自分の欲望が満たされるのを感じた。

 酒場の男達の嫉妬の視線が気持ち良い。


 ズァナルで最高の美女と呼び声の高いオリバと、それに匹敵する美貌のアイリである。

 そんな女たちにベタ惚れされていて、羨ましくないハズがない。


 そんな事を考えながら気分を良くしたクリムは酒をあおった。


「くぅ~~~……!」


 うまい!

 酒はやはり好みの巨乳女と飲むに限る!!


 クリムはアルコールでひりつく喉の感触と共に、二日酔いで鈍った頭が冴えていくのを感じた。


 迎え酒など理論的には何の効果もない。

 むしろ逆効果だと分かっているが、それでも効くものは効くのである。


 酒場の酒と王城の酒、その価値など比べ物にならないだろうが、上手いのはやはりオリバたちをはべらせて酒場で飲むこの酒だった。


「あぁ、すぐに俺たちの世界が来る。俺様が支配する世界がな!! 調子に乗っていられるのも今だけだ……あのブタ野郎が!! おっと……」


 気持ちよくなってつい口が緩んでしまった。


 いかん、いかん……我慢の時だ、まだ今は。


 騒がしいギルド酒場の中、最奥のテーブルの声をピンポイントで聞き取れる者などはいないだろうと思いつつも、クリムは「まだ」気を抜くなと自身に言い聞かせた。

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