011:魔王との再会④
「ぶ、分身体だと!? お前、本体ではなかったのか……!?」
そんな問いかけを何とかを絞り出したヴィータだが、拳はフニャフニャである。
「ダーリンったら大胆なんだな♡ こんなスゴイの、本体で受けたら死んでしまうゾ♡」
スライムが分裂するのは聞いたことがあったが、分身体を作るなんて聞いたことがなかった。
分裂と分身は似ているが全く違う。
コアを複製して新しい個体を増やす分裂に対し、分身は本体のコアと繋がった新たなコアを作る事で遠隔操作できる第二の肉体を作り出す。
これが分身体ならば、つまりは本体が別にいるという事になる。
そして分身体でこの再生能力なら、本体はどれほどの力を持っているのか想像もつかない。
弱い本体を守るために別の強い肉体を作り出して使うモンスターもいるが、このクイーンスライムがそうだとは思えなかった。
オトワは「いくらでも攻めて来い」と誘うかのように、未だに戦闘態勢を取っていないのだ。
この余裕を見るに、まだかなりの力を隠しているに違いない。
ヴィータは警戒しつつ、周囲を探る。
誰よりも研ぎ澄まされた肉体は、人類最強の武器であると同時に人類最高のセンサーでもある。
(どちらにせよ、本体を見つけなければ魔王は倒せない……いや、待てよ)
「お、お前、本当に魔王か!? なんかキャラが違うぞ!?」
魔王はスライムがとてつもなく珍しい突然変異を起こした結果として生まれたと言われていた。
そんなスライムが目の前に現れた時点で、ヴィータは魔王に違いないと判断してしまった。
だが、本当にそうなのだろうか?
そんな疑問がヴィータによぎる。
ヴィータが勇者パーティと共に魔王と戦った時に受けたクイーンスライムの印象は、目の前にいるクイーンスライムとはまるで違う。
それを例えるなら、無口で無機質な殺戮マシーンだ。
接近する人間を反射的に、そして的確に命を絶つような最小限の変形で攻撃してきた。
人型を模した姿は似ていたが、ここまで精巧に人間には擬態していなかった。
ヴィータが倒したと思っていた魔王は、オトワとなのるこのスライムが最初にそうだったように、身体は水色の半透明なもので、顔すらなかったのだ。
こんな美少女の姿などではなかったのである。
「ん? あぁ、あの偵察拠点でダーリンたちと戦ったのも分裂体だったからな。あの時は人間と会話するための機能などつけていなかったしな。ダーリンみたいな人間がいるとは思ってもいなかったんだ。もう、なんというサプライズなんじゃ♡」
無口なのではなく喋る機能がそもそも存在しなかったらしい。
スライムって機能を着けたり外したりできるのか……?
そういうものなのか……?
と、色々と謎は深まるが、どうやら同一の個体であることは間違いないようだ。
だが冷静に考えれば当たり前である。
最初からオトワはヴィータを知っていたのだから。
一方で、今度はそれよりも気になる言葉が出てきた。
「え? 偵察拠点……? あれは魔王城じゃ……」
「んん? あれが城? あんなもの、あの付近のエリアを偵察するためのただの臨時の拠点だが……そういえばさっきも我の事を魔王だとか呼んでいたな?」
オトワが可愛らしく首をかしげる。
「お前は魔王じゃないのか?」
「そのように名乗ったことなどないな。魔王など、人間が勝手に呼んでいるだけだぞ? ま、確かに我はいずれ魔界の王になるつもりだけどな!! 今はただの最強なスライムだ」
そう言ってオトワが胸を張り、たわわな果実がプルンと揺れ、そしてヴィータは謎のドキドキに襲われる。
「というか、魔王がこんな所にいるわけないだろ? 魔界の王ならば魔界にいるのが普通じゃないか?」
「え?」
予想外の言葉にヴィータはドキドキを忘れて真顔になった。
「ん? 我、なにか変なこと言ってるか?」
「いや、ここ魔界じゃないのか……?」
「違うだろう、どう見ても」
「えぇ~…………」
何がなんだか分からない。
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