004:そして反逆者に仕立て上げられる②


「え?」


 反逆者? と首をかしげる間もなく、ヴィータは厳重な輸送用の馬車にブチ込まれた。

 普通の人間なら大怪我をしてもおかしくないほどの怪力だ。


 さすがは王国騎士団である。

 が、肉体一つでダンジョンの最前線に立ち続けたヴィータにはなんてことはない。

 簡単に振り払える程度にしか感じられなかった。


 だがヴィータは抵抗しなかった。


 国王直属のエリート部隊に逆らえば、今以上に厄介な事になるのは明白である。

 昨日からトラブル続きのヴィータにとって、これ以上の面倒事は勘弁してほしいものだった。


 当然ながらヴィータには反逆者などと呼ばれる筋合いはなく、心当たりもない。

 騎士たちは何かを誤解しているのだろう。


 だったらできるなら会話によって、そして穏やかに誤解を解きたいものである。


 そう考えながら、無言のまましばらく馬車に揺られるが、その間に騎士たちは口を開かなければ目も合わせてくれない。

 どこに向かっているのかも分からない。


 こうも状況が分からないままではさすがに気分が悪く、ヴィータはできるだけ騎士たちを刺激しないように小さく聞いた。


「えーと、これってどういうことだ?」


「チッ!」


 いきなり舌打ちである。


 ヴィータは傷ついた。

 肉体は鋼でも心は人間だ。


「おい! 言葉を慎めよ!! この反逆者が!!!!」


「心当たりがないんだが……」


「しらばっくれるな。普段からの勇者への反抗的な態度でパーティを追放された落選者め」


「ん?」


「お前は偉大な勇者パーティの冒険を妨げた国家冒険妨害反逆罪によって国外追放だ!」


「んん!?」


「どうやってパーティに入り込んだのかしらんが、お前がいなければクリム様たちはもっとはやくに魔王を倒せただろう!! この国賊めが!!」


 返って来た言葉は予想以上に辛辣しんらつで意味不明なものだった。


 俺が冒険の妨害?

 そんなバカな。


 さすがのヴィータも困惑する。

 ヴィータの今までの戦いと努力、それを全て裏切るような話だったからだ。


 パーティのために命をかけてきた俺が反逆者ってどういうことだ??


 そう混乱するが、一人の男のムカつく笑い顔が浮かんできて、なぜか納得した。


 ああ、クリムか。

 パーティどころか国外にまで追放しようとするなんて。


 ヴィータはなんとなくそう直感した。


 魔法剣への信仰ともいえる神の加護への信仰。

 それは国の王族たち、貴族たちにこそ根深く浸透している。


 ヤツらから見れば落選者などは何よりも汚らわしい存在であり、手で触れたくもないゴミクズのような存在なのである。

 

 そしてクリムも貴族の生まれである。

 最後まで「落選者はパーティに相応しくない」と言っていたが、まさか国からも追放しようするとは予想外だった。

 パーティの戦力増強にと勧誘してきたのはクリムの方だったのだが、よほど名声が欲しかったのだろう。

 最初から、用が済めばこうして捨てるつもりだったのだ。


 こんな冤罪で追放されるなんてたまったものではない。

 このままでは蓄えてきた金も、そして努力でつかみ取った名誉も、全て失う事になる。


 だが、もう何を言っても無駄だった。


 魔法剣信仰は王国騎士団にも広く浸透している。

 騎士団は『王の剣』などと呼ばれるくらいに王族とのつながりが強く、そもそも騎士団には貴族出身の者も多いのだ。


 だから今ここでヴィータの言葉に耳を傾ける存在はいなかった。

 それがどこまでも真実を語る言葉であったとしても。


「マジか~……」


 ヴィータはどうしようもなく、天を仰いだ。

 そこには荷馬車の暗い鉄の天井があるだけだった。


 そうしてヴィータはパーティどころか国からも追放された。

 一文無しというハードモードで。

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