ヴィータのパンチ気持ちよすぎだろ!~S級勇者パーティから追放されたハズレスキルの拳聖が実は最強だった件。SSS級魔王パーティに誘われたので楽しく暮らします。人類は滅亡するけど今更謝ってももう遅いです~
005:勇者は王と悪だくみをする ~追放サイド~
005:勇者は王と悪だくみをする ~追放サイド~
はるか昔、世界の全ては人間が支配するものだった。
だがいつからかモンスターと呼ばれる人間の天敵が現れ、その支配は歪んでいく。
双方の争いは激化し、ついには全世界を巻き込んだ大きな戦争となった。
その戦争により人間の世界とモンスターの世界は二つに分断された。
そして現在、人間世界を実質的に支配するのは超大国ズァナル。
その中央で天を貫くようにそびえるのは巨大な城、アナヴィ王城。
王城の上層階には隠された部屋がある。
そこは王と、王が認めた一部の人間にしか知らされる事はなく、そして入る事もできない。
ヴィータが国外へと追放された夜、そんな隠し部屋の扉がしずかに開いた。
「おぉ、クリムか。首尾はどうだ?」
王のための隠し部屋に現れたのは勇者クリム。
それを待っていたのは現国王であるヒュドロゲヌス・アナヴィだ。
クリムは玉座の前に跪いた。
「ご報告を申し上げます。全ては我らが王の計画通り、あの異端の勇者……いや、勇者の紛い物であるヴィータを追放しました。ズァナル国の外……いや、この人間界の外へと」
「……ほう、追放か。直々に手を下さないで良かったのか?」
期待していた言葉と違う「追放」という単語に王の眉がピクリと跳ねた。
クリムはそれを敏感に察知し、だが慌てることなく答える。
この反応は想定の範囲内だ。
「紛い物とは言えヤツも勇者です。勇者同士の戦いが起これば必ず大きな騒ぎになりますので」
正直に言えば、クリムはヴィータにビビっていた。
魔法剣にも匹敵する……いや、もしかしたらそれ以上の力を持つかもしれないヴィータの拳に正面から挑めば、たとえ勇者である自分でもタダでは済まないだろう。
パーティで挑んでも無傷というわけにはいかない相手……。
それが勇者パーティとして共に戦ってきたクリムだからこそ直感していたヴィータの実力である。
……だが、勇者としてはもちろんそんな事を口にするわけにはいかない。
勇者はズァナルにて最強。
そうでなければいけないのだ。
「ですが心配は無用です。ヤツが魔法剣に匹敵する力を持つとはいえ、しょせんは1人の人間に過ぎません。放り出された魔界ですぐにモンスターの餌食になる事でしょう。それに、万が一の事態にも備えて付近の国境には特別な指示を出しております」
あり得ない事ではあるが、もしもヴィータが生きて戻ってきても「絶対に国内には入れるな」と指示を出していた。
その際には生死も問わない、と。
ヴィータがモンスターを倒して戻って来たとしても、そのままいつかは野垂れ死ぬ事は決定事項なのである。
もちろん王の考えはクリムにも理解できた。
殺してしまうのが最も確実な方法ではある。
だがヴィータの気配察知は驚異的なレベルに達しており、王国の闇ギルドである暗殺者ギルドの殺し屋たちですら近寄れないと言い出す始末だ。
正面から戦うにはリスクが大きすぎる相手であり、結局は追放が最も効率的だった。
「間違いなく排除できたという事だな?」
「もちろんです」
王への報告に嘘はなく、ヴィータは確実に死ぬとクリムは確信していた。
俺様の企てた策に問題はない。
なぜなら俺様は選ばれし存在なのだから!
クリムは特に根拠などなくとも本気でそう思えるタイプの人間だった。
「そうか、良くやった。やはり君に任せて正解だったよ」
そこまで聞いて、やっと王は満足気に顔をニヤけさせる。
「当然のことをしたまでです。これでまた理想の世界に一歩、近づきました」
「うむ、その通りだな。この調子で頼むぞ。共にこの世界のあるべき姿、我々のための世界を目指そう。魔法剣に選ばれた真の勇者が世界を統治する理想の世界に……」
「えぇ、バカでマヌケな下級国民どもを我々が支配し、そして正しく導くために」
「ふわはは! 世界統一は近い!! 魔法剣の導きあれ!!」
「全ては我らが王の御心のままに……魔法剣の導きあれ!!」
王はグラスを手にとり、機嫌よく飲み干した。
クリムもそれにならい、グイとグラスをあおる。
「ふわはははははははははははははははははは!!」
「あーっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」
王と勇者。
2人は秘密の部屋の中で、正義とは無縁の悪い笑顔で高笑いを響かせた。
全ては自分たちの思い通りに進んでいる。
やがて世界の全てが自分たちになるのだ。
と、疑う事もなくそう信じきっていた。
やがて訪れる真の脅威を知らず、それに対抗できたであろう唯一の存在を手放したことにも、すでに破滅へのカウントダウンが始まっていることにすらも気づけずに…………
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