横島恋歌は〇〇たい──②
恋歌はメッセージに慣れたのか、さっきからずっと九鬼とやり取りをしている。
女子同士のメッセージって、こんなに続くもんなのか。すごいな、女子。
時刻はもう21時。そろそろ風呂に入る時間だ。
「おい恋歌、そろそろ自分の部屋戻りな」
「んえぇ〜。もーちょい」
「早く寝ないと肌に悪いぞ」
「あっ、そうだった……!」
恋歌は中学から美容に気を付けていて、睡眠時間は8時間取るようにしているらしい。
その上で早朝ランニング、筋トレ、ストレッチもしているから、そろそろ寝る時間なんだ。
規則正しい生活をしてる褐色ギャルって、なんか面白い。
恋歌は窓から自分の部屋に戻ると、こっちに手を振ってカーテンを閉めた。
やれやれ。ようやく静かになった。
風呂入って、ゲームのイベントの周回でもしないと。
部屋からリビングに降りると、母さんがお茶を飲んで雑誌を読んでいた。
「恋歌ちゃん、来てたの?」
雑誌から顔を上げずに、そんなことを口にした。
よく俺だってわかるな。さすが家族。
「あー……まあ」
「よかったじゃない。また前みたいに気兼ねなく遊べて」
「そう……かもな」
1年前に恋歌と仲違いをした時、俺は結構ショックだった。
今更過去のことをほじくり返すような悪い性格はしていない。
ショックを受けていた俺を、父さんと母さんも心配してくれてたっけ。
「心配かけたけど、もう大丈夫。……のはず」
「そうね。あんた恋歌ちゃん以外に友達いないし」
「…………いるわ」
「間」
いるし。九鬼とか………………九鬼とか。
母さんは雑誌を閉じると、俺と入れ替えにリビングを出ていった。
「遊ぶのはいいけど、もう少し優しくしてあげなさいよ」
「……なんのこと?」
「ギシギシ、ドタバタと……激しすぎ。女の子は卵だと思いなさい」
「なんの話し!?」
◆恋歌side◆
「……むふっ……むふふ……ぬへへ……」
だめだ。口元が緩む。こんなに楽しいの、本当に初めて。
お友達とのメッセージ、楽しい。楽しすぎる。
本当に実りのない話しかしてないけど、それが本当に楽しい。
今何してたのーから始まり、今やってるドラマやアニメの話。駅前にできた新しいクレープ屋さんの話とか。
こ、これはもう、陽キャと言っていいんじゃないでしょーか……!?
……いや、それはよくないか。
九鬼さんはご飯中みたいで、おやすみのスタンプを最後に連絡はない。
おやすみ……友達とのおやすみ。なんという甘美な響き。
パタパタと脚を動かして、九鬼さんとのやり取りを見返す。
「ぬふっ……えへ。むふふ……」
あーニヤニヤが止まらない。
十夜とも約束したし、寝なきゃ行けないのはわかってるんだけどなぁ。
いけない。とりあえず歯を磨いて、寝る準備しないと。
気持ちを切り替えるために洗面所へ向かう。
と、ちょうどお母さんがそこにいた。
「あら、恋歌ちゃん。……何かいいことあった?」
「えっ? な、ななな何が?」
「何となくね。恋歌ちゃんが嬉しそうだったから」
お母さんってエスパーなんだろうか。
いつも夕飯は食べてないから、いつもそんなに顔を合わせないんだけど……まさかすぐに見抜かれるとは思わなかった。
「え……と、ね? ……と、友達がっ、できたの……!」
「あら、本当!? やったじゃない、おめでとうっ」
「んっ……!」
お母さんは、ウチに友達がいないことを知っている。
何度も心配かけたし、心配させてるのはわかっていて、私も苦しかった。
けど、もう大丈夫。……のはず。多分、恐らく、メイビー。
「でね、その……友達同士って、何をしたらいいのかな?」
「んー、そうねぇ。お母さんがあなたくらいの頃は、沢山遊んでたわよ」
「遊び……?」
「ええ。春はみんなでお花見。梅雨は雨の中雨宿り。夏は花火大会、海、BBQ。秋は散歩やピクニック。冬はウィンタースポーツに、お鍋に、初詣……ふふ、懐かしいわねぇ」
「!? お、お母さん、まさか陽の者……!?」
「んー、お母さんたちはそんなこと考えたこともなかったけど……」
陽キャはみんなそう言うの!
ま、まさかお母さんが陽の住人だったなんて……遺伝子さん、ちゃんと仕事して。
「楽しいわよ、友達と遊ぶのは。タコパやお泊まり会みたいな小さいものでもいいし、学校帰りに寄り道したり、休日は適当に街を歩いたりね」
お母さんは当時の思い出を語っている。
聞けば聞くほど自分の境遇が虚しくなってくるけど……すごく楽しそう。
昨日までのウチだったら、嫉妬で気が狂うところだ。
でも、今は違う。
ウチも、遊びたい。
十夜と……九鬼さんと、遊びたい……!
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