横島恋歌は〇〇たい──①
「むふーっ。これを見よー!」
「ねえ、それ何度目?」
無事に恋歌と九鬼を友達にすることに成功した日の夜。
恋歌はずーっとウキウキ顔でスマホを見せびらかしてきていた。
そこには、【九鬼円香】の名前が。
メッセージアプリ、晴れて4人目の登録者である。
因みに残りは俺と恋歌の両親。以上。
俺でももうちょっといるぞ……。
「だってさ、だってさ。初めての友達のIDだよ! テンション上がるでしょ!」
「……そんなもんか?」
「そんなもんなの!」
そ、そっすか。
恋歌にとって、こういう経験もない人生だったもんな……うんうん、今はいっぱい喜びな。
「ぬへへ〜……ぬへへへ〜。ともだちっ、ともだちっ♪」
……嬉しいのはわかるけど、俺のベッドの上で飛び跳ねるのはやめろ、ほこりが立つから。
未だに興奮冷めやまぬ恋歌にクッションを投げつけると、顔面にクリーンヒットして倒れ込んだ。
やば、強く投げすぎた……?
「す、すまん。大丈夫か?」
……返事がない。ただの屍のような。
いや屍はまずいんだが。
クッションをどけて恋歌の顔を覗き込む。
……顔面がとろけてやがる。どんだけ嬉しいんだ。
「嬉しいのはいいが、メッセージとか送らなくていいのか?」
「あっ、そうだ! 夜メッセージしようって約束してたんだ……!」
恋歌は慌ててメッセージを打とうとし……止まった。
「むぅ……?」
「……恋歌?」
「……ねえ十夜。メッセージって何を送ればいいの?」
「…………は?」
何言ってんだこいつは。何を送るって……あ。
そうか、恋歌は今までメッセージを送る相手が……ぅっ、泣くな。泣くな、俺。
「な、なんでそんなに泣きそうなの、十夜……?」
「気にするな、季節外れの花粉症だ。それよりメッセージだったよな」
「そっ、そうそうっ! 友達とのメッセージなんて初めてなんだよぅ……!」
俺がベッドに座ると、恋歌は特等席である股の間に座って背を俺に預けた。
ふぅむ、友達とのメッセージか……。
「十夜は数少ない友達と、何を話してるの?」
「数少ないを強調するのやめろ」
俺だってそれなりにやり取りくらいするんだぞ。
……俺がメッセージのやり取りをする相手は、基本的に九鬼だけなんだけどさ。
あとはまあ、疎遠になりつつある中学の友達とか……いや、それはもう友達なのか?
て、俺のことは置いといて。
「普通だぞ。用がある時に送ったり、返事したり」
「つまんな」
「俺がつまんなかったら、送ったことのないお前はなんだ? 虚無か?」
「おーっ、虚無ってかっこいい……!」
「急に中二心をくすぐられるな」
「むぃー」
恋歌のほっぺを引っ張りながら、恋歌のスマホを勝手に操作する。
「今、何、してるの、と。送信」
「ちょ、十夜!?」
「こんなの適当に連絡してればいいんだ。ほれ、頑張れ」
「が、がんばれ、て……!」
恋歌は拙い操作ながらも、一生懸命返信する。
こういうのは俺がアドバイスするより、恋歌自身で経験して身につけた方がいい。
少し可哀想だけど、突き放すのもまた愛情ってことで。
恋歌がメッセージに奮闘しているのを見つつ、俺は俺でラノベに没頭する。
見た目は褐色金髪ギャルなのに、メッセージに慣れてないって……ちょっと面白いな。
「……? ねえ十夜、これ何? このおっきい絵文字みたいなやつ」
「ん? ああ、スタンプな」
「すたんぷ?」
「ああ。ここのマークを押すと、無料のやつは使えるぞ。有料は、課金しなきゃ使えないけど」
代わりに犬が喜んでるスタンプを送ってやると、九鬼からもキリッとした猫のスタンプが送られてきた。
「! す、すごい……!」
「スタンプは便利だぞ。時間ない時にもリアクション取れるし、何よりアニメや漫画のスタンプも豊富だからな」
「なんと!?」
スタンプのショップを開いて、恋歌の好きな転生系アニメのスタンプを見せる。
と、食い入るようにそれを見つめた。相当お気に召したらしい。
「いくつかプレゼントしてやるよ。オタ用と、あとリア友用に使い勝手のいいやつ」
「マジ!? やっぱ十夜、神すぎ!」
「わっぷ」
恋歌に抱きつかれて、そのまま押し倒された。
恋歌は、懐いている犬のように頬ずりしてくる。やれやら、世話が焼けるな。
頭を撫でつつ、スマホをいじって恋歌にいくつかのスタンプを贈った。
さらば、今月の課金代。せめて恋歌の笑顔になってくれ。
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