第3話:ヒロイン、中二時代に貴子さんと出会う

 勉強部屋のベッドのシーツは、定期的に使用人のかたが来てクリーニングしてくれていた。だから私が何をしていたかはまるかりだったと思うけれど、両親からはなんにも言われなかった。


 それとなく母親と、様子をさぐるような会話をしてみたら、「だって貴女あなた、男の子は勉強部屋に入れないでしょう?」と言われて。「うん」と答えたら、「なら問題ないわー」と笑われた。


 そうかなー、問題ないのかなー本当に。そんな顔の私に、「問題を起こす時は、お金で解決できる範囲にしてね」と言って、母親は私の頭をでてくれた。はい、そうします。


 私はクラスメート以外の、他の教室に居る子も勉強会に誘うようになった。私がひらく勉強会は、中学一年生の頃からうわさになり始めていて、学校から怒られるんじゃないかと私は思っていたのだけど杞憂きゆうに終わった。学校からすれば、生徒の学力ががれば何でも良かったらしい。


 あるいは私の両親が、ちょっとした権力を持っているので、学校としても何も言えなかったのかも知れない。私は勉強会を万全の状態でひらくために、学年一位の成績をキープし続け、それは中学三年生となった今でも続いている。今や学校で私は神童しんどうあつかいだ。


 お母さんがたは自分の娘を私の勉強会に、こぞって参加させたがったようだ。私が言うのもへんだけど、やっぱり偏差値を高くする事だけに特化した教育というものは、おかしいんじゃないかなぁと私は思う。


 ともかく引き続き、順を追って話していくとして。私は中学二年生になって、変わらず学年一位の学力をキープしていた。そして当たり前の話をすると、私が一位であり続ける限り、他の生徒は二位以下となる。その順位をくつがえそうとする子が現れた。


 私と同級生で、実名は出せないのだけど、『貴子たかこさん』としておこう。その子の事は、私も一年生の頃から少し意識していた。テストのたび、必ずと言っていいほど、学年二位の座には貴子さんの名前があったものだから。


 一年生の頃、私と貴子さんは接点が無かった。クラスも違っていたし、私は私で勉強会の相手を誘うのにいそがしかったので。学年二位の子に勉強を教える必要も無いだろうし、ねぇ。


 二年生になって、私と貴子さんは同じクラスとなった。私に近づいてきたのは貴子さんの方からで、教室中に聞こえるような声で「私、貴女あなたに負けたくない!」と宣言してきたのだ。


 クラスの皆が私の事を心配したようで、それほどの剣幕けんまくだった。私も体が小さいものだから、率直そっちょくに言って身の危険すら感じたけれど、それより貴子さんに対して私は興味がいた。


「まぁまぁ。一度、ゆっくり話し合いましょうよ。ね、貴子さん」


 そう言って私は彼女をなだめたけれど、しかし実際は、特に話す事も無いと内心ないしんで思っていた。一目ひとめ見れば、学年二位の貴子さんが私に対してかかえてきた鬱屈うっくつも、私に対する執着心も手に取るように分かる。


 私から見れば彼女は純真じゅんしん無垢むく、そのものだった。内面が肉食にくしょくじゅうの私は強く、貴子さんをむさぼりたく思った。白い花をけがしたいという欲情が、かつてないほどのたぎりでうごめく。


 私は貴子さんを週末の勉強会に誘った。それがただの勉強会ではないとうわさで知っていただろうけど、彼女は逃げなかった。「何をされたって、私は負けない」と貴子さんに言われて、うれしくて私はゾクゾクしたものだ。


 世の中には『さそけ』という分類があるようで、私も正確には用語を理解できてないと思うけど、貴子さんはそれに当たるんじゃないだろうか。シマウマがライオンの前で寝転ねころがって、おなかを見せて、「さぁ、私を食べてみなさいよ!」と言うような。そんな態度に見えた。


 貴子さん本人には自覚が無いようだけど、彼女は私の事が好きなんじゃないだろうかと思った。私自身は恋愛感情というものが良く分からないけど、そういう感情と執着心というものは似ているのだろう。彼女は私に執着していて、まるで「お願い、私を見て! 私の事を意識して!」とうったえかけているかのようだ。


 私はベッドで、徹底的に上下関係をたたんであげた。貴子さんが厄介やっかいなストーカーにならないとも限らない。私に危害を加えてこないように、きばいておくべきだろう。


 彼女が私にいだいている感情が、憎しみでも恋愛感情でも。その執着心の強さは何かしら、私の嗜虐しぎゃくしんに火をけた。これほどの熱意で女の子の身体からだあやつった事は一度も無い。私に取っても貴子さんは、特別な存在になりつつあった。




 朝になって。勉強部屋のベッドで、全てをさらけ出した姿の貴子さんは、とても可愛らしく私には見えた。「もう、一番じゃなくてもいい」と、うつむきながら恥ずかしそうに言って、更に彼女は続けた。


「それに、貴女の一番じゃなくてもいい。お願い、私をそばさせて。『お姉さま』って、そう呼ばせて……」


 ちょっといじめすぎたかも知れないなぁと私は思ったが、特に後悔も無かった。こうして私には、同級生でおなどしの妹ができたのだった。

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