第1話:ヒロイン、中一でマンションと勉強部屋をゲット

 中学は女子校に入学した。私の目的からして、共学に行くという選択肢せんたくしは論外だった。男の子が嫌いな訳ではないけれど、それ以上に女の子の方が好きなだけ。私は同世代の女子にかこまれる学園生活を求めたのだ。私に取って、じょ生徒せいとの数は多ければ多いほど良かった。


 中学生になった記念に、両親は自宅とは別にマンションを購入して、そこの一室をフロアごと私にプレゼントしてくれた。「勉強部屋として、使いたい時に使いなさい」だそうだ。断る理由は無くて、むしろ私は勉強部屋の内装に付いてリクエストがあった。


「大きなベッドが欲しいです。女の子が五人くらい乗っても大丈夫な物が」


 学校でお友達を作って、その子たちと勉強会をひらきたい。そういう事を私は両親に伝えた。残念ながら当時はコロナ騒動で、みつしょうじるのは良くないという理由で、「お友達を呼ぶのは良いが、当分は一人ずつにしなさい」と父親から言われ私は受け入れた。お友達をマンションに泊める事に付いては特に何も言われなかった。


「ベッドの両脇りょうわきには、ロマンチックなランプが欲しいです。ムードたっぷりの物が」


 寝具は最重要だった。「勉強会の効率を上げるためには、ここにお金を掛ける必要があるんです!」と私は力説りきせつして、「オッケー!」と母親はノリノリで了承りょうしょうしてくれた。




 中学に上がって、女子校ライフが始まった。私としては、上級生が「お姉さまと、お呼びなさい」と言ってくる展開を期待していたのだけど、そういう文化は根付ねづいていないようだった。東京みたいな都会なら、洗練された百合の文化があったのだろうか。私の学校は、何処どことは言わないが南の地方にあって、そして仏教系だ。女生徒はお嬢様というより、もっと野生的な子が多かった。


 ちょっと期待していたイメージとは違ったけれど、しかし私は、がっかりはしていなかった。私が愛する百合の花は生命力が強くて、山百合やまゆりという原種は背が高くて香りも強い。生命のバリエーションは、いつも私を夢中むちゅうにさせてくれる。より深く観察すべく、私はクラスメートとの親睦しんぼくを深めていった。


 さいわい、すぐに私には多くの友達が出来できた。周囲の同級生は私より十センチ以上、身長が高くて、良くも悪くも私は目立めだつ存在なのである。その上、家はお金持ちであった。


 部活動は文芸部ぶんげいぶはいった。先輩せんぱいからは「お人形にんぎょうみたいだねー」と良く言われて可愛がられた。先輩達からは、清楚せいそ後輩こうはいとしか私は見られなかっただろう。わる目立めだちはけたかったので、上級生の前では徹底てっていして私は大人おとなしく振舞ふるまった。


 私には年が離れた姉が居て、つまり私は、名実めいじつともに妹キャラである。クラスメートからは「私の妹にならない?」と良く言われた。冗談も含まれていたとは思うけれど、私が見る所、八割がたは本気のリクエストだったと思う。それが同性愛的なものだったかは、また別の話だろう。


 不思議なもので、私を妹にしたがる子は同級生ばかりだった。「だって実際の妹より、理想的な妹なんだもん」だ、そうだ。「私の妹なんか、ただのうるさい子供でさぁ。現実を知ってるぶん、理想を追いたくなるのよ。頭が良くて可愛くて上品な、お嬢様って最高じゃない?」。


 色々な子から、そんな事を言われて私は興味きょうみ深く聞いたものだ。私は私で、じっ生活せいかつで本物の妹なものだから、今さら他の誰かの妹になりたいとは思えなかったけれど。ついでに言うと、私の姉も背は低くて、並んで立つと区別が付かないと良く言われる。私は低身長を全く気にしていないけれど、姉の内心がどうなのかは分からない。


 とにかく、私は同級生からの人気が高かった。この人気は利用すべきだろう。私は一人、また一人と、クラスメートをマンションの勉強部屋へとさそんでいくのだった。その行為が始まったのが中学一年生の頃からである。

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