十七話 遅刻
「やっばい、遅刻しちゃう!」
僕はものすごく焦っていた。
なぜこれほど焦っているかというと、僕のいつも歩いている道にあるはずの学生の影が一つも見当たらない。そしてスマホの画面に映し出された時刻は、いつもなら学校にいるはずの時間を示している。
普段であればこれだけ人がいないと今日学校が休みなのではないかとも考えてしまうだろう。
だがそんなことはない、なぜなら僕は今日盛大な寝坊をしてしまったのだ。いつも学校に向かい家を出るような時間に目が覚めてしまい、先ほど急いで準備して家を出てきたのだ。
これは言い訳なのだが、決して夜更かしをしていたわけではないのだ。
いつもなら指定の時間に大きな音を出す鬱陶しいあの機械が、今朝はなぜか静かなままだった。
「これ、時間間に合うかな」
昨日の検査でお医者さんからはあまり激しい運動や身体に負荷がかかるような行動はしないようにと念を押されてしまったので、全力疾走とはいわないものの少し早めに歩くようにしながら学校へと向かう。
そうしてしばらく進んでいくと学校の校門が見えてきた。ここまでくれば間に合うだろうから早めに歩いていたのをやめていつもと同じ速度で歩く。
僕の眼前にはチラホラと学校の生徒が見え始めている。と言っても見えているのは数人で、しかもその中にはよく知っている顔があった。
僕が気づいたように相手も僕に気がついたようで、手を振りながら走って近づいてくる。
「おーい蒼! 奇遇だなお前がこんな時間にいるなんて!」
「あぁ、おはよう誠」
「どうしたんだよいつものお前ならもう学校にいついてるはずだろ? ......っは! まさか俺は気付かぬうちにいつもより早い時間に家を出ていたのか!?」
「バカなこと言ってないで早く学校入ろう。遅刻したら笑い事じゃなくなるよ」
「おー、そうだな行くか」
気の抜けた声を出す誠と一緒に校門にくぐると、玄関まで向かい下駄箱に着く。上靴に履き替えそのまま教室へと歩き出す。
隣を歩く誠は眠そうにあくびをしながら話しかけてくる。
「てか蒼がこんな遅い時間に登校してくるなんて珍しいな、なんかあったのか?」
「なんか? 別に何もないよ」
「ほんとかぁ? 例えばほら昨日病院行ったんだろ、その結果が悪かったとかさ」
「あぁ別にそんなんじゃないよ。ただ単に寝坊ってだけ目覚ましが鳴らなくてさ、急いだんだけどこんな時間になっちゃった」
「へぇ〜蒼でも寝坊するんだ。意外だわ」
「僕を一体何だと思ってるんだ。僕だって休日ならお昼まで寝てるよ」
「ほう、これまた蒼の新たな一面を知れたな」
話しながら歩いているといつの間にか教室の前までやってきていた。誠が教室の扉を開け放ち中に入っていくので僕はその後ろをついていく。
教室にはすでに柊木先生がいるようで、教卓に手を置きだるそうに立っていた。
「おーい誠いつになったらその時間ギリギリにくる癖直すんだよ、ってなんだ今日は水無瀬も一緒かよ珍しいな寝坊か?」
「......まぁ、はい」
「っふ、まだまだ子供だなお前も。ほらもうチャイムなるから早く座れよ〜」
先生は手をひらひらと振り席に座るように促してくる。あの人はいつまで経っても子供扱いする。まぁ別に嫌ではないけれどなんかこう、もっと違う態度でもいいんじゃないかっていつも思ってしまう。これを本人に言えばさらにひどくなりそうで言う気にはならないけど。
心の中で悪態をつきながら机の上にカバンを置き自分の席に座る。席に着くとすぐにチャイムがなり朝のHRが始まった。
HRが始まるといつものように今日の時間割の確認や連絡事項を告げ、先生は僕らに向き直り注意を促す。
「連絡はこれぐらいだ。あーあと最近遅刻ギリギリなやつが結構多いから気をつけろよ。特に誠その遅刻癖なんとかしろ。おーしじゃあ号令頼むわー」
「起立 礼」
HRが終わり席を立つ生徒が多いなか名指しで注意された誠は、バツの悪そうな顔しながらバックから教科書を出していた。
そんな様子を見ているとふと横から視線を感じ顔を向けると、瑞樹が少し心配そうな表情をして僕のことを見ていた。
「えっと、どうかしたかな瑞樹」
「いえ、その......」
瑞樹は僕の問いに少し答えを詰まらせる。
どうしたんだろう、もしかして派手な寝癖でもついているのか?
そう考えながら自分の頭を触ってみるが特に辺な感じはしない。そんな僕の様子を見た紬が笑いながら話しかけてくる。
「ほんとこういう時は鈍いんだね蒼くんは。瑞樹ちゃんはただ蒼くんのことが心配だったんだよ!」
「心配?」
「そ! 今までこんな遅かったことなかったでしょ? それだけならまだそういう日もあるかなって思えるけど昨日のこともあったしからさ。あ、もちろん私も心配してたよ!」
「.......そっか。心配してくれてありがとう、朝誠にも言ったけど昨日の検査なんともないから大丈夫。今日のはただ目覚ましが鳴らなくて寝坊しちゃったってだけだよ」
「そうなのね。......よかった」
僕の言葉を聞いて安堵の表情を浮かべた瑞樹を見て、何故か少し嬉しくなった。
「てかずっと気になってるんだけど蒼くんのその頭ってわざと?」
「え? 頭?」
「あぁー! なんでいうんだよ紬! 蒼がいつ気づくかなって楽しみにしてたのに!」
「え? なになにどういうこと? 頭って何!?」
「ふふふ、誠くんも紬もあまり蒼くんをいじめないの。蒼くん今日寝坊したって言ってたでしょ? それで頭の後ろの方に寝癖ついてるのよ」
「うーん。あ! ほんとだ、さっき頭触った時は気づかなかったよ。って誠気づいてたんなら教えてよ!」
「いやぁ悪い悪い。面白くってつい」
誠は全く悪びれた様子を見せずに謝ってくる。
そのいつもと変わらない態度を見ると怒るに怒れない。
「はぁ、後で直してこないと」
「えぇ〜直すのかよ」
「いつまでも寝癖立ってるままじゃ恥ずかしいからね」
「「えぇーーー」」
「ふふ」
僕の言葉に二人は反対と言わんばかりに落胆してみせ、全く同時に声を上げた二人を見ておかしく思ったのか瑞樹は顔から笑みが溢れていた。
今すぐにも指摘された寝癖を直しに行こうかと思ったが、教室の時計を見てみると後少しで授業が始まりそうで行けそうにない。するとどうしようか迷っている僕の様子を見て、ニヤニヤと先ほどと同じような顔をした誠がこちらを見てくる。
「蒼その頭どうすんだぁ?」
「うるさいな、もう間に合わなそうだし次の休みで直すよ」
「ふーん、1時間その頭で授業受けんのかぁ」
「席も寝癖も後ろだから誰も気づかないって! もう、早く前向いて授業の準備しなよ」
「ヘイヘーイ」
ずっとニヤニヤしてくる誠に少し頭にくる、一回本気で怒ってやろうか。
いや不毛かな。誠ならサラッと流しそうだし本気で不快に思うまでやってこないし、それに僕自身起こるのに慣れてないからすぐ許しそうだしなぁ。
教室の扉が開く音でその思考は中断される。どうやら1時間目の先生が来たようだ。
それ以上は何も考えずバックから授業で使う教科書を取り出し、それと同時に授業開始のチャイムがなり授業が始まった。
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