十四話 心配


 

 目が覚めると僕はベットの上にいた。

 寝ぼけているのか頭がうまく回らない。



「うぅん。あれ僕何してたんだっけ」



 寝る前のことを思い出しているとベットを区切っているカーテンが開けられる。



「あ、起きた? 体調はどうかな水無瀬くん」



 カーテンの向こうには白衣を着た女性が立っていた。


 その風貌やここにいることから保健室の先生だろう。


 自分が今保健室にいることがわかると、だんだんと思い出してきた。


「はい。寝たらすごく良くなりました。ベットありがとうございます」

「それはよかった。ベットは病人のためにあるんですから、気にしないでください」



 今あれからどのくらいの時間が経ったのか確認しようとするが、ベットからでは見えない位置に時計が置かれていて、わからなかった。



「ありがとうございます。あ、5時間目って後どれくらいで終わりますか」

「うーんあと10分くらいかな。水無瀬くんそろそろ起きてこられる? 5時間目が終わるまでに色々とやっておきたいことあるからさ」

「はい。大丈夫ですよ」

「じゃあベットから降りてこっちの椅子に座ってくれるかな」

「わかりました」



 先生に言われた通りベットから降りて、用意された椅子に座る。

 先生は体温計を出し僕へと渡してくる。



「その感じだと熱はなさそうだけど、一応測ってくれるかな?」

「わかりました」



 先生から体温計を受け取り測っていると、先生は何かに気が付いたような顔になり話しかけてくる。



「そういえば自己紹介がまだだったね。私は佐藤さとう あかね。佐藤先生でもいいし、水無瀬くんが呼びたいなら茜ちゃんでもいいよ?」

「......え? あの、その、佐藤先生でお願いします」

「あははーごめんごめん。からかいすぎたね」

「ほんとそういうの心臓に悪いんでやめてくださいよ」



 佐藤先生はごめんとは言うものの、申し訳なさなど微塵も感じていなさそうに笑う。

 そうしていると体温計の測り終わる音がなる。


 僕が体温計を渡すと記録用紙のようなものにメモしていく。



「うん。熱はなさそうだね。よしそれじゃ私も色々書かなきゃいけないこともあるからちょっと質問に答えてもらってもいいかな?」

「はい、大丈夫ですよ」

「それじゃあまずは、体調はどうかな体の異常とか」

「特にはないですね、強いて言うのなら体が少し痛いですかね」

「今まで倒れるようなことはしょっちゅうあったのかな?」

「......まぁたまにって感じですかね。」



 佐藤先生は、ふむふむと少し考え込むような様子でペンを走らせている。



「それじゃあ次、友達は多いかな?」

「え? それ何か関係あるんですか?」

「まぁまぁ深く考えずに答えてよ」

「はぁ。友達はできましたけど、あまり多くはないですね」

「なるほど、彼女はいる?」

「か、彼女ですか? ......いませんけど」

「お? 怪しいなぁ。彼女じゃあないなら好きな子がいるのかな?」

「──これ何か関係あるんですか!?」

「ううんなんも関係ないよ、私が気になるだけ」


 関係ない。当然の如くそう言い放つ先生

 これはあれだ柊木先生と違う部類のダメな人だ。



「ちなみにねー、私はこう見えてバツイチ子持ちなんだよ。昔色々あってね。」

「え? はぁ? ......そのなんというか、、あの」



 急にそんなに触れづらい話をしないで欲しい。

 とても反応に困ってしまう。


 これはなんて声をかけるのが正解なんだ?

 不用意に触れない方がいいのか?



「......っぷははは! ふふ、あはははー! ごめん! ごめんね水無瀬くんそんなに固まっちゃうなんて、あはは、思ってなくて」

「あぇ? つまりどういうことですか?」

「全部嘘だよ! 私結婚したことないし子供もいないよ!」 

「......あぁ、僕もうこの人嫌だぁ」

「いや本当にごめん! 水無瀬くんがすごく素直に答えてくれるから少し調子のちゃった」

「本当に勘弁してくださいよ」



 この人は本気の顔して嘘つくんだから、何が本当で何が嘘かわからなくなる。


 佐藤先生の発言に頭を抱えていると、チャイムのなる音が聞こえる。

 どうやらもう十分たったようだ。



「チャイムもなったし、僕もう行きますね」

「え? どこに行くの?」

「そりゃ体育館ですよ、制服取りに行かなきゃいけないですし」

「あれ、言ってなかったっけ? 授業終わったら藤沢くんが制服届けてくれるみたいだよ」

「そうなんですか。って流石にまた嘘とかじゃないですよね?」

「違うよ! 水無瀬くんが寝てる間に藤沢くんが様子見に来たのよ。その時に藤沢くんに言われたの!」

「そうですか。それなら誠が来るまでここで待ってます」



 そのまま椅子に座り誠が来るまで待っていた。


 佐藤先生の話題が変わりまくる話、嘘か本当かわからない冗談を聞かされ続けていたら、時間はすぐに過ぎて保健室をノックする音が聞こえてくる。



「失礼しまーす。蒼起きてますか?」

「あ、誠」

「蒼! よかった起きてたか。体調はどうだ、大丈夫か?」

「うん、もう大丈夫。心配かけてごめんね」

「本当だよ。具合悪いなら早く言ってくれよ。お前が倒れた時めっちゃ焦ったんだから」

「......ごめん」

「まぁ無事ならいんだけどよ。それより早く着替えて教室行こうぜ。紬も小鳥遊さんも蒼のこと俺より心配してたぞ、早く無事を知らせてやらないとな」

「謝って許してくれるかな」

「それはお前次第だな。じゃ先戻ってるから早くこいよ」



 誠は僕に制服を手渡し、保健室を出ていく。

 彼の明るさはすごい元気をくれる。



「いい友達を持ったみたいだね」

「......はい、僕にはもったいないくらいいいやつですよ。着替えるのでベットの場所借りますね」

「はーい」



 ベットのある場所へと移動しカーテンを閉めて着替え始める。


 ジャージから制服へはもう慣れているので、素早く着替えられた。


 着替えている間はずっと紬や瑞樹にどう謝ろうかと考えていた。



「着替え終わりました、場所ありがとうございます」

「うーん」

「どうかしました?」

「君はジャージ姿もよかったけど、制服姿もよく似合ってるね」

「そうですか? ありがとうございます。着替えも終わったので僕はそろそろ行きますね」

「おーけー。じゃあまた何かあったらいつでもおいで、ばいばい」

「はい。失礼しました」



 僕は深く頭を下げて保健室を出る。

 佐藤先生は凄い元気な人で話しているとこっちも元気になってくるような人だったな。


 まぁそれ以上に、話しててこっちの気力が削がれるし、疲れるし、厄介な人でもあったな。



 それよりこれから2人にどう謝ろう。

 そうこう考えているうちに教室に着く。

 教室では盛り上がっているのか、外からでも騒いでいる音が聞こえてくる。


 何も考えないように無心で後ろから教室の扉を開けて中に入る。


 いきなり教室の扉が開いたので話していた人達も話をやめ扉を開けた僕の方を見てくる。


 静まり返った教室は少し変な空気が流れてしまい、どうすればいいかわからなかった。


 その時一人が近づいてきて話しかけてくる。



「蒼くん! だ、大丈夫だった? 僕蒼くんが倒れた時何もできなくて、それで」

「大丈夫だよ、双葉くん。僕こそ心配かけちゃってごめんね、貧血と運動不足が祟ったよ。これからはちゃんと気をつけるよ」

「大丈夫ならよかった!」

「おい蒼!」

「蒼くん!」

「あれ一樹くんに海斗くん!」

「もう大丈夫っぽいな」

「うん、双葉くんにも言ったけど貧血と運動不足だったみたい。これから気をつけるよ。変な心配させちゃったね。一樹くんにも海斗くんにも」

「蒼くんが無事なら僕たちも安心だよ」



 少し会話して自分の席に戻る。

 自分の席に戻ったはいいものの、紬と瑞樹がいない。



「ねぇ誠。紬と瑞樹どこ行ったの?」

「あぁ、俺もわかんねぇな。待ってれば戻ってくるんじゃねぇ?」

「そっか、じゃあ謝る言葉考えておこうかな」

「はは、そうしろそうしろ」



 僕は二人に説明するための言葉と謝罪の言葉に頭を悩ませながら、帰ってくるのを待っていた。

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