十一話 疲労


 ブザーの音が鳴り僕たちのチームのボールで試合がはじまった。



「それじゃ、蒼のお手並み拝見だな!」



 誠はそういうとそのまま僕へとパスを出す、その足元へと流れてくるパスをその場にトラップする。


 途端に足元に流れるボールの勢いと感触がとても久しぶりに感じ懐かしかった。そしてあの頃の感覚がまだ残っていることを確かめる。



「蒼あぶない!」



 誠の声が聞こえてくる、前からはサッカー部の子が僕へと走ってきていた。


 あと数秒もしないうちに僕の元へと着くだろう。


 ゴールが近いここでボールを取られるとかなりまずいことになる。

 でも大丈夫。



「ちゃんと見えてる」



 足元にあるボールを少し右に動かし、誠を少し見てパスをする形に体を動かす。


 サッカー部の子はその動きに反応しパスコースを塞ぐように足を出してくる。



「そこだね」



 僕は右に置いてるボールを右足の裏で左足の後ろを通すように動かし左でフリーになってる海斗くんへとパスをだす。


 その動きにステージからわっと驚いたような声が聞こえた。



「海斗くん!!」

「うお、ピッタリ! こっからは任せて!」



 海斗くんの場所は少しゴールから離れていたが、海斗くんがボールを動かしながら中に入りそのままの勢いでシュートをした。



 カンッ



「うげ、」



 海斗くんが蹴ったボールは惜しくも右のバーにあたり弾かれてしまった。



「おいおい海斗なーにが任せて!だよ外してんじゃん」

「ごめんごめん次は決めるからさ。蒼くんもよく僕のところに出せたね、あんなに敵勢いよくきてたのに」

「誠にもらった時から海斗くんがフリーなの見えてたからね、あとは何とか抜ければパス出せるって場面だったから少し頑張っちゃった」

「それでみんなできたら苦労しねぇんだけどな、よし次はディフェンスだ。止めるぞ」

「うん。止めようか」



 ボールが外に出て相手のゴールキックから始まるので少し後ろ目にポジションし直す。その時一樹くんが近づいてくる。



「なぁ蒼」

「うん? どうしたの?」

「次は俺にもパスくれよ海斗と違って決めてやるから」



 どうやら一樹くんは海斗くんに負けじとシュートを打ちたいみたいだ。



「わかった、そしたらさ一樹くんは半分の線からこっちに来なくていいよ」

「あ? どうしてだよ、人数少なくてやられんじゃねのかよ」

「大丈夫、僕達が必ず守るからさ。一樹くんは前にいてフリーでボールをいつでももらえるようにしといてよ」

「っふ、わかった。絶対止めろよ」

「任せて」



 一樹くんは僕の言葉を聞き線より前の高い位置にポジションしていた。


 ゴールキーパーが後ろの人にパスを出し、相手は後ろで回し始める。


 流石にサッカー部が二人いるのでとてもスムーズにパスを回しあっている。



 その時僕の前にいた人が後ろにボールを受けるように動き出し、サイドの人もそれに連携する。その動きで誠が抜かれ、サイドから上がってくる人とフリーで走っている人と僕2対1になった。



「さっきは抜かれたけど今度はこっちが抜いてやるよ!」

「僕を抜けるかな?」



 手で距離を測りながら抜かれないように間合いを保つ。


 相手も下手に抜こうとすれば取られることがわかるのだろう、何度か抜こうとするそぶりを見せるが深く踏み込んではこない。



「そんなに時間かけていいのかな、誠が帰ってくるよ」

「くっそ、抜けねぇ!」

「こっち!!」


 相手が四苦八苦しているとフリーだった選手がすごくいいところでボールを受けようとして声を出していた。相手は今の僕の場所じゃ絶対に届かないところを見つけたことでそこへとパスを出す。



「まずは一点!!」

「...そうだね。まずは僕達の一点だ、海斗!!」


 蹴ったボールが相手の足元につく寸前で止まった。そこには後ろに下がっていた海斗がいた。


「任せろって言ったろ水無瀬!」

「はぁぁ?! なんでそこに! 水無瀬お前見えてたのかよ!」

「ナイス海斗! そのまま僕に!」

「りょーかい!」


 相手の足が止まったところで海斗からボールをもらうために近くに走り、

 ボールを足元で受ける。


 前を向き一樹くんにパスを出そうとするが、相手チームの二人が素早く切り替え僕の前に立つ。


「2対1だ。抜かさせないぞ、ここで取ったらチャンスだからな」

「抜く必要なんてないよ。言ったでしょ、僕達の一点だってさ」



 相手と少し間合いが空いているのを見逃さずその隙にボールの下を持ち上げるように蹴る。



 蹴ったボールは綺麗な弧線を描き、高い位置にフリーでいた一樹くんの目の前へと落ちる。



「決めろ」

「ナイスだ蒼!!」



 ボールを受け取った一樹くんは豪快に足を振りぬき、シュートを決めた。


 その瞬間に「おぉ」や「すげぇ!」などといった歓声がステージから聞こえてきた。



 久しぶりにたくさん走ったことですごく疲れた。膝に手をつき肩で息をしているとそんなことはお構いなしとばかりに、ゴールを決めて大満足している一樹くんが走ってくる。



「よくやった! 蒼!! お前やっぱすげぇ上手いな!」

「はぁ、はぁ。ありがとう、ナイスシュート一樹くん」

「あんなフリーでボールきたら決めるしかねぇよ!」



 すごく豪快に笑う一樹くんを見るとチームの雰囲気とてもよくなる。


 ふとタイムを見るともう少しで残り時間が一分半というところだった。



「そろそろ双葉くんとキーパー変わるよ」

「えーこっからいいところじゃねぇか。もっかいパスくれよ」

「始まる前言ったでしょ。みんなで楽しめるようにするって、このままじゃ双葉くんただ立ってるだけになっちゃうでしょ」

「あぁ、そっか。じゃあしょうがねぇな」



 一樹くんは最初こそ不満げだったがみんなで楽しみたいことをわかってくれて、すぐに納得してくれた。



「双葉くん!」

「な、何かな」

「試合前に言ったでしょ、時間半分で交代って」

「で、でも」

「本当のとこは僕が休みたいんだ、久しぶりの運動すぎてすごく疲れちゃって。お願いできるかな?」

「そういうことなら、やるよ」

「ありがとう」



 少し不安そうに言うがその顔は嫌そうではなかったので、嬉しかった。


 ポジションについてだけど、僕の場所に双葉くんが入るのではあまりパスが回らないかもしれない。



「みんな、ちょっといいかな、」



 ポジション変更について話そうとするといち早く誠が来てくれる。



「どうした、蒼」

「ポジション変えようと思うんだけど。僕のところに双葉くんじゃなくて誠が入って欲しいんだ」

「そのくらいならいいけど。じゃあ右が双葉か?」

「いや、一樹くん」

「ん? どした」



 すぐそばにいた一樹くんを呼ぶ。



「一樹くんには右にポジション変わって欲しいんだけどいいかな?」

「そんなことか、いいぜ。もう一点決めたし」

「ありがとう、じゃあこれで双葉くんが前で、右が一樹くん、左が海斗くん、後ろが誠っていう感じね」

「りょーかい」



 相手チームの話し合いも終わったみたいでボールを持って中心までくる。


 僕達が決めたので次は相手ボールから始まる。


 前の人が後ろへとボールを蹴って試合が再開された。


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