九話 体育




 4時間目が終わり昼休みが始まった。

 手慣れた動きで机の位置を変えていく。


 お昼ご飯は誰かの用事などがある時以外は4人で食べている。


 みんなでお弁当を広げたところで紬が聞いてきた。



「ねぇねぇ!! 文化祭何やりたい?」

「もう演劇だけは勘弁かな、うーんそうだな。文化祭といったらやっぱ喫茶店じゃね? 蒼はなんかやってみたことないのか?」

「僕? なんだろうな、教室を使った迷路とか?小鳥遊さんは何かやりたいことないの?」

「私はお化け屋敷、とか。やってみたいかも」

「少し意外だなぁ、小鳥遊さんがお化け屋敷って言ったの」

「そう?」

「うん、なんか怖いもの得意そうじゃない印象だったからさ」

「得意っていうわけでもないんだけどね、ただみんなで回れたら楽しいかなって」



 少し恥ずかしげにいう彼女の言葉がすごく嬉しかった。僕たちと一緒に楽しもうとしてくれてるそんな言葉が。



「...うん。そうだねみんなで楽しめるものがいいね!」



 みんなが文化祭についての意見を話し出した時ふと紬が、



「そういえば、蒼くんって瑞樹ちゃんのことずっと小鳥遊さんだよね。

 誠くんとか私とか名前なのに。瑞樹ちゃんも水無瀬くんだし!」

「あ、確かに。試しに名前で読んでみたら?」



 誠が紬の言葉に同調するかのように促してくる。


 そう言われるてみると確かにこの一月下の名前で読んだことも呼ばれたこともなかった。



「えっと......呼んでもいいのかな?」

「......いいよ」



 少し恥ずかしそうに了承する小鳥遊さん。



「じゃあ...えっと。み...みずきさん」

「別にさん付けしなくてもいいのよ。そ...そうくん」




 少しだけ顔赤らめ恥ずかしそうに僕の名前を呼ぶ彼女。


 ただ名前を呼ばれただけ、そう呼ばれただけなのになんで僕の心はこんなに...



「おーい蒼どした。名前呼べれただけで嬉しくなっちゃたのか?」



 茶化すように言われた誠の言葉で、気がつき平然を装う。



「そ、そんなんじゃないって。これからもよろしくね瑞樹」



 その後も何度か名前を呼び合い普通に呼べることができた。


 お昼休みが終わりに差し掛かりお弁当箱を片付けていたとき、教室にいた人が何やら準備を始めている。



「あれ、5時間目って移動教室だっけ?」



 5時間目の授業がなんだったか思い出せずにいたので隣の誠に聞いてみると誠は少し呆れたような顔をして言い放つ。



「やっぱ蒼ってちょっと抜けてるとこあるよな。それに残念だったな、

 5時間目は蒼の一番つまんない体育だぞ」

「え、ほんとに。体育本当につまんないんだよな〜。運動できないから雑用やら先生のサポートやらでこき使われるだけだし」



 さまざまな事情から体を動かす体育の授業を受けられないので、基本的にサポートや雑用、見学になり体育はとても面倒臭く暇な授業なのだ。


 そう愚痴をこぼしながら体育館に向かう準備をしていた。


 用具出すの手伝わされたり、記録やらされたりでやりたくない〜と誠に言うが誠は、はいはいと軽くあしらって早くいくぞとせかしてくる。



 ジャージの入った袋を持って立ち上がり横を見ると、僕と同様に憂鬱そうな顔をしている瑞樹と体育館に早くいきたがり瑞樹の腕を引っ張っている紬がいた。



「早く行こ瑞樹ちゃん!」

「ちょっと痛いって。......はぁ」


 紬に引っ張られ教室を出ていく二人を見ながら、僕たちも行こうか、と誠に声をかけて体育館に向かった。


 少しばかり重厚感のある扉を押し中に入ると、体育館にはすでにクラスの半分ほどの人がいた。今までにも体育はあったが、こんなに早くたくさんの人がいることは初めてだった。


 また誠に今日ってなにやるんだ?と聞くと、はぁとため息をつき、


「本当に体育の授業に興味ないのな。今日はフットサルをやるって言ってたぞ」


 そう言われ僕はだからか、と納得していた。今までの体育では、マット運動をしていた。


 確かにマット運動よりもフットサルの方が良いよな〜、と考えながらステージ付近まで歩いていく。ステージ前にはすでに柊木先生が居て、僕と目があった瞬間にニヤリと笑い


「やっと来たか! 待ってたぞ雑用!」


 なんとも不名誉かつ生徒につけるのはどうかと思う呼び方をしてきた。



「誰が雑用ですか。今日こそは何もしませんからね!!」

「いやー今日も助かるわ、俺一人じゃできないから誰か探してたとこなんだよ」

「.....ゴール出すだけですよ」

「さっすが水無瀬かっくいー」



 頼まれたら断ることなんかできないじゃないか!一応先生に恩があるとはいえそんなに働かせないでくれよ。


 と小声でぐちぐち言いながら誠と一緒に体育館の横に備え付けられてる更衣室へと向かい、制服からジャージへと着替える。


 着替え終え更衣室から出ると、授業開始のチャイムがなった。



 授業が始まり他の生徒が準備体操をしている間に、僕と先生でサッカーゴールを運んでいた。


 サッカーのゴールとは違いフットサルのゴールは、小さいしあまり重たくないので、たくさんの枚数を敷くマット運動の時よりも楽だった。



 ゴールを運んでいるとき先生に不意に話しかけられた、



「調子はどうだ」



 急にそんなことを聞かれたので少し驚いたのだが



「少しでもねぎらう気持ちがあるなら、こんなことさせないでくださいよ」



 と愚痴をこぼす。先生は笑いながら



「こんなことで疲弊するならお前はもうダメってことだな」



 この人本当に先生か?そう疑うほどに酷い人間だ。


 そんなこんなでゴールを運び終えステージの奥に腰掛ける。


 周りを見ると準備運動を終わらせてチーム分けをしているところだった。



 男子は人数が多いため3チーム、女子は2チームに人を分け終わっていたところだった。一試合3分の試合を男女交互に行っていくらしい。



 最初は男子チームからのようで、女子はステージの上に上がってきた。


 その中に紬と瑞樹もおり女子の中から外れ、なぜかこちらに向かってきていた。



「おつかれさまー! ゴールありがとね!」

「お疲れ様。大丈夫?」



 二人はねぎらいの言葉をかけにきてくれた。どこぞの先生とはえらい違いだ。



「うん、このくらいなら大丈夫だよ。それよりいいの? 友達といなくて」

「なーに言ってんのさ私たち友達じゃん! それに私たちがいないと蒼くんが一人ぼっちになっちゃうかなーって思ってきたんだぞ!」

「ちょっと紬ぼっちは言い過ぎでしょ」

「あはは、大丈夫だよ。確かに俺男子の友達も女子の友達も他にいないし。体育も参加できないし、転校生でちょっと浮いてるし」

「ほら紬、蒼くんがちょっとおかしくなった」

「えぇーごめん! 大丈夫だよ蒼くん!! 私たちは友達だから元気出して! ね!」



 紬の言葉がグサグサと刺さり少しネガティブになっていると、瑞樹が諌め慌てて紬がフォローし始める。


 そんなこんなで話していると、どうやら男子の順番が決まったらしい。



 男子の1チームがステージの上に登ってきて、他の2チームは試合をする準備をしていて、誠は試合をするチームの中にいた。ピーと大きなブザーの音が体育館に響き試合が始まる。



 試合のしない男子のチームがステージの上に上がってくると、僕達の方にチラチラと視線が飛んできていた。


 やはりと言うべきか彼女たちは男子の視線を良くも悪くも集めてしまう。



 どちらもタイプは違えど美少女と呼べるほどの容姿をしているのだから。そしてそのそばにいる僕が男子達は気に食わないのだろう、羨望や嫉妬、なんであいつが、といった多くの視線が僕に刺さる。



 裏で何か言われているんじゃないかと考えてたら悲しくなってきたが、誠や紬、瑞樹がいてくれるならそれでもいいかなと思っていると、ブザーの音が聞こえてきた。どうやら男子の試合が終わったようだ。

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