八話 失言


 いつもと同じ時間に家を出て、ようやく見慣れてきた道を歩き、学校へ向かう。



 僕がここに転校してから一ヶ月が過ぎた。教室に向かうときに聞こえる廊下の喧騒にも最近慣れてきた。



「水無瀬おはよーす」

「水無瀬くんおはよう」

「うん。みんなおはよう」



 クラスの人が挨拶をしてくれて、それに僕も挨拶を返す。これがいつも通りの流れだ。


 そのまま歩いて自分の席につき鞄を下ろす。

 いつもより早く登校していた隣の席の小鳥遊さんに挨拶をしようとして、固まる。


 相変わらずその美しさに目を惹かれる。やっぱり俺は、、そう考えた時目があった。



 転校してきたときと同じように、ほんの数秒の出来事だけれど僕の胸が躍るのには十分すぎる時間だった。



「そんなに見られていると、恥ずかしいんだけど」



 そう言って少し恥ずかしげにいう彼女の口ぶりに、僕は弁明することなどできずただ挨拶をした。


「あ、ごめん。おはよう」

「ふふ、はい。おはよう」



 小鳥遊さんはそういうと僕の頭に手を伸ばしてきた。


 僕は驚きすぎて固まってしまいただじっとしていることしかできなかった。


 すると彼女は、「髪」ただ一言そういった。


 髪?その言葉の意味がわからずにいた僕に



「髪にゴミ、着いてたわよ」



 といい前に向き直った。

 それをみていた紬が冷やかすように

 ヒューヒューと口笛を吹きながら



「朝からお暑いことだねぇ!」



 と言ってくる。

 紬は一月前からたまに一緒に登校する僕らを揶揄からかうようになっていた。


 小鳥遊さんはほんの少し頬が赤くなり



「そういうのじゃないわよ」



 と否定して席を立ってしまった。

 僕は紬に避難の目を向けるが彼女はニヤニヤとしながら



「お似合いだと思うけどなー」



 と茶化してくる。



「そんなんじゃないってば!」



 僕の否定の言葉にも紬はニヤニヤとしたままだった。


 程なくして小鳥遊さんが帰ってくる。そしてそのまま自分の席に座る。


 すると先生が教室に入ってくる。時計を確認すると後2分ほどでチャイムがなるのだが、僕の前の席の人物がまだきていない。


 時は刻み残り1分を切った時に大きな音を立てて教室の扉が開け放たれる。



「はぁーーーー。ギリギリ間に合ったーーー」



 息切れを起こし重い足取りで教室の中を歩き、

 ものすごく大きな声で僕の前の席に座った。



「今回はマジでやばかった」

「だからいつももっと早く家を出るようにしなって言ってるのに」



 僕が悪態をつくと誠はわかってるよ、と言いながら大きな欠伸をした。


 その光景を見ていた柊木先生が笑いながら誠に話しかける。



「まこと〜お前俺が何回見逃してやったと思ってんだぁ、そろそろ直せよ〜。次から遅刻にしてやろうか?」

「ちょ! ごめん柊木せんせー、なるべく早めに来るからさこれからも多めに見てよ」



 直す気のない誠の言葉にクラスのみんなと柊木先生が笑う。


 そして先生の掛け声がかかり号令の声が響く。



「はい日直号令」

「起立 礼」



 いつものように何事もなくHRが終わるそう思っていた。



「えー今日で水無瀬が来てからちょうど一ヶ月だ。そしてこの時期にあるイベントといえば? そう! 文化祭だ!」



 いつもじゃ考えられないテンションで話し始める先生にみんなが驚愕していた。


 いつもならめんどくさがり誠に注意しないのだが、今日は朝から冗談まじりの会話をしたことが珍しいと思ったがやはり何かあったみたいだ。

 そしてついに生徒が突っ込む




「先生なんで今日そんなにテンションが高いんですか?」



 すると先生は悪い笑みを浮かべながら



「文化祭というのは地域の人などたくさんの人が参加する。そうだろ。そしてこの文化祭という大きなイベントでは出会いが必然的に増えるだろう。俺はそこで彼女を作ってみせる!!」



 そう柊木先生は独身で彼女もいないのだ。顔は悪くないのだがそのめんどくさがりな性格といい加減な発言からモテることはないのだと本人が言っていた。


 柊木先生が発言した瞬間教室中が静まり返った。その教室の静まり具合に先生は困惑した様子で



「え? あれ?」



 と言っている。そこで一人の生徒がまた突っ込む。



「先生って見回りとかで出会いないんじゃないですか? それに文化祭とか学校行事で先生がナンパしてるのもどうかと思うんですけど」



 その一言で先生はニヤニヤしていた顔から何かに気が付いたかのように、

 いつもの先生に戻った。



「とまあ、ふっざけるのもここまでにして。文化祭準備期間は1週間だ。あまりお金を掛けたけたものは予算が降りないからな、何をするかはよく話し合って決めろ。

 時間は毎日6時間目と放課後な。連絡は以上だ。日直号令」

「起立 礼」



 号令がかかりHRが終わった。1時間目の準備をしていると、前から誠が話しかけてくる。



「そういえばもう文化祭の季節なんだな」

「そうみたいだね。去年は何やったの?」

「それがさ去年俺ら演劇やったんだよね。シンデレラ。俺の役なんだと思う?」




 誠は絶対当てられないな、と笑いながら言う



「うーん。城を守る騎士、とか? 誠そういうのやりそう」

「ぶっぶー正解は、シンデレラをいじめる姉妹の一人でしたー」

「......それほんとう?」

「ほんとうだってこれほらそん時の写真」



 誠は自分のスマホを操作し画面を見せてくる。

 そこにはドレスを身に纏い、顔に化粧が施されている誠がいた。



「っぷ、あっはは、やめてほんとにお腹痛い、、ふふっはは、ひぃーふー。

 いやほんとものすごくふふ似合っているよ」

「おい、バカにしてんのか!俺だってこんなのやりたくなかったんだよ!」



 そう言って二人で笑い合っていると突然横から声がかけられる。



「あーそれ去年のでしょ!」

「そういえば紬も1年生の時同じクラスだったんだよね」

「そうだよ〜いやー誠くんの姉妹衣装は似合ってたな〜」

「そうだよね。似合い過ぎて笑いが止まらなくて」



 そんな会話をしているとふと小鳥遊さんが気になった。



「あれ小鳥遊さんはいないの?」

「うん。瑞樹ちゃんは先生に聞きたいことがあるってどっか行っちゃった。あっ、今なら大丈夫かな、見てみてこれ!」



 紬さんがそう言ってスマホを操作し始める。これ!っとある写真を突き出してきた。


 それはシンデレラであろう衣装を纏った小鳥遊さんだった。


 ただでさえ綺麗な肌や、美人な顔が衣装とメイクによりさらに引き立てられ、画面に映っている小鳥遊さんにはいつもよりも目を惹かれた。


 僕は無意識のうちに


「きれい」


 そうぽつんとこぼした、

 その瞬間紬が顔を上げて視線を変えた。



「だってさ」



 その言葉に釣られ僕も顔を上げた、そこにいたのは先生への用事を終えて自分の席に戻ってきていた、小鳥遊さんだった。



 いつもの透き通るような綺麗な白い肌が今は少し赤く染まっていた。


 そこで僕は何か言わなければならないという思いが、どこからか湧き上がってきてしまった。



「あ、あのとても綺麗で本当にどこかの国のお姫様かと思うくらいに似合っていて、あの、その綺麗です」



 自分の顔が熱くなっていっているのがわかる。自分でも何を言っているのかわかっておらずものすごくテンパっていた。


 当の本人は僕とは比べ物にならいほど、赤くなっていた。


 すると紬と誠がニヤニヤしながら話しかけてきた。



「いや〜わかってるね〜蒼くんは。瑞樹ちゃんものすごく似合っていて綺麗だよね〜」

「さすがだ蒼!! 俺にはそんな褒め言葉は見つからん!そうかそうかどこかの国のお姫様か〜」



 僕の言葉に関心するそぶりを見せながらもいじってくる。

 すると紬が標的を変える。



「だってさ、瑞樹ちゃん。よかったね、私もお姫様なんて言われてみたいよ!!」



 と言って小鳥遊さんに詰め寄って行った。



「......知らないわよ!」



 顔を赤くした小鳥遊さんはそのまま椅子に座ると授業の準備を始めた。


 程なくして先生が教室に入ってきて授業が始まった。

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