七話 帰り道



「あー連絡事項は特にないなー。うん、号令頼むわー」

「起立 礼」



 号令が終わった後教室や廊下が下校する人や、部活に向かう人で多くなりざわざわとし始める。



 柊木先生も気をつけて帰れよーといいながら教室を出ていく。

 僕も帰るために準備をしながら誠たちと話していた。



「僕は帰るけど誠たちは部活?」

「おう、俺も紬も部活。直近の大会全部終わったから少しくらい休ませてくれてもいいのにな」

「ほんとにねー。大会終わってお気楽もーどだったのにさ、すーぐ練習あるんだもん」

「はは、そうだよね。大会後の練習は精神的にくるものがあるよね」

「おぉわかってくれるか蒼! とまぁそういうことで俺らは部活だからもう行くわ」

「うんじゃあまた明日部活頑張って」



 誠と紬は立ち上がり教室の扉へと歩いて行く。


 だが途中で紬が僕の方へと戻り、指をさしながら話しかけてくる。



「蒼くん! 君を瑞樹ちゃんのボディーガードに任命します! しっかりと守るように! それじゃ!」



 紬はニコニコとしながら誠のいる教室の扉まで歩いて行き、こっちを見て手を振りながら教室を出ていった。



 紬なりにいろいろ気を使ってくれたんだろうけど、ボディーガードって...

 すると横でクスクスと笑う声が聞こえる。どうやら紬の言葉がツボに入ったみたいだ。



「ふふふ、...はぁ。おなか痛い。それじゃあ私たちも帰りましょうか、ちゃんと守ってくださいね。ボディーガードさん」

「うん。もちろん何かあればちゃんと守るよ」



 僕は荷物をもって小鳥遊さんと教室を出て玄関へと向かう。


 すこし予想はしていたが、まだ帰宅していない生徒や、部活で学校に残ている生徒から朝のように少し注目される。



 視線は男子のものが多いけど、段々と女子からの視線も感じるようになってきた。

 これが自意識過剰ならまだいいんだけど。



 朝のように生徒が沢山いるわけでは無いから、朝よりだいぶましだけど注目されることはあまりなれない。



 ただ少し気になるのが、隣にいる小鳥遊さんがすごく居心地の悪そうな顔をしていることだ。


 小鳥遊さんは注目されることに慣れていると思っていたけど、案外そうでもないのかもしれない。



 いろいろと考えている間に会話はなく、気が付くと玄関まで来ていた。


 僕と小鳥遊さんは下駄箱から靴を出し履き替え、玄関を出る。


 校門を出たあたりで小鳥遊さんに話しかける。



「今日はなんだかものすごく視線を感じたね」

「そうね。...あの、ごめんなさい」

「...え、どうしたの?」



 小鳥遊さんの急すぎる謝罪に何を言えばいいのかわからなくなる。



「その、私のせいで今日一日水無瀬くんに迷惑かけちゃったから。謝りたくて」

「なんだそんなことか、大丈夫だよ実害出てないしさ」

「そんなことって、私と一緒にいたら変な噂とか、いろんな人から見られたりするだろうし、、それに、」



 僕はだんだんとネガティブになっていく小鳥遊さんの話を遮り、喋り始める。



「そんなことだよ。人に見られるとか噂されるとか、僕たちじゃどうしようもできないことだし。それに今日の視線は小鳥遊さんだけのせいじゃないだろうからさ。それとも小鳥遊さんは僕と一緒にいるの嫌かな?」

「ぜ、全然そんなことないわよ!ただ、水無瀬くんに迷惑かけたくなくて、それで、、」

「僕は、小鳥遊さんのこと迷惑だなんて思ったことないよ、僕はただ一緒にいたい人と一緒にいるだけ。確かに友達いっぱい欲しいし、いろんな人と話してみたいけど、今は誠がいて、紬がいて、そして小鳥遊さんがいる。これだけで僕は満足なんだ」



 僕はただ小鳥遊さんに悲しそうな顔をして欲しくなかった。



「だから、だからさ、迷惑だなんて思わないで。僕は今すごく楽しいんだ。小鳥遊さんはどうかな?」

「...うん、私もみんなと一緒にいる今が楽しい。ごめんなさい水無瀬くん少し卑屈的になっていたわ」



 ごめんなさい。か、



「小鳥遊さんいいことを一つ教えてあげる」

「何かしら?」

「こういう時はね、ごめんなさい。じゃなくて、ありがとうって言うんだ。言われた方も言った方も気持ちのいい終わり方ができるからね」

「そうね、改めてありがとう水無瀬くん。とても助かったわ」

「どういたしまして、小鳥遊さん。役に立てて良かったよ」



 小鳥遊さんは今ままでの不安など全て吹き飛んでしまったかのようにとても穏やかな顔で笑っていた。その笑顔が綺麗で僕は目を離せずにいた。



 彼女が笑いかけてくれた、「助かった」とお礼まで言った。


 その事実が僕の心を喜ばせる、誇らしくなる。



「そういえば水無瀬くんの家はどこら辺にあるの?」

「僕の家はもうすぐそこだよ」

「そう、私の家とは遠くはないけれど近くもない微妙な距離なのね」

「そうみたいだね」



 昨日小鳥遊さんと別れた後家に帰ったが、その時の道の距離は本当に微妙なものだった。


 少し歩くが憂鬱にはならない程度というもの。これぐらいであれば送ることはなんの問題もない。



「これぐらいの距離なら水無瀬くんも面倒でしょ、わざわざ送ってくれなくてもいいのに」



「昨日も言ったけど女の子一人で帰らせるわけにはいかないって、それに紬にボディーガードに任命されちゃったしさ。あ、でも迷惑だったら言って。迷惑かけたくないから」



「迷惑だなんて思わないわ、私も水無瀬くんと一緒に帰りながら話すの楽しいから」




 この人はすぐそうやって心が跳ねること言う。


 その一言がどれだけ嬉しいものか分かってないんだ。

 ずるいな、



「あ、私の家ついたわね。それじゃあここまでありがとう、また明日ね水無瀬くん」



「うん、また明日小鳥遊さん」



 彼女が家に入るのを確認して僕も帰路に着く、ずっと心臓がバクバクしているのを隠すように少し早足で家へと向かった。



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