五話 朝の喧騒



 登校中に突然話しかけられ一緒に学校に行くことになり、僕の心臓はバクバクと脈うっていた。


 そんな僕とは打って変わって平然と隣を歩く小鳥遊さんに目を向けていた。



 初めて見た時から思っていたが、彼女はやはり「綺麗」という言葉がぴったりと言っていいほどに似合う。


 胸あたりまである黒くて艶のある綺麗な髪、白い陶器のような肌、驚くほどに整った顔立ち、こんな女の子と一緒に歩けているだけで幸せ者だ。



 僕の視線に気がついたのか「私の顔に何かついてる?」と言いながら顔をぺたぺたと触り出す。


 僕が慌てて何もついていないと伝えると、「よかった何かついていたら恥ずかしもの」と笑いながら言ってくる。


 学校に近づくにつれ学生の姿が増えてくる。すると必然的にも彼女に視線が集まるのだが、今日はいつもと少し違うようだった。



 それもそのはず、学年で一番と言っていいほどの美人が男を連れ登校している。


 こんなことが今までに一度もなかったことや、男子と極力話さないようにしているなどの噂が広まっていることなどもあり、登校してきていた人の視線がほぼ全て僕達に向けられている。



 女子たちは単純に今までにないことに驚いたりしているだけだったが、


 男子は「なんであいつが」「隣にいるの誰だ?」「あんな美人と一緒に登校できんの羨ましいわ」などと疑問、僻み、恨み言などさまざまだった。


 少し気分が悪くなっていると小鳥遊さんが「こんなこと気にすることないわよ。」と励ましてくれる。



 そんなこんなで学校につくが、登校中よりも視線を感じる。その視線を無視し小鳥遊さんと一緒に自分達の教室へと入る。



 比較的早い時間にきたのであまり教室には人がいなかったが、紬が席に座っていた。小鳥遊さんは自分の席に座るとリュックから本を取り出し読み始める。



 僕も自分の席につき鞄を下ろすと紬がニコっとしながら席を立ち僕の方に歩いてきた。



「朝から美人な女の子を連れて登校とはいい御身分ですねぇ。もう噂になってるよ、あのどんな男からの誘いも断り続けた小鳥遊瑞樹が、男と一緒に登校して普通に会話している! ってね」



 待て待て、早い早すぎる、まだ登校して15分も経ってないのに!


 確かに目立つような登校ではあったけど広まる速度が尋常じゃない。



「はは、まぁ今日はよく見られるなとは思っていたはいたけど、まさかそんなに話が広まるのが早いとは思ってなかったよ」

「それだけ蒼くんと瑞樹ちゃんが注目されているってことだね! 特に蒼くんね」

「ぼ、ぼく? そんな注目されることはないと思うんだけど、」

「ありゃ自覚なし? 蒼くんは転校生だしサッカーで知らない人はあんまりいないってくらい有名なんだから。それに顔だっていいしね」

「ちょっとはずかしいな。まぁ褒められているから悪い気はしないけど」



 すると紬はすこし妙なことを言い始める。



「蒼くんはちょっと気を付けた方がいいかもね」

「え? なんで?」

「なぜなら蒼くんは非常にモテます」



 すこしにやけながら唐突にそんなことを言ってくる。



「そうかなぁ。まだ二日目だよ? どうしてそんなことわかるの?」

「それはちゃんとした理由があるんだよ! いっぱいあるから、まずは理由一つ目! さっきも言った通り蒼くんは有名なんだよ、君が思ってる以上にね。だからそれだけで箔が付くんだよ」



 なるほど、確かになぁと感じながら話を聞く。



「そして理由二つ目! とてもやさしい優しい! 昨日話しているのを見ていたり、実際に話してたけど人の話をしっかり聞いてくれるし、適当にあしらったりもしない、それにすごく気配りができる!」

「それは普通でしょ。それに自分に話しかけてくれた人をできない無下にはできないよ」

「その普通ができない人が多いんだよ! だからこれができるだけでも印象が段違いなんだよ!」



 わかった?と問いかけてくるので、これからも意識していきます。というと、よろしい!満足したように言い、話を続ける。



「待ちに待った最後三つ目! これが一番かな、それはね...顔がいい!」



 いままで納得や感心していたのに急に微妙な感じになってしまった。



「あ、なんか変な感じだなっておもったでしょ!」

「いや、だって。カッコいい人がモテるのは当たり前のことじゃないのかなって、それにイケメンって言われてもそんなに実感わかないし」

「あんまり自分に自信がないんだね。もうすこし自信もとうよ。謙虚も行きすぎると

 なんとかっていうでしょ?」

「......うん。そうだね」

「それに当たり前のことって言っていたけど、いくら顔がよくても性格がやばかったらもてないんだぞ」

「そうなんだ。勉強になります」



 登校してくる人が多くなってきたのか廊下が少し騒がしい。


 それと共に話していた紬から視線を外し教室を見渡してみる。ちらちらと視線を感じるけれど昨日ほどでもない。


 教室に人が沢山いるわけでは無いから当たり前と言われれば当たり前なのだが、人が少ない割には見られてる感じがしてしまう。



 少し過剰に反応して視線に敏感になってしまっているのかもしれない。


 流し目で小鳥遊さんのことを見るが彼女はあまり気にしていないようだった。



 気づいていないってことはないだろうけど、やはり慣れているのだろうか。


 そんなことを考えていると紬が話を戻すねっと先ほどの続きを話してくれる。



「気をつけた方がいいてことについて話すんだけど、さっき蒼くんがモテるってことについて話したでしょ? これはそれにものすごく関係しているんだよ」



 少し考えてみてと言いぼくに質問してくる。



「もし蒼くんが最初からここの生徒だったって仮定しよう。蒼くんには入学してからずっと好きな人がいます。それを急に現れたイケメン転校生に奪われるって思ったらどう思う?」

「うーん。奪うって表現がよくわからないけど好きな人がほかの人を好きになったら悔しいとか悲しいとかって感じると思う、」



 うんうんと大げさに首を縦に振りながら肯定してくる



「それがここの生徒に当てはまるわけ、そして本人にはそんな自覚なさそうだし忠告!気をつけないと刺されちゃうかもよ〜?」



 冗談ぽく言ってはいるが謎に信憑性があり少し怖くなっていくのを感じる。


 そしてこの話に一つ気になることがあった。



「でもこれって僕どうしようも無くない?」



 紬に目を合わせ聞くと、僕から目をそらし考え始める。


 パァっと笑顔を作り僕に目を合わせ答える。



「うん! 無いね! どうしようもない! てことで刺されることは回避できないね!」



 満面の笑みでそう言ってくる紬が怖くてしょうがない。これだけ話して満足したのだろう、「じゃあまたね」といって紬は自分の席に戻っていった。


 そんなこんなで結構時間が経ち教室にいる生徒が多くなってきていた。



 HRがあと5分ほどで始まるのでほとんどの生徒は座っていたが、昨日一緒にいた誠がどこにも見当たらない。


 隣で読書をしていた小鳥遊さんに誠について聞いてみるとごく当たり前のように、



「彼ならもうすぐ来るわ」



 という。

 そしてその言葉がその通りとなる。

 教室の扉が勢いよく開かれ、よく知っている人物が入ってくる。そう誠だ。



 誠が「セーフ!!」と教室に響く大きな声で入ってきたことに僕が驚き教室中を見渡すが誰も驚いた様子は無く、それより「またか。」と呆れたような視線が誠に刺さるが本人は全く気にしておらず堂々と歩き自分の席へ座る。


 するとすぐに僕の方に振り返り「おはよ〜」と気の抜けたような声で挨拶してくれる。



「おはよう、誠。誠はいつもこんな時間にくるの?」

「ん? あぁそうだよ、別に家が遠いってわけじゃないんだけどさ、ギリギリまで家でダラダラ過ごしちゃうんだよな。だからいっつもこんな感じ」

「そうなんだ、でもそんなんじゃ遅刻しちゃうでしょ」

「いんや、そうでもないぞほら柊木先生って適当な人だろ? だから少しぐらい遅れたって大目に見てくれるんだよ。それにいっつもって言ったけどちょっと違うな」



 誠が先ほどの言葉を訂正する。



「どういうこと?」

「あー詳しく言うと朝練がない日はこんな感じってことだよ」

「朝練......聞いてなかったけど誠って何の部活入っているの?」


 昨日あたりからずっと疑問だったことを聞くと誠は「言ってなかったっけ?」

 と言いながら教えてくれた。



「俺がやってんのはバスケだよ」



 そういわれるとすごく納得する。誠の体は見るからに引き締まっており何かのスポーツをやっていることは予想がついていた。


 僕の誠のイメージではちょうどバスケ部で予想があっていたことが少し嬉しくなった。



 「ついでに言うと紬今日朝早かっただろ? あれ紬は朝練。女子バスケ部なんだよ」



 と誠はさらっと紬の部活も教えてくれた。そういわれると確かに早めに学校に来たはずなのに紬が教室におり、噂について知っていたのも合点がいく。


 一人で勝手に納得していると前から誠の小さく笑った音が聞こえた。



「その様子じゃ納得できたみたいだな。ほら先生来たぞ」



 そういわれたとき教室の扉からものすごく眠そうな柊木先生が入ってきた。

 それと同時に号令がかかる。



「起立 礼」

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