四話 憂鬱な朝


 ピリリリッ


 聞くだけで鳥肌が立つような聞きなれたアラームの音により、気持ちよく寝ていたところを起こされた。



「うーん...ふぅ」



 体を起こし伸びをてカーテンを開ける、雲ひとつない快晴の空から部屋の中に光が通る。


 暗かった室内が明るくなり目が開けられなくなり憂鬱感が増す。


 少し寝ぼけながらも部屋から出て階段を降り、顔を洗うために洗面所に向かう。



 洗面所に着き水を出す、冷たい水は朝の眠たい気分を吹き飛ばしてくれる。そのまま手で水を掬い顔へと運ぶ。


 同じことを何度か繰り返すとかかっていたタオルへ手を伸ばし、そのまま顔についた水を拭き取り鏡を見ながら少し寝癖のついた髪を直す。



 持っていたタオルを洗濯カゴの中に入れリビングへ歩く。母さんはまだ眠っているようなので朝ごはんと今日のお弁当を作る準備をする。



 昨日作っておいたお味噌汁を温め、その間に冷蔵庫から卵とウィンナー、鮭の切り身を2つ取り出す。


 フライパンに油をひき卵を溶く。油を広げそこに卵を流し、卵焼きを作っていく。



 それと同時にグリルの中に鮭の切り身を入れ中火で3~4分焼き、切り身を返して4~5分焼いていく。


 そうこうしてるうちに卵焼きを作り終えウィンナーを焼こうとした時、リビングのドアが開いた。



「おはよー」



 眠そうな声を出しながら母さんが入ってきた。



「もうそろそろ朝ごはんができるから先に顔洗ってきたら?」

「そうする〜」



 と言いながらまだ眠そうな目をこすり洗面所へ向かった。



 ウィンナーを焼き、グリルから焼き上がった鮭を取り出し皿に盛る。


 お弁当箱を出し炊いていたご飯と卵焼き、ウィンナーを入れ冷蔵庫からトマトなどの野菜を出し盛り付けていく。


 母さんと僕の分を作り終えたところで母さんが洗面所から帰ってきた。



「朝ごはんできたから座って」



 母さんに座るように促し、母さんはそれに従う。


 お味噌汁やご飯を運び一緒に朝ごはんを食べる。



「「いただきます」」



 黙々と食べていると正面にいる母さんから視線を感じた。



「どうかした? 今日は鮭が綺麗に焼けた気がするんだけど、そうでもない?」

「大丈夫すごくおいしいわよ」



 じゃあどうしたんだろうかと疑問に思っていると母さんは、安心したそう言った。



「最初はすごく心配だったけど昨日の感じだと大丈夫そうね、朝はいかにも緊張してますって顔してたけど帰ってきたあなたの顔はとても楽しそうだったから」

「うん、友達ができたんだ。僕が困っている時に助けてくれた」



 昨日のことを夢中になって話していた。こんな人がいるんだ。


 とても綺麗な子がいたんだ。僕を知ってる人がいたんだ。母さんはそんな話をニコニコと聞いていた。



「だからさ、母さん。心配しないで。僕は今ものすごく楽しいんだ。あ、学校の準備するね。はい、これ母さんの分お弁当」



 母さんに先程作ったお弁当を渡し2階にある自室へ向かう。


 リビングから出ていく時、母さんが何か言いたそうな表情をしていたことが目に入ったが、気にせず階段を登る。



 自分の部屋の前につき扉を開けて中に入ると、カチカチと時計の音だけが部屋に響く。


 かけてあった制服に着替え、今日の授業で使う教科書を昨日みたく忘れないように、何度か確認しながら鞄に詰めていく。


 2度ほど確認しお弁当も入れそのままリビングへ向かう。ドアを開けると、先程食べたご飯の皿を洗いながらテレビを見ている母さんがいた。



「あれ、もう出るの?」

「うんもうすぐでようかな、でもまだ時間あるからテレビでも見よーかなと思ってさ。それより洗い物やらなくてもよかったのに、もうそろそろ母さんも仕事の準備しなきゃでしょ?」

「いいのよこれくらい」



 母さんだって忙しいのに、そう思いながら「ありがとね」と言いソファに座りテレビを見る。今は天気予報をしているところだった。



「あれ、午後から雨降るみたいだよ。今はこんな天気いいのに」

「あらそうなの? 傘忘れずに持って行きなさいよ」

「うん。帰ってくる時雨だろうから母さんも気をつけてね」



 僕は午後から降る雨に気分が憂鬱になりかけたが、気を持ち直し母さんと話を続ける。



「蒼あんた好きな子できた?」

「え?」



 唐突にそんなことを言われ驚きを隠せないでいると



「あれ本当にできたの?」



 驚いたわ。そう言いながらニヤニヤとし始める



「違うって第一昨日初日だよ? そんな急に人のこと好きならないよ!」

「そう?別にいいと思うけどね。ほらよくあるじゃない一目惚れとか! それに綺麗な子がいるっていってたじゃない」

「綺麗な子はいたけど。と、とにかくそういうんじゃないんだって。そろそろ時間だし学校行ってくる!」



 そう一方的に言い放ち鞄を持って玄関へと向かう。


 靴を履きドアを開けようとすると「待った」と声がかかる。



「傘忘れてるじゃない。はいこれ」

「あぁ、ありがとう。それじゃ行ってきます」

「行ってらっしゃい。気をつけるのよ」



 玄関を出る時、玄関の戸棚にある一枚の写真立てに目がいく。

 そこにはで並んだ家族の写真が入っていた。

 もう2度と揃うことのない4人の写真が、



 ほんの一瞬胸が締め付けられるような感覚が起こるが気にしないようにして家を出る。



 家を出たところで、太陽の光が僕へと突き刺さる。


 それはとても眩しく午後から雨が降るとはまるで考えられないものだった。


 少し歩いていると同じ制服をきた学生の姿が増えてきていた。



 友達と談笑しながら歩いている人や、歩きながらスマホを触っている人などさまざまだ。まぁ多くの人は誰かと一緒に歩いているのだが。


 僕も友達がいないわけではないが誠や紬は、昨日先生と話している間にいなくなっていたし、小鳥遊さんがいつ登校しているのかも知っているわけじゃないから、必然的に登校するのは一人になってしまう。



 こんなことなら誠や紬、小鳥遊さんに連絡先でも聞いておくんだった。



 そう後悔しているところに夏の暑さがプラスされ、憂鬱になっていると急に後ろから



「おはよう、水無瀬くん」

「わぁぁ!!??」



 誰かに声をかけられた、そしてそれが不意だったこともありものすごく驚いてしまった。


 僕の絶叫が響き前を歩いていた学生達が何事かと振り返り、こちらに視線を向けていた。



「す、すいません」



 前を歩いていた学生に謝罪をして、誰だ?と思い後ろへ振り向く、そこには予想すらしたなかった人が立っていた。



「ごめんなさい。そんなに驚くとは思わなかったのよ」

「あはは、大丈夫だよ。おはよう小鳥遊さん」



 小鳥遊さんに挨拶され、急に緊張し始めてしまう。


 何を話せばいいのかわからず困りながら質問してみる。



「小鳥遊さんはいつもこの時間なの?」

「そうねそんなに細かく決めているわけではないけれど、大体このくらいの時間ね。このくらいの時間に家を出れば、学校に着いた後も時間に余裕があるからいいのよね。水無瀬くんも早いのね」

「僕も同じだよ。昨日登校した時もこのくらいの時間に家を出ていたし、その時は職員室に直行だったけど人がたくさんいた感じはしなかったし、時間に余裕を持ちたいってのも大きな理由かな」

「そう。同じような理由なのね。ところで一緒に歩いてもいいかしら?」

「うん。いいよ、じゃあ行こうか」



 平然とした表情でそう言い放つが、内心心臓がバクバクなっていてどうしていいかわからなかった。

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