三話 下校




「連絡事項だ。隣の教室は今日掃除なしな。これで帰りのHRは終わりだ。以上。あ、あと水無瀬終わったらちょっとこい、隣いるから」



 先生がめんどくさげに連絡事項をつげ日直に挨拶を促す



「起立 礼」



 ガタガタと机の下げる音が教室に響き渡る。僕は自分の机を下げると先生の元へ向かうために隣の空き教室に行く。



「失礼します」



 そういって教室に入ると椅子に座っている先生がいた。


 この人は、柊木ひいらぎ つかさ僕のクラスの担任で僕がここ学校に転校できるようにいろいろ頑張ってくれた人だ。



「お、きたか。どうだ調子は?」

「全然問題ないですよ」

「おーそうかよかったな」



 先生は僕の秘密を唯一知っている人だ。



「無理言ってすみません」

「別にいいさ。それくらいさせてくれ。でどうだここでの高校生活は?」

「楽しいですよ。友人もできたことですし」

「そうか、何かあったら言うんだぞ手遅れになったからじゃ遅いんだから」

「わかってますよ。用事、これだけなら帰りますよ」

「おぉ。帰れ帰れ」

「はーい、さようなら」



 そう口にして、教室を後にした。この後どうしようか、誠と一緒にでも帰ろうかな。そういえば誠が部活入っているのか知らないな。今日はもういなさそうだし明日にでも聞いてみようかな。



 廊下を歩いていると太陽が沈み始めていた。と言ってもまだ夏だから太陽は高い所にあるんだけど、グラウンドからは野球部の声が、少し離れた芝のグラウンドからはサッカー部の掛け声が聞こえてくる。


 少し感傷に浸っていたがその気持ちを飲みこみ玄関に向かう。高校から家までは遠くもなく近くもないといった微妙な距離である。



 歩くのが少し憂鬱だが今まで見てきた光景とは違ったものが見ることができて、非常に新鮮だ。


 玄関から出て校門に向かおうとすると、ちょうど校門から出ていく小鳥遊さんの姿があった。


 ものすごく人の目を惹きつける容姿の彼女には、玄関に残っていた男子の視線が注がれていた。彼女に声を掛けてみようかと相談する声も聞こえてくるぐらいだ。



 僕は何を思ったのかすぐに靴を履き替え少し駆け足になり校門に向かう。そして



「あ、あの!」



 そう声を掛けた、彼女は声を掛けられたことに驚きながらも



「どうかした?」



 と言葉を返してきた。



「いやその、小鳥遊さんが見えたから、小鳥遊さんも家こっち側なの?」

「そうよ。少し遠いんだけどね」

「僕も家こっちなんだ。もし、よかったらなんだけど一緒に帰らない?」



 緊張しながらもそう問いかけた。

 小鳥遊さんは沈黙して考えている様子だった。すると少しして、



「いいわよ。一緒に帰りましょうか」



 と了承してくれた。僕は嬉しさが込み上げてくるのを我慢しながら



「ありがとう」



 そう口にし小鳥遊さんと一緒に歩き始める。


 小鳥遊さんと帰れている事実に緊張しながらも、今まで見てきた景色とまるで違う通学路に新鮮さを感じていた。


 僕は少し気になったことを彼女に聞いてみた。



「小鳥遊さん。聞きたいことがあるんだけどいいかな」

「ん? 何かしら」

「あのさ、今日誠から聞いちゃったんだ1年生の時のこととか、それで小鳥遊さんが男子と関わることが、ほとんどなくなったって言われたんだけど、小鳥遊さん僕と普通に話してくれるからなんでなのかなって思って」



 小鳥遊さんは少し躊躇いながらも答えてくれる。



「......別に、男の人が嫌いとかじゃなくて深く関わりたくないってだけ、水無瀬くんはなんだろうね話しやすいのかも」

「話しやすい?」

「そう。他の男の人と違って下心丸出しで会話してきてないってわかるから。それになんか距離を感じるっていのかな?そんな感じがするんだよね」



 少し核心をつかれた気がしてドキッとしたが会話を続けていく。



「よく言われてたよ。壁を感じるって。まぁ僕の場合は嫉妬とか羨望とかが酷かったとかじゃなくて、ただ僕にはサッカーしかなかったからそれ以外のこと何もわからなかったてのが大きいかな」

「そう苦労してきたのね」

「そうでもないよ、僕は自分から一人になることを選んでいたからね。他人が原因でなったわけじゃない。僕は小鳥遊さんの方がすごいと思う」

「私だって紬がいてくれたから何とかなっていたのよ。でも確かに今思い出すとあの時期はとても辛かったわ」

「ってごめん、なんか湿っぽくなっちゃった。それにあんまり思い出したくないこと思い出させちゃったかな」



 とても申し訳なく感じて謝るが、小鳥遊さんは「ぜんぜん、大丈夫よ。」と言ってくれ、



「...それにこれで私は水無瀬君のこと、そして水無瀬君は私のこと、少しはわかったんじゃない?」



 と笑って答えてくれる。。小鳥遊さんがすこしでも僕のことを理解しようとしてくれている気がして、その言葉がすごくうれしく感じた。



「小鳥遊さんの話を聞けば聞くほど紬がいい子ってよくわかるよ」

「そうね紬はとてもいい子なの。たまにめんどくさいけど、それでも私の一番の親友。水無瀬君にも迷惑かけるだろうけどあの子のこと嫌いにならないでね」

「嫌いになるはずないさ。確かにちょっと強引なところはあるかもしれないけど、それでも僕と友達になってくれたし、それにたった一日か関わっただけだけどすごいいいこだってわかるからさ」



 僕がそういうと小鳥遊さんは少し考え込むような姿勢になり問いかけてきた。



「もしかして水無瀬君紬のこと好きになった?」



 聞かれたことが一瞬理解できずに固まってしまう。


 僕が紬を好き?どうしてそんなことになった。


 僕は動揺を隠しきれずに小鳥遊さんに質問する。



「ど、どうしてそう思うのかな?」

「え?だって水無瀬君さっきからすごく紬のこと褒めるから。それに紬はとても可愛い子だからそうなのかなって。」

「ち、違うよ確かに紬は可愛いけど僕が好きなのは、、」



 ここまで言って気が付いた、失言だ。

 焦りすぎてとてつもないことを口走りそうになってしまった。


 僕が内心焦りまくっていることに気が付かない様子で、小鳥遊さんは僕の言葉を続ける。



「僕が好きなのは?」

「...僕に好きな人はいないよ。今までそんなことには無縁だったし、作るつもりも今はないよ。」

「そう。まぁ私も無理に作る必要なんてないと思うわよ。」



 そう話していると小鳥遊さんが立ち止まり家に指をさす。



「ここ私の家だから。水無瀬くんはもっと先なの?」



 小鳥遊さんが指をさしたのは、二階建ての普通の一軒家だった。



「いや僕の家は少し戻ったところ。」

「通り過ぎていたの?言ってくれればよかったのに。」



 彼女は少し申し訳なさそうに言った。



「女の子を一人で帰らせられないよ。それに家を通り過ぎたことも話に夢中になって

 さっき気づいたんだ。」



 そう、本当に話すことに夢中になって家を通り過ぎていたことがわからなかったのだ。



「紳士なのねあなた。」

「それほどでもないよ。」

「じゃあね。水無瀬くんも早く帰った方がいいわ。」

「そうだね。そうするよ。」



 と言い踵を返そうとしたところで、立ち止まり僕は少し勇気を出した。



「あ、あの!!」



 小鳥遊さんは急に大きな声を出した僕をみて、すごく驚いたような顔をした。



「驚いたわ、どうしたの?大きな声を出して。」



 そう言われものすごく恥ずかしくなりながらも続ける。



「毎日じゃなくてもいいので、これからも一緒に帰ってくれないですか?」



 ものすごく声が震えた。



「ふふ。いいわよそのくらい。」



 小鳥遊さんは今まで見た中で一番綺麗な笑顔でそう答えた。



「じゃあ。明日学校でね。」 



 小鳥遊さんはそういうと家に入っていった。


 僕は彼女が笑った顔が忘れられず顔を赤くし立ち尽くしていた。


 少したち冷静になり、踵を返し家に帰る。

 今日はものすごく楽しかった。


 もでてないことだし、これからがとても楽しみだ

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