二話 苦労

 


「起立 礼」



 4時間目の授業終了のチャイムがなり号令の声が響く、あれから何事もなく4時間目まで過ごせた...らよかった。


 1時間目の授業が終わると同時に、また質問をするために人が押し寄せてきた。



 誠に注意されたこともあってか一気に質問したり、授業開始ギリギリまで質問されることは無くなったが、かなりの人が押し寄せてきて少し疲れた。



 そして2時間目からの授業の教科書は忘れておらず、授業を受けることができた。



 1時間目が終わった後に、しっかりと小鳥遊さんにお礼を言ったが、やはり誠が言っていた冷徹やら、話しかけても無駄なんてことはなく、きちんと話すことができた。



 特に辛いこともなく、転校初日とは思えないほど楽しく学校生活を送れていた。ここまではよかった。そうは。



 2時間目が終わった頃からだろうか、転校生が来た!とどこからか聞きつけてきたのだろう。


 他のクラスの人が教室のドアや窓からこちらを見ている。


 それも数人ではなく結構な数の人が、僕を一眼見ようと押し寄せてきていた。



 それまでの落ち着きが嘘であったかのようにたくさん質問をしてくる生徒が増えてきて、僕一人じゃ収拾がつかなくなっていったが誠という救世主が協力してくれたことによりなんとか落ち着くことができた。



 そしてやっとのことで4時間目が終わり、昼休みの時間がきた。



 教室でお弁当を広げ友達と食べようとしている人、お財布を持ち学食に行こうとする人など様々だった。



 僕はというと、いつからか自分で作るようになっていたお弁当を持参していた。


 自分の席で一人で食べようとしているところに声をかけられた。



「やっほー転校生くん」



 そう言われ顔を上げると、小鳥遊さんとは違い髪は短くて可愛いって感じの女の子がそこにはいた。



 僕が困惑しているとそこに小鳥遊さんが言葉を発する。



「ちょっとつむぎ、水無瀬くんが困ってるでしょ」

「あ、ごめんごめん! 自己紹介がまだだったね! 私の名前は渡瀬わたらせ つむぎ! 紬でいいよ!」

「水無瀬 蒼です。水無瀬でも蒼でもいいよ。よろしく渡瀬さん」

「むっ! 紬でいいって言ったでしょ!」

「いやでもそれは流石に、、」

「つ・む・ぎ!」

「は、はい、、よろしく紬」

「よろしい! これからよろしくね! 蒼くん!」

「はぁ...」



 呆れたように小鳥遊さんがため息をつき、そんなことまるで気にしてないかのように紬さんは振る舞っていた。多分これがこの人たちの日常なんだろう。



「それで、なんのようですか?」



 そう聞くと紬さんは当初の目的を思い出したかのように続けた



「お弁当一緒に食べない?」

「......はい?」

「だからお弁当! 一緒に食べよ!」



 いっている意味がわからなかった。なんでこの二人が僕をご飯に誘うんだ?



 という思いが込み上げてくる。そして何より教室にいる男子からの目線が痛かった。



 紬の声はとても大きく、僕をご飯に誘った時の声は教室に響き渡っていた。


 試行錯誤してなんとか言葉を口に出した結果



「なんで僕なんですか?」



 その言葉しか出てこなかった。

(うわーーもっとなんかあっただろなんか!なんも思いつかないけど!)

 すると



「うーん、興味が湧いたからかな!」



 そういうと近づいてきて耳元で



「蒼くんも知ってるでしょ?瑞樹ちゃんが男の子とあんまり話さないこと。

 それで瑞樹ちゃんが転校生の蒼くんと普通に話してたから気になって」



 そこで気がついた



「あれ紬って同じクラス?」

「気づいてなかったの!? それに瑞樹ちゃんの前の席だよ!!」

「え!? ごめん! 今日は別のことでいっぱいいっぱいだったから!」

「むー。まぁそれはいいけど、どうなのお弁当! 早くしないとお昼休み終わっちゃうよ!」



 どうすればいいんだ、、あ!そうだ!



「ねえ紬僕一人だと少し気がひけるから友達呼んでもいい?」

「うん! いいよ!」

「ちょっと待ってて!」



 僕は教室中を見渡しある人物を探していた。教室を見渡していたが見当たらず諦めかけた時、その人物は現れた。



 教室の扉を無造作に開け放ち教室に入ってきたのだ。


 僕はこのチャンスを逃すまいと、その人物に近づいた。



「ふぅー危なかった。もう少しで漏れるところだったー」

「誠!!」

「ん? どうした蒼そんなに慌てて」

「一緒にお弁当食べないか?」

「お、いいぜ。まさか一緒に食べる人を探してそんな慌ててたのかよ」



 と笑いながらも誠は了承してくれた。教室の扉から自分達の席に向かうと、僕と誠、紬と小鳥遊さんの机を並び終えて綺麗な四角形ができているところだった。



「え゛?」



 と誠の口からとんでもない声が出た。



「ちょっと失礼。蒼こい」

「ん? わかった。紬、小鳥遊さんちょっと待ってて」



 そういうと少し離れ誠と話す。



「おい、どういうことだこれは!」

「僕もよくわかってないんだよ」

「なんだよわかってないって! それになんで俺なんだよ!」

「だって困ったらなんでも言えって言ったじゃないか!」

「うっ、それは言ったけどこんなことになるなんて思ってなかったんだよ!」

「僕だってこんなことになるなんて思ってなかったよ! 頼む友達を助けてくれよー」

「...ふぅ、しょうがないなこれもまたとない機会だ。存分に楽しむことにするよ」

「ありがとう誠!」



 そういって待っている二人の元に歩いて行った。


 二人は席についていてお弁当を広げて待っていた。



「もう! 遅いよ!」

「ごめん紬。誠が駄々こねちゃって」

「っておい! 俺のせいにすんなよ」

「とりあえず僕もお腹すいたから食べちゃおうよ」

「そうだな」



 そう言って僕と誠も席についた。誠について紹介しようと思ったけど、どうやら3人とも1年生の時も同じクラスだったようだ。



 それに2年生が始まって結構たっているんだから、知っているのは当たり前にも近いことだった。少し意外なことに誠はどうやら紬と結構仲がいいらしい。



 顔見知りというよりは仲のいい友達と話しているようだった。



「でさ気になってることがいくつかあるんだけど聞いてもいい?」



 そう口にしたのは紬だった。



「もちろん、なんでも聞いて」

「じゃあまず一つ目! そのお弁当って自分で作ったの?」

「うん、そうだよ。中学の頃からサッカーでの遠征だったり、試合とかだったりが多くて自分で作れるようになってからは、自分で作るようにしてるんだ」

「へぇーすごいね! 私なんて料理これっぽっちもできないもん」

「まぁこればっかりは慣れだよ。僕も最初は全然上手くできなかったし」

「そういえば瑞樹ちゃんもお弁当自分で作ってるんだよね!」

「私だってそんなにうまいわけじゃないわよ。それに毎日お弁当作ってるわけじゃないし。気が向いた日に作るぐらいで、手の込んだものだって作れないし」

「うへぇーそれでもすごいとは思うぜ、俺なんか料理しようとするとなぜか全部焦げるんだよなー」

「それは誠が不器用とかじゃなくて焼く時間とかめんどくさいって思うサボり癖のせいじゃないかな」


 そんな他愛無い話を続けていると少し紬さんが、



「二つ目に聞きたいことなんだけど、、」

「ん? どうしたの?」

「いや、聞いてもいいのかなーって」



 今までの紬からは考えられないほど、慎重になった。どうしたんだろうか。



「特に聞いてほしく無いこととかはないから大丈夫だよ」

「じゃあ聞くよ? ほんとにいいの?」

「大丈夫だよ」

「わかった聞く! なんでこの赤羽高校うちに来たの? しかも8月とかいうすごい中途半端な時に」

「それは私も少し気になっていたわ。どうしてなの?」

「あ、俺も聞きたいそれサッカーめっちゃ上手くて天才! って言われてたのにさ」

「やっぱ気になるか」



 一瞬言おうか迷ったが言っても何も問題ないだろう。



「......僕、サッカーできなくなっちゃったんだよね」

「怪我とかってことか?」

「まぁそんな感じかな。うち今片親でさ、甘城も推薦で行ってそれでサッカーできなくなったら、高い学費払わなくちゃいけなくてただでさえ無理言って甘城行ったのに、これ以上母さんに無理させたくないから公立のここに来たんだよね」

「そうなのね。とても立派なことだと思うわ。それにここの学校編入試験がとても難しいと聞いたわ。よく編入できたわね」

「まぁ勉強もそれなりにできたからね」

「すげーな蒼って」

「蒼くんってなんでもできちゃうんだね!」

「......そうでもないよ、なんでもできたらよかったんだけどね」



 そんなことを話しているとお昼休みもあと5分ほどに差し掛かっていた。



 俺もみんなもお弁当を食べ終わって片付け始めていた。机を元に戻し席に着こうとすると誠から声がかけられた。



「蒼トイレ行こうぜー」

「うん、いいよ。ちょうど僕も行きたかったところだったんだ」



 トイレに向かっている途中で誠が急に真剣な顔になって



「なんかあったんだろうけど、詳しいことは聞かんわ。さっきも少しはぐらかしてたろ? ただ友達なんだからなんかあれば言えよ。こっち来たこと後悔させねぇくらい楽しい思い出作ろうな!」

「ありがとう。いつか話せるようになったら必ず話すよ」

「おう、待ってる。ちょ、ちょっと急ごうぜこのままじゃ間に合わなくなっちまう」



 トイレが終わって教室に着いた時にはもう授業が始まろうとしていた。


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