171ストライク 2人への期待
「いやぁ〜!さっきのユリアのあの一撃はスカッとしたな。」
拠点としている旅館へ帰る道中、俺がそう楽しげに笑うとミアとオーウェンも同じように笑う。
「本当だよな。あのいかついおっさんのキョトンとした顔にはマジで笑ったよ。」
「蛇みたいな人もそうだったにゃ。怖そうな人たちだったけど、ユリアちゃんのおかげで気分爽快だったにゃ。」
2人の緊張も少しは解けたみたいで何よりだと安心し、俺は今回顔を合わせたライオネルとダコンダの2人について簡単に説明する。
「いかつい方がライオネル=バッツで、ヒョロ長がダコンダ=ギースって言うらしいな。協会でもらった資料によれば2人とも獣人族と人族のハーフらしく、基礎的な身体能力は一般的な人族に比べれば高めだ。過去の実績とか詳細は試合前なんでわからないけど、今シルビアに頼んで調べてもらってるから、具体的な対策を立てるのはその後だな。」
「え?シルビアさんに?それってズルなんじゃ……」
俺の発言にミアが不安げな表情を浮かべるが、俺は特に気にする様子は見せない。
「ミア、甘いな。こんなのは向こうもやってる事だぞ。スポーツは情報戦でもあるんだからな。おそらくだけど、すでにミアの事もオーウェンの事も調べ上げられてると思うよ。例えば、ミアは体のホクロの数なんかまでしっかりとな。」
「ホ……ホクロの……数っっっ!?」
ミアは俺の発言に驚いて、守るように自分の体を抱きしめた。それがおかしくて、ついついお腹を抱えて笑ってしまう。
「ソ……ソフィア!それはセクハラって言うんだぞ!ミアちゃんにそんな事言ったらだめだろ!!」
「オーウェンについては万引きの回数とかかな。」
「僕はそんな小物じゃない!!!」
オーウェンのツッコミもなかなか面白い。それに顔を真っ赤にしながらミアに対して何やら言い訳し始めている。だけど、言い訳のために話している内容が過去にやってきた窃盗の話とか盗みの話なので、ミアが若干ひいている事にも笑いが込み上げてくる。
「ごめんごめん、2人とも。今のは冗談だから気にしないでくれ。」
「「いや!冗談になってないから!」」
俺は2人にそう謝罪して話を進めようとしたが、2人から思い切りツッコマれてしまった。しかも、笑いを堪えていたのがバレていて、2人からジト目で見られたのでちゃんと謝罪をして話を進める事にする。
「という事で、君たちの事はすでに相手に知られていると言っても過言では無いわけだ。」
「う〜ん。しかし、それだと試合でできる事は限られてくるよなぁ。」
「そうだにゃ。スキルとか全部バレている訳だし……」
2人はそう言って頭を悩ませているようだが、そんなに心配する必要もないと思っている俺は、2人よりも一歩前に出てその場で振り返る。
「そんなに悩む必要もないと、俺は思ってるよ。」
「なんでだよ。こっちの手の内は全部バレてるんだぜ?」
「そうだにゃ。相手も対策を練ってくるにゃ。厳しい戦いになるんじゃにゃいかにゃ。」
2人の言葉に俺はニヤリと笑う。
「でも、それは少し前の情報だろ?今の2人には新しく1つ得た技術があるじゃん。」
その瞬間、ミアとオーウェンは顔を見合わせた。
俺が先日2人に与えた課題。それは自分のスキルの基礎となる魔力をひとつ選んで、常に練り込んでおける状態にする事だったが、2人の進捗状況を俺はまだ聞いていない。
ただ、今の2人の顔を見る限りだと、意外とうまくいっているのかもしれない。もちろん、あえてここで確認はしない。2人にはできようができまいが、試合当日まで内緒にするようにと伝えているからだ。
「あの課題は習得できたらすごい事になるから。だから心配はいらないと思うんだよね。ライオネルもダコンダも、もちろん2人のコーチのゲイリーですら、これに関しては知らないだろうからな。」
2人はその言葉に自信に満ちた表情を浮かべている。その事に満足しつつ、俺は1つだけ付け加える。
「ちなみに言っとくけど、ユリアは無意識にそれをやっています。いやぁ〜天才って怖いよねぇ〜。」
「おい……それは今言わなくても良くないか?」
「ソフィア……意地悪いにゃ……」
いつの間にか2人の顔には、ある種の不信感が浮かんでいた。
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