154ストライク 小物と大物
「ソフィア=イクシード!あなたを協会長への侮辱及び選手引き抜きによる規定への抵触の罪で、ベスボル協会の審問会へかけさせてもらいます!」
まるでどこかの探偵の様に指を差して偉そうに豪語する協会長だが、俺にはその姿が滑稽過ぎて逆に笑いが込み上げてしまう。
自分の権力を振りかざそうとする割には、あまりにも他人任せな選択肢。あくまで想像の域を超えるものではないが、この人協会内ではそんなに力を持ってないんじゃないだろうかと疑問符すら浮かんでくる。
「……う〜ん、別にそれは構わないけどさ。俺とユリアの邪魔はしないでくれよな。」
「な……なんですか、その態度は!!訴えると言っているんですよ!?」
特に気にする事なくため息をつく俺の態度を見て、協会長は動揺しながらも再び怒りを露わにした。その横では受付嬢シャロンも同じ様に怒っており、協会長の事を舐めた態度を取る俺たちに対して完全に敵意を見せている。
だが、少し動揺しているのはミアたちも同じだった。
「ソフィア……それはさすがに不味くないか?」
オーウェンがいの一番に俺に耳打ちしてきたが、俺自身は特に心配する必要がないと思っていた。
だが、みんなの顔を見回してみると、ミアたちの心配そうな表情が目に入ってきて少し罪悪感が湧く。ここはちゃんと話しておくべきだと思うも、協会長たちにそれを聞かれたくはないので、あとでちゃんと説明する旨を伝えて協会長へと向き直った。
「もう面倒くさいから、とりあえず帰ってくれない?審問会にかけるにしても、いろいろと手続きが必要なんだろうしさ。」
「く……!ズケズケと好き勝手を言いやがって!!いいでしょう!お前たち、絶対に後悔させてやりますからね!」
「やりますからね!」
怒り心頭の協会長とシャロンはそう吐き捨てて協会へと戻って行くが、その途中で何故か足を止め、またこちらに戻って来た。その様子を不思議そうに眺めていると、協会長は少し恥ずかしげに口を開く。
「それと、協会の修理代も請求しますからね!!」
「しますからね!!」
言い忘れてたんかいと内心でツッコミを入れつつ、再びズカズカと協会へ戻っていく2人の背中を見ていたら、小物っぽさについついため息が出た。
この後、あの協会長は協会本部に掛け合って、俺の行いについて審問会とやらにかけようとするだろう。それも、ある事ない事飾りつけて俺を貶めようとするはずだ。
だが、正直言って俺はそれが実現するとは思っていなかった。その理由は協会本部の中枢がどこにあるか、という点にある。端的に言えば、本部はクレス帝国内に存在しており、そのトップはクレス帝国の皇帝なのだ。別に守って欲しいとは甚だ思っていないが、おそらくサイモンの上告はどこかのタイミングで棄却されるのではないかと想像している。
おそらくは皇帝の指示で……
「さて、邪魔者がいなくなったところで……」
サイモン協会長とシャロンが協会の中へ入って行ったのを見送ると、俺はみんなに向き直って今の予想を伝えていく。
「なるほど……ソフィアはプリベイル家と試合をした際に皇帝に目をつけられている。そういう事なのかにゃ?」
「あぁ、ルディをケルモウさんのところへ送り込んできたのも皇帝だしな。そう考えていていいと思うよ。」
「だけどさ、それはあくまでも想像の範囲だろ?もしも皇帝がサイモンの上告を受け入れたらどうするのさ!」
オーウェンが言う事にも一理ある。
先ほど俺がみんなに話した内容は、あくまでも俺の想像でしかない。なので、協会本部のトップである皇帝がサイモン協会長の上告を受け入れれば、俺は審問会にかけられるリスクもある訳だ。
だが、正直言ってそんな事は起きないと思っている。楽観的過ぎるかもしれないが、皇帝がわざわざそんな面倒臭い事を受け入れるかと言えば、おそらく答えはNOなのではないだろうか。皇帝としては俺に早く上のリーグに上がって来て欲しいからこそ、ルディを遣わせただろうし。
まぁ、想像はあくまでも想像でしかないから、この辺でやめておこうと思う。
何にせよ、俺は今できる事に対して、誰の指図も受ける事なく全力でぶつかっていくだけだ。もし仮に審問会へかけられる事になった場合、どんな処罰が待ち受けているかわからないが、結果的にどう転ぼうとも俺は気にする事なくマスターズリーグを目指すと決めているのだから、正直怖いものなんてない。
「とりあえず、そうなってから考えようぜ。まずはこの人をどうにかしないと……」
今の俺たちの会話を聞いていたんだろうか。たぶんだが、この顔はまったく聞いていなかったんだろうと推測する。
それほどまでにユリアは俺へ熱い視線を向けている。
「ユリア、とりあえずこの国に居てもどうしようもないし、いったん帝国へ帰るって事でいいかな。」
「は?バカじゃないの?なんでわざわざ帝国へ向かうわけ!?」
「いや……だから……今までの話は……」
今までの話はやはり聞いていなかった様だ。思った以上にユリアの大物感が鍛え抜かれている事に、俺ですらたじろいでしまう。
だが、ここで俺が怯んでいては今後のチームの指揮にも関わってくるし、さっさとヘラクへ帰りたい。
なので、ここはひとつ咳払いをして気を取り直し、ユリアに提案をしてみる事にする。
「わかったわかった。でも、道具もないし場所もないわけで、今ここでベスボル勝負は無理だからな。ここはひとつ、提案があるんだが……」
「提案……?何よ、言ってみなさい。」
不満げに腕を組むユリア。
対する俺はニコリと笑ってその内容を告げた。
「短距離走で勝負しようじゃないか。」
と。
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