153ストライク 訴えてやる!

「先ほどから黙って聞いていれば!!」



 互いに視線を交わしている合っている俺とユリアの様子を見ていた協会長が、突然怒り出した。



「私の事を無視するとはいいご性格ですね!あなた方は私がファイス宗国の協会長とわかってやっているんですよね!?」



 小物が使うありきたりな定型分が飛び出す。見た目が紳士的なだけに小物感とのギャップがすごい。内心でそんな事を考えつつ、とりあえず彼の言葉の続きに耳を傾ける。



「私がその気になれば、あなた方の登録権など永久に剥奪する事だってできるのです!調子に乗らない方がいいですよ!」



 もう何というか……幻滅だった。

 本当にこんな奴が協会の頂点なんだろうか。それが事実ならこの世界は前世と何も変わらないのかもしれない。大した事もしていないくせに、権力だけ振りかざす奴らが蔓延る組織がベスボル協会なのかと考えたら正直残念としか言いようがない。

 だが、逆に言えばこういう輩に対して取るべき行動はただ一つしかない事を俺は知っている。

 俺はベスボル成り上がる為にここにいる。大切な仲間たち、そして目の前にいるユリアと一緒にマスターズリーグへ行き、頂点に立つ。その為には人脈も必要だろう。資金面の援助や政界への口利きなど、権力を有した人たちとの出会いは今の俺たちにとって重要な要素であると言える。


 ぐるりと周りを見渡すと、相変わらず俺を見ているユリアの他に、ミア、オーウェン、ルディの顔が視界に入ってきた。

 彼らは俺と共に来てくれる事を選んだ仲間だ。彼らの人生を俺の判断一つで棒に振り、路頭に迷わせる事はできない。特にミアに関しては故郷を飛び出してまで、ベスボル選手を目指しているんだから。



「確かに……それは困るかな。」


「……ふ……ふふふ、そうでしょうね!」



 彼は俺が悩んでいると思ったのだろう。協会長は自分が優位に立てたと確信して笑みを浮かべる。



「わかったようで何よりです。ユリア様は、今後ファイス宗国の選手として活動してもらいます。これは決定事項ですから、私の許可なく変更はできません。まぁ、それでもユリア様とチームを組みたいのであれば、ソフィアさんも我が国で活動してみるのはいかがですか?お仲間の皆さんも喜んで受け入れさせていただきますよ。」



 冷静さを取り戻した協会長。その口調も先ほどと同じ様に優しさと饒舌さを取り戻したようだ。その横では受付嬢のシャロンも落ち着きを取り戻し、協会長の言葉にうんうんと笑顔で頷いている。



「そうだなぁ。それも面白いかもしれない……」


「ソフィア!そんにゃ事したらスーザンさんたちやケルモウさんたちが……!」


「うへ〜僕は嫌だぜ。こんな信心深い宗教国家で一生過ごすなんて。」



 俺の言葉に反論するミアとオーウェンに視線を向ける。

 オーウェンはともかく、ミアは悲しさを纏った強い眼差しを俺に向けており、彼女が何を言わんとしているのかはすぐにわかった。

 ユリアは相変わらず俺だけを見ているけど、そんな彼らの態度を見て俺は小さく笑みを浮かべてしまう。

 そして、大きく息を吐いて協会長たちへ向き直って顔を上げた。

 


「そうですね。協会長……えっと……」


「サイモンです。」


「あ〜サイモン協会長?わかりました。俺は決心がつきました。というか、もともと決心していたんですけどね。」


「そうでしょう、そうでしょう。」



 俺が今から言おうとしている事がサイモン協会長にはわかっている様で、満足げにうんうんと頷いている。

 だが、俺にはそれが滑稽で仕方なかった。今から俺が伝える事に対して、彼がどんな顔をするかと想像したら悪い笑みが浮かんでくる。それを必死に堪えながら、俺はゆっくりと、そして軽やかな口調で考えを伝えた。



「面倒くさいんだよね。そういうの。とりあえず、俺たちこの後ユリアと勝負して、それに勝ってクレス帝国に帰るわ。ユリアの選手登録の件は、帝国に帰ってから考えるから大丈夫です。」


「そうでしょう、そうで……はっ!?」



 頷いていたサイモンは、途中で俺の言葉を理解してギョッとした。その顔はあまりの衝撃に顎の骨が外れてしまった人の様で、口をパクパクさせているのは魚のコイみたいだ。



「な……なに……な……え?」



 言葉を失っている協会長の顔を笑いながら拝んでいると、今の俺の言葉にユリアが物申す。



「ちょっと!何であんたが勝つ事前提なわけ!?ふざけんじゃないわ!」


「ごめんごめん。言葉のあやってやつだな。だってさ、今のはそう言ってカッコつけるところだろ?」


「何が言葉のあやよ!本気で言ってるのがバレバレなのよ!カッコつけるとかどうでもいいけど、あんたやっぱりまじでムカつく!!」


「まぁまぁ……」



 ブチ切れのユリアを宥めていると、シャロンに呼びかけられていた協会長がやっとの事で我に返ったようだ。

 ユリアに胸ぐらを掴まれながら、俺は呆れてため息をつく。



「は……!私は今……」


「よかった!サイモン協会長!お気づきに……」


「シャ……シャロン……?そうか!私は彼らに……危うく精霊神様の下へ行きかけていました。」


「まだお行きになられるには早すぎます!」


「ありがとうございます。しかし、もう我慢なりませんね。」



 ジロリとこちらを睨みつけてくる協会長は、着ている服を正すと俺を指差してこう告げた。



「ソフィア=イクシード!あなたを協会長への侮辱及び選手引き抜きによる規定への抵触の罪で、ベスボル協会の審問会へかけさせてもらいます!」


「審問……会……?」

 


 ユリアに胸ぐらを掴まれて首を揺さぶられながら、俺は首を傾げていた。

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