143ストライク ある提案
『君は転生者で間違いないな。』
手紙の隅に書かれていた言葉。
それは俺が元いた世界、日本の言葉で書かれていた。しかも、アストラを除けばこの世界では俺しか知らないはずの秘密をなぜ皇帝が知っているのだろうか。
その事に驚きが隠せず手紙を持つ手に力が入った。手紙から目が離せずに、不安だけが心を支配していく感覚。それは今まで感じた事がない感覚だった。
だが、そんな俺の様子に気づいたミアが、近づいてきて俺の顔を覗き込んできた。
「ソフィア、大丈夫かにゃ?具合でも悪いかにゃ?顔色悪いし……」
「……え?あ……あぁ、なんでもないよ。いろいろ情報が多過ぎて整理してたとこ。」
俺が苦笑いしながらそう伝えると、ミアは少し訝しげな表情を浮かべた。
ミアはけっこう勘が鋭いところがある。獣人族特有の勘……まさに野生の勘といったところか。彼女は人のちょっとした変化を読み取ったり察したりする事が得意だった。
だが、この事実に関しては正直に伝えたところで理解はできないだろう。俺は内心でそう結論づけると、ミアに笑顔を向けた。
「本当に大丈夫だよ!心配してくれてありがとな、ミア。」
「ん……ソフィアがそういうならいいけど。困った事はちゃんと仲間に相談するのにゃ!」
彼女の言葉には毎度の事ながら心を打たれると感動してしまう。純粋でまっすぐなミアを見ていると、悩んだり迷ったりする事がバカらしくなるくらいに。
確かに今、皇帝の事をあれやこれやと推測しても何も解決はしない。俺自身が持っている情報が少な過ぎるからだ。この世界を管理する女神アストラに聞くという手もあるが、あいつはここ数年まったく干渉してこないので、すぐに打てる手ではない。
なら、今俺にできる事はベスボルで上を目指す事しかない。チームがマスターズへ上がる事ができれば、自ずと皇帝にも近づけるはずだし、そもそも彼からコンタクトを取ってきたんだ。そのうちまた、何かしらのアクションがあるだろう。
頭の中を整理した俺はミアに再度御礼を伝え、ベンチから立ち上がって皆のもとへと戻り、今後の事について話し合う事を提案した。
「では、まずは約束とおりチームの立ち上げですな。」
俺の提案に対して、ケルモウがそう笑う。
そして、ベータ、スール、ボムの3人へいくつかの指示を出し始める。
「ボム、あなたは必要書類の準備と登録料の手配、スール君は事業を進める上での予算編成案を早急に出す様に。ベータ、あなたにはチーム全体のマネジメントを任せます。よろしく頼みますぞ。」
そう指示された3人は、声を揃えてまるで軍隊の様な敬礼をケルモウへ向けた。彼らの顔はケルモウに対する忠心が浮かんでおり、彼らの信頼関係がよくわかる。
そんな中、ベータへ視線を向けてみると彼はどこか嬉しげな表情を浮かべていた。
そうして3人が去った後、その場に残っている俺、ミア、オーウェンとケルモウ、ルディの5人でチームに関する具体的な事について話し合いを始めようとしたが、そこでオーウェンが全員に疑問を投げかけた。
「ところでおっさん、こいつはどうするんだ?」
「おぉ、そうでしたな。」
ケルモウはオーウェンの指摘にしまったといった表情を浮かべたが、同時に俺はオーウェンの頭にゲンコツを食らわせた。
「痛って!!何すんだよ、ソフィア!?」
「おっさんじゃねぇだろ。ケルモウさんだ!」
「そんな細かい事、いいじゃん!」
「よくない!大事な事だ!」
「ほほほ、ソフィア殿。お気になさらずですぞ。」
俺とオーウェンのやり取りをケルモウは笑う。
それに免じて今回は許してやるが、今後の事も考えるとオーウェンにはちゃんと礼儀を教えていかないといけないなと内心で反省した。
「ルディの仕事はちゃんと決めてますぞ。この事業で必要な人材確保を担当してもらうつもりです。」
「でもさ、なんか帝国の差金みたいじゃね?」
「オーウェンの気持ちもわからんでもないが……それに関してはたぶん大丈夫だろ。」
「なんで?」
珍しくオーウェンが鋭い視線で俺に問いかけてきた。
何か帝国と因縁でもあるのだろうかと思わせるものがあるほどの視線に内心で驚きつつ、俺は淡々とその理由を説明する。
「簡単な事だよ。普通、皇帝が何かをするときは側近か貴族を使うはずだろ?自分の信頼がおける者にその役回りを任せると思うんだ。でも、ルディは貴族じゃないのにそれを任せたという事は、俺が想像するに皇帝は誰かにあれやこれやと詮索されるのが面倒くさかったんだよ。部下を使うとなんでそんな事をするのかって聞かれて面倒くさい。だから、たまたま使えそうなルディを見つけたから使った。そう考える方が妥当なだけだよ。」
「……」
オーウェンはどこか不服そうだ。
だが、小さくため息をつくと「わかった。」とだけこぼし、その様子を見ていたケルモウが仕切り直す様に口を開く。
「では、当面はベータやルディたちがサポート役にまわり、ソフィア殿、ミア殿、オーウェン殿が選手。この体制でいきますが、よろしいですかな?」
その問いかけにオーウェンを除く全員が頷いた。
とりあえず方向性が決まって何よりだ。皇帝の事はとりあえず置いておくとして、これからチーム登録を行ってベスボルのリーグへ参戦していく。そう考えたらワクワクしてきた。
いったい、どんな相手と試合ができるのか。ヒリヒリとした勝負の予感に胸を躍らせていると、ついつい顔がニヤけてしまい、ミアとオーウェンが少し呆れている。
「ソフィア殿、1つだけわたしから提案があるのですが……」
ニマニマと笑う俺に、突然ケルモウが神妙な顔でそう告げたので、すぐに表情を引き締めて彼に向き直る。
「なんですか?」
「新メンバーについてです。」
「新メンバー?」
ーーーなんかアイドルグループみたいだ
なんてふざけた事を考えていると、ケルモウが咳払いをしてその内容を口にする。
「ユリア様を加えてみてはいかがですかな?」
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