134ストライク 知りたかったら勝ってから
「え……?えぇ!!?」
オーウェンは信じられないといった様子で打席に立ちすくんでいる。なにせ、自信満々で打ち返した挙句、猛毒というえげつないスキルを追加付与した打球が簡単に捕られてしまったのだから無理もない。
誰にも捕れないだろうと鼻を高くしていた分、彼のショックは大きいようだ。
だが、それは俺も同じだった、
オーウェンのスキルの練度はかなり高く、効果としては申し分がないものだったが、あのセンターを守るルディという男はそんなスキルを纏ったボールを涼しい顔をしたまま受け止めたのだから。
しかも、捕球の瞬間、彼が何をしたのかわからなかった。ただ単に体に吸い込んだようにも見えたけど、実際のところ俺の神眼は彼の魔力すら確認できていない。
「……これは厄介だな。」
トボトボとベンチへ帰ってくるオーウェンを見ながら、俺は小さくそうこぼしつつ、ふとルディへ視線を向けた。彼はマウンドにいるベータの横まで来ており、ボムとスールに集まるように声をかけているところだった。
(作戦会議……?次の打者である俺を警戒してるってことか。)
こちらをチラチラと見ながら、4人でこそこそと何かを話しているが、それは確実に俺に関する事で間違いなさそうだった。
だが、予想外だったのは彼らの打ち合わせが終わって解散する際、ベータに代わってルディがマウンドに残った事だ。ベータは不服そうだったが、ボムとスールは納得した表情を浮かべて守備位置に戻っていく。そんな彼らを見送ったのち、打席の方へと振り返ったルディの表情には歓喜の様なものが浮かんでいた。
それはまるで、おもちゃを与えられた子供の様な笑みだった。その顔を見た瞬間、彼は俺と同類なのだと理解する。
強い相手、未知の能力、得体の知れない力への好奇心。それらは心と体を強く震わせて、自身の想いをさらに先へと推し進める。心を躍らせる勝負を渇望し続ける。それが勝敗のわからないものであればなおさらに。
「ごめん、ソフィア。」
意外と素直に謝るオーウェンに少し驚いたが、今回は真面目にやってくれたから「気にすんな。」とだけ伝えておいた。
大きく深呼吸をする。
この勝負は絶対に負けられない。じゃなきゃ、スタートラインにすら立てないのだから。
そう思うと楽しくて仕方がない。
俺はそのまま立ち上がると、手に取ったバットを握り締めてルディを一瞥する。
そして、俺は打席へと歩き出した。
・
「オーウェンのスキル……けっこうすごいと思ったのに、あの人簡単に捕っちゃったにゃ……いったい何者なんだにゃ。」
2塁ベースに立っているミアは、マウンドに立つルディの背中を見てそう呟いた。
彼を見ているとなんだかドキドキする。その原因は自分でもよくわからなかったが、彼の雰囲気からなんとなくソフィアと同じ匂いを感じているのも事実だった。
彼の背中からは自信が満ち溢れている。
絶対に負けないという強い意志と強者を前にした緊張感を楽しんでいる様子は、ソフィアのそれと同じだ。
(打席に立ってるソフィアからも同じ匂いがする。相変わらずだにゃ……)
ミアにはソフィアのどこからそんな自信が溢れてくるのかが理解できない。できないが、そんなソフィアが羨ましく感じている。
自分にはない意志の強さ。
これは今のミア自身にとって1番必要なものであり、ソフィアから学ぶべきものでもあった。
2人の勝負をこんな間近で見られるチャンスなんてまたとないチャンスである。だからこそ、ミアは2人の動作ひとつひとつに対して無意識に目を凝らして観察していた。
ミアがそんな事を考えている事など知らないソフィアが、打席に入る前に何度か素振りをすると、それを見ていたルディがここで初めて口を開く。
「綺麗なスイングだね。」
「あ……どうも。」
「君、知ってるよ。ソフィア=イクシードだろ?」
そう笑うルディに対して俺が少し怪訝な表情を見せると、彼はさらにこう告げた。
「実はね、あの試合を僕も観ていたんだ。ユリア様を相手に飄々とした態度を取る君には驚いたけど、特にあのホームランは本当にすごかった。」
「……」
「あとで聞いたら、君は無属性で偏属だって言うじゃないか!それにも本当に驚いたんだ、僕は!だってさ、選ばれなかった君があの大舞台に立ってユリア様と……いや違うか。君は選ばれていたんだよね。だから、逆境を跳ね返し、あの舞台に立ち、ユリア様と互角の勝負をして周りにその力を示したんだよね。」
「あのさ、いったい何が言いたいんだ?俺はさっさと勝負を始めたいんだけど……」
俺が選ばれている?
彼が言っている事がよくわからず、さらに怪訝な顔を浮かべた俺に対して、ルディはクスクスと笑って謝罪する。
「ごめんごめん。馬鹿にしてる訳じゃないんだから許してほしい。僕はさ、そんな君と勝負がしたくてここにいるんだ。君とベスボルで戦う事を望んで、ここに立っているのさ。」
「俺と勝負がしたい?それは全然構わないよ。俺だっていろんな相手と戦ってみたいし。だけどさ、一つだけ聞いていい?」
「もちろんさ。なんでも聞いてくれよ!答えられる事ならなんでも答えよう!」
相変わらずクスクスと笑う態度がなんとなく気に食わないが、今イライラしても無駄だろう。
俺は心を落ち着かせながら、浮かんだ疑問をルディへとぶつけた。
「あんた、本当にケルモウさんところの社員?なんかベータさんたちとは違うなって思うんだけど。」
俺の言葉にルディは一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐにニンマリと笑ってこう言い放った。
「その事については、僕に勝てたら教えてあげるよ。あ〜このセリフ、一回言ってみたかったんだよね。」
それは悪役がよく使うセリフでは?
そう思いつつ、打席に入ってバットを構えた俺に対して、ルディは笑いながら大きくワインドアップの態勢をとった。
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