133ストライク 魅せる!オーウェン?
「これがクリムゾン・キャノンだぁぁぁぁぁ!」
そう叫ぶベータの体が巨大化している様子が窺えた。
通常よりも膨らんだ筋肉は、まるでボディービルダーの様にも見える。神眼で確認した限り、彼の魔力は火属性のみであり、その魔力を通した血液を全身にくまなく送る事で体中の筋肉を膨張させ、単純な筋力を向上させている。
そして、注ぐ魔力を大幅に増やし、まるで炎を纏った鉄球の様な威力であるボールの制御を可能としているのだ。
魔力は使用する量が多ければ多いほど制御が難しくなる。そして、それを支えるのは自分自身の体のみであり、身の丈に合った魔力操作が求められる訳だが、彼はそれを火属性の魔力のみで行っている。
これはとてもすごい事だという事を俺は知っている。
この世界の生き物はそのほとんどが属性を1つしか持っていないが、中でも人族はその傾向が特に強い。そして、身体的にそれほど強い種族ではないから、一度に使用できる魔力量が他の種族に比べて少ないのだ。
ただ、この世界では戦争などの争いはほとんど起こった事がないらしいので、みんな自分の生活や仕事でその魔力とスキルを活かして生きているから特に問題はないみたいだけど。
もちろん、選ばれた人間はどこにでもいるものだ。
俺の父ジルベルトや冒険者たちの様に、魔物から人々を守る仕事をする者たちは大抵は2つ以上の属性を有している。もちろん、ベスボルの世界に身を置く者たちも。
「あのスキルは鍛錬の賜物って事だな。」
オーウェンめがけて飛んでいく大きな炎の鉄球を見ながら、俺は小さく呟いた。
彼らにもプライドはあり、目指すべきものがある。そして、それを実現する為にこれまでたくさんの辛い訓練もこなしてきたのだろう。時には挫折する事だってあったはずだ。
俺もそういう世界に身を置いてきたからこそ、ベータの想いを感じる事ができた。
だが……
「それでもこの世界は厳しいんだよ。努力は報われるなんて事は絶対じゃないし、勝負の世界の仕組みはその想いを簡単に打ち砕くんだ。」
オーウェンに視線を移すと、相変わらずすました顔で構えているが、練っている魔力量は尋常ではない。彼もまた、目の前に襲いくるスキルの強大さを理解しているのだ。だからこそ、本気で打ち返す為のスキルを発動するための準備をしている。
今回の勝負は短期決戦。
出し惜しみしている暇などはない。
それをオーウェンが理解してくれている事が嬉しかった。ほぼ無理やりにチームに引き込んだというのに、その動機はミアの気を引く事かもしれないが、一緒に戦ってくれる事に感謝する。
「小僧!!黙って見ているだけではこの球は打ち返せんぞ!!」
「……」
ベータが挑発する様にそう言い放つが、オーウェンはそれでも表情を変えずに、轟音と共に向かい来る巨大な火球をじっと見据えている。
そして、ベータのスキルがまもなくオーウェンがいる打席へ到達すると思われた頃、オーウェンの体から紫色のオーラが打席から湧き上がった。それはまるで意識がある様な動きをする無数の触手で、ウネウネと動き回るとそのまま目の前の火球へと喰らい付く。
「なっ……!?」
相手の思いがけないスキルの発動に再び驚きを露わにするベータに対して、オーウェンがその表情を崩して口元に笑みを浮かべた。
「どんなにすごいスキルでもさ、魔力が無くなればただのボールだろ?」
その言葉のとおり、ボールが纏っていた炎が一瞬で消える。あれだけ巨大だった炎のボールは、纏っていた全ての魔力を触手に吸収され、その白肌をオーウェンの目の前に晒した。
「併せてスキル発動!!ヴェノムショットだ!!」
ニンマリと笑ったオーウェンが、さらなるスキルを発動して動きを遅くした白球を打ち抜いた。センターとレフトの間に向かって勢いよく飛んでいく打球には、紫と緑のネバネバしたものが張り付いており、コポコポと泡を立てている。
「捕球されたらだめなら、捕球されない様にすればいいじゃん!!」
ボールの様子からもそうだが、オーウェンの言葉からもわかるとおり、やつはボールに毒を纏わせていた。しかも、あれは触れば速攻で死に至るほどの猛毒だと神眼が分析する。
「オーウェン、お前!相手を殺す気か!!」
「大丈夫大丈夫!触らなければ良いんだからね。」
まるで悪びれた様子もなく笑うオーウェンを見て、大きなため息が出てしまう。
やはり考え方は悪党のままの様だ。あとでちゃんと注意しておかないと、今後は本当に死人が出てしまうかもしれない。
そう呆れながら打球の行末を追ってみると、センターを守っていたルディが打球を追いかけている姿を確認して驚いた。
(打球を追ってる!?まさかあれを捕る気なのか?)
猛毒を纏ったまま飛んでいくボールを、無駄な動きひとつなく追いかけるルディの顔には笑みが浮かんでいる。
彼は明らかにあれを捕球する気だ。だが、触れば一瞬で死に至るスキルを攻略する術があるのだろうか。俺の頭に一瞬嫌な予感がよぎった。
だが……
Sゾーンがアウトの判定を告げる。
視線の先には何事もなかったかの様にボールを投げ返すルディがいた。
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