132ストライク 不敵に笑う
(ソフィアの言ったとおり、ど真ん中にゃ!!)
ミアは魔力感知を発動し、自分に向かって飛んでくるボールへ意識を集中させていた。真っ赤に燃え盛るボールは確かに驚異的な速さだったが、目で追えないほどのものでもない。
そう思っている自分に驚きつつも、冷静さを保ったままタイミングを合わせて握っていたバットをボールの軌道に載せた。
(インパクトの瞬間に力を……にゃ!!)
ソフィアから教えてもらった打ち方を頭の中で反芻しながら、バットがボールとぶつかる瞬間を見定め様と躍起になっていると、思っていた以上に自分のスイング速度が速い事に気づいた。が、今さらそれをどうこうできるはずもないので、観念して思い切り振り抜く事に決める。
「にゃあ゛あ゛!!」
バットにボールが当たる感覚はまるで透き通った音色の様だった。キンッという小さな音だけが自分の腕を伝い、体全身に拡がっていく。それは静寂に近いもので、今まで感じた事がないほどに気持ちの良いものだった。
もちろん、ボール自体は轟音を響かせながらフェンスに突き刺さったが、ミアはそれに気づかないほどに今の感覚に感動を覚え、余韻に浸っていた。
(な……なんて気持ちがいいにゃ……これがバットで打つ感覚かにゃ……)
打撃というものが必ずしもこうであるとは限らない。バットのどの部分で打つかによって、双方がぶつかり合う衝撃が手に伝わってくる事は少なくないからだ。
野球ではよくホームラン打った時に「感触がなかった」という話をよく耳にするが、これはバットの真芯でボールを捉える事で反発力が全てボールに伝わって起こる現象である。
もちろん、これが常に可能となればホームランやヒットを量産できるようになるのが道理であるかもしれないが、そこにはバットの角度など他にも重要な要因が必要である為、簡単にはいかないところが醍醐味の一つでもある。
説明が長くなったが、とにかくミアにとって今の感触は忘れられないものになるだろう。
そして、それは今後のミアの成長に大きく影響していくはずだ。
「な……なんだ……と……?」
マウンドでは、ベータがレフト側のフェンスを見据えたまま肩を震わせている。打たれた事実とミアの打球の勢いに驚きが隠せない様で、それはボムやスールも同じだった。
ただ1人、ルディだけはセンター付近で微動だにせず腕を組んで立っており、神眼で確認したその表情には笑みが浮かんでいた。
(あいつ……笑ってる。)
ルディの態度に震えが襲う。もちろん、恐怖からではなく武者震いというやつだ。
彼の実力はまだ未知数だが、直接やり合いたい気持ちが湧き上がってきた。それを必死に抑えていると、Sゾーンが今のミアの打球に対する判定を「2塁打」と下す。
ベスボルでの基本ルールに、打った後の走塁はない。
打席の結果はボールの行方が決める為、バッターは打った後に走る必要はなく、その結果はSゾーンが判定する。
俺としては打った後の走塁にこそ駆け引きがあるから、それがないのは物足りないと感じているが、ルールはルールなので文句は言えない。
ミアが2塁ベースへ到着した事を確認し、今度はオーウェンの背中を軽く叩いて送り出す。
「よし!良い流れだ!オーウェン、頼むぜ!」
「へ〜い。とりあえず、ミアちゃんを進塁させれば良いんだろ?」
立ち上がり、やる気無さそうにそう告げるオーウェンだが、バットをとって打席へ向かうその背中を見ていると、不思議と期待が持てた。
一方で打たれた事を悔やんでいるベータに対して、セカンドを守るボムが彼を鼓舞する様に檄を飛ばしている。
「ヒット打たれたぐらいで……メンタル豆腐だな。」
そんな様子を見て、誰にも聞かれない事を良いことに 1人鼻で笑う。誰かに見られたらかなり性格が悪いやつと思われるだろうけど。
「オーウェン!相手は動揺してるぞ!ここは1点取りにいけるぞ!!」
「調子に乗りやがって。」
打席の前について素振りをしているオーウェンに俺が声をかけると、それを聞いていたベータが苛立った表情を浮かべている。
だが、こういった事も駆け引きの1つである。
Sゾーンが再び試合再開を合図で告げる。オーウェンが打席に立って構えると、ベータは投げるボールを思案する様に腰を落としてセットポジションをとる。
「さて……オーウェンの実力がこれでわかるな。」
神眼を発動して彼を見ると、魔属性の魔力がしっかりと練り上げられている事がわかった。
さすがは元小悪党。死線もいくつか乗り越えてはきただろうから、これくらいの場面では緊張はしない様だ。普段はごちゃごちゃとうるさいし臆病なくせに、こういう場面ではちゃんと真面目な顔を浮かべている。
その事にちょっと笑ってしまった。
こういうのをギャップ萌えと言うのだろうか。いや、オーウェンには萌えないな。だが、彼にもプライドがちゃんとある事に安堵した。
「ここからは絶対に打たせないからな。この事業は俺たちが担うんだ。」
ベータは放つスキルを決めた様だ。そうこぼしてオーウェンを睨むと、大きく息を吐いて投球モーションに移る。
対するオーウェンは特にしゃべる事はなく、すました顔のまま静かに構えている。
「これが俺の最強スキルだ!!クリムゾン・キャノォォォン!!!」
腕と体を大きくしならせながら、ベータはそう叫んだ。その瞬間、先ほどのフレイムショットとは比べ物にならないほど大きさの炎が、ボールを包み込んでオーウェンめがけて放たれた。
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